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四 ライラという少女

「そこ、間違えていないか?」

「え……あ、本当だ」


 ウィズは今、就寝前に宿題と明日の予習をしており、俺はその隣で様子を見ていた。





 先ほど「お風呂に行くから、ついてこい」って言われた時は驚いた。

部屋にお風呂は付いておらず、恐らく大浴場でもあるのだろうが、他の男子生徒ももちろん利用するはずだ。


 それに俺について来いとは、どういう意味か分からず心配と心臓の高鳴りが止まらない。

幽霊だから心臓は既に止まっているはずなのだが。


 部屋を出る前に、俺に廊下に誰もいないかを確かめさせてからウィズは部屋を出た。

階段の壁に“大浴場”と書かれたプレートと下の階を示す矢印があったのだが、ウィズは上への階段を進んでいく。

更にもう一階上がり、四階の廊下の隅の部屋の扉をノックする。


 ここまで来るのに、人目を避けるため俺は何度となく、人がいないかをチェックしてきた。

この部屋へと来るのに、人目は不味いのだろう、部屋の中から出てきたのは何処かで見た中年の女性だった。


「いつも、すいません。ハッシュさん」


 ウィズの挨拶で思い出す。食堂にいた寮母のハッシュさんだ。


「いいのよ、ウィズちゃん」

()()()は止めてよ」


 頬を赤くして照れる今のウィズは、少年というより少女の雰囲気を醸し出しており、ハッシュという女性はウィズのことを知っているのだと察した。


「お風呂なら沸いているわよ」

「ありがとう、ハッシュさん」


 なるほどと思った。ハッシュという人はこの寮唯一の女性だ。部屋にお風呂が完備されていてもおかしくない。


 やはり、この人はウィズの本当の性別を知っているのだなと確信した。

俺は彼女に興味が出て、いつもはなるべく見ないようにしている、頭上の情報を見てみた。


名前[ハッシュ・ランドロフ]

種族[ドワーフハーフ]

年齢[四十一]

性別[女性]

宗教[レビル]

技能[準魔法][初級槌術][初級斧術][調理レベル24][子煩悩][家事スキル37][力補正レベル5]


 おお、すごい。ドワーフは生まれて初めて見た。

生まれてまだ一日だが。

ハーフだからなのか、人間と姿は変わらない。

言われなくてはわからないほどだ。

それにしても、ドワーフというと鍛冶が得意なイメージを抱いたが、彼女は家事が得意なようだ。


 子煩悩も技能に入るのかという疑問は置いておくとして、寮母としての才能は溢れているようだ。


「さぁ、お風呂入るかなぁ!」

「どうしたのウィズちゃん?」


 俺に出ていけと気づかせようと、然り気無く言ったのだろうが、ハッシュさんにはおかしくなったかと思われたようだ。

俺はクスクスと笑いながら出ていく。


 ウィズが風呂に入っている間、時間が出来てしまい俺は、これからどうするか考える。


 やっぱり自分が何者なのかが知りたい。それがまず大前提だが、正直何の手もない。

情報を集めたくても、俺と会話出来る者はウィズだけだ。

何より俺には知識が無い。

無いわけではないが、(もや)がかかって思い出せない。

そう言えばウィズは、学校を出たらどうするのだろうか。


「ありがとうございました、ハッシュさん」


 色々考えているうちに随分時間が経ったようだ。

ウィズの近くにいくと、とても良い匂いがする。

風呂上がりの濡れ髪が、妙に色っぽい。


 俺は率先して、人がいないか確認しながらウィズを自室へと導く。

まるで騎士にでもなった気分だ。


「ファン、ありがとう」


 部屋に戻るとウィズから礼を言われて俺は、舞い踊りたくなる。


「今から勉強するから、邪魔するなよ」


 ウィズに釘を刺されたが、邪魔しないから隣で見たいと頼むと渋々許諾してくれた。


「そこ、間違えていないか」

「え……あ、本当だ」


 理由はわからないが、なんとなく間違えている気がして、つい口を出してしまい怒られないだろうか。顔を確認すると特に怒っている様子はなく、胸を撫で下ろす。


「ファン、勉強できるんだな」


 俺は否定する。なんとなく違っている気がしただけだと話すと、ウィズは手を止めて椅子にもたれながら、俺を見る。


「あのな、ファン。それは恐らく元々知識にあったからだろ。謙遜は時には人を馬鹿にしていることになるんだ、覚えておけよ」


 怒られた訳ではなく、叱られるというのがこれ程嬉しいものかと、俺は思わずウィズに抱きつく。

とは言え、通りすぎるのだが。


「こら、ノート見えないだろ! 離れろ!」

「ウィズ、ありがとう」

「ったく。もし、また間違えてそうなら教えろよ」


 俺は「もちろんだ」と、ウィズから離れると再び隣で勉強を見ているのだった。


 時計は既に夜の十二時を回っており、ウィズが大きな伸びをする。


 勉強が終わったらしく、ノートや教科書を鞄にしまうと、部屋の入口付近にあるランプの灯りを吹き消す。


「ファン。ボクが寝ている間に変なことするなよ」


 絶対しないと誓うと、ウィズはベッドへと入り目を瞑る。ベッドの側にあり、今唯一明かりを灯しているランプを消そうとすると、ウィズが目を開ける


「そこは消すなよ、絶対だぞ」


 注意するとウィズは再び目を瞑る。

幽霊だからか、俺は全然眠くならずウィズの可愛い寝顔を眺め続ける。

すると、再び目を開ける。


「ずっと、人の顔を見るな! 気が散って寝れないだろ!」


 ウィズは布団を頭まで被ってしまった。


 暇になったが、俺はウィズの側から離れたくなかった。

戻って来た時、もしウィズが居なくなっていたらと考えてしまって部屋を彷徨く。

今の俺はとっても幽霊っぽいんじゃないのだろうか。


 ウィズの布団から寝息が聞こえ始めると、暑かったのか自分で布団を頭から外す。

そして俺は一晩中ウィズの寝顔を眺めながら朝を待つのだった。





 藍色のカーテンの隙間から光が飛び込んできてウィズの瞼を刺激するとピクリと動き「ん……」と熱のこもった吐息を漏らす。


 瞼を擦りながら体を起こしたウィズは、腕を上に伸ばし大きく伸びをする。


「おはよう、ウィズ」

「おはよう、ファン」


 まるで今までずっと一緒だったかのように自然な挨拶を交わすと、俺は慌てて黙って部屋を出ていく。

寝惚けているのだろうが、いきなり服を脱ごうとしだしたのには驚いた。


「わぁっ!」


 俺が出ていったタイミングで部屋の中から悲鳴に似た声が聞こえた。

多分、寝惚けから覚めて自分が服を脱いでいるのに気づいたのだろう。


「ファン、見たか?」


 扉を開けて出て来たウィズは、白い制服に身を包み鞄を肩にかけていた。

ウィズが睨んでいるので「見ていない」と弁明する。

しばらく疑わしい目で見てきたが「わかった」と俺の横を通りすぎていく。


「おはよーさん」

「おはよう、ライト」


 食堂に入ると、ウィズと同じ制服に身を包んだライトが待ち構えていた。


「ウィズ、教室着いたら宿題見せてくれ」

「嫌だけど」


 二人はいつもこんなやり取りをしているのだろう。朝食を食べ終えると二人仲良く学校へと向かう。


「邪魔だ!」


 突然ウィズは肩を押されて倒れそうになる。なんとか転びはしなかったものの、ぶつかってきたのは昨日食堂でライトと揉めたあの岩みたいな顔をした少年だ。


 俺とライトが頭にきて飛びかかる。それを慌ててウィズが止めに入った。

もちろん、俺は止まらない。

殴る蹴るの暴行を加える。

しかし、全てはすり抜けていく。ウィズが止めたのもライトだけだ。


 今ほど、この体が恨めしいと思ったことはない。


「けっ! 男なら根性見せろや!」


 そう吐き捨て去っていく後ろ姿に、俺は悔しさを滲ませる。

祟り方が分かれば、祟ってやりたい。


 ライトも興奮冷めやらずといった感じである。

しかし、やっぱりウィズにまでちょっかい出してきた。

これからまた何かしてくるかもしれないと、俺は一抹の不安を覚えるのだった。





「ウィズくん、おはよう」


 教室に入り、ウィズが自分の席に鞄を置くなり、話かけてきた少女。

背中まで伸びたウェーブのシルバーブロンドの髪が窓から差し込む太陽の光が反射する。

ウィズと同じブルーサファイアの瞳でウィズを熱のこもった視線で見つめ、薄いサーモンピンクの唇が開かれる。


 くねくねと体と頭を捻るので上手く頭上の情報が見えないが、恐らく彼女がライラだろう。


「ライラ、人と話す時は真っ直ぐにしろ!」


 ウィズに怒られるも平然としている。若干つり目であるところから、気が強そうだ。


名前[ライラ・ソリッド]

種族[人間]

年齢[十二]

性別[女性]

宗教[ガーランド]

技能[準魔法][中級魔法][魔力補正レベル7][魔力回復レベル3][初級杖術]


 基準がわからないが、この歳で中級魔法って凄くないだろうか。

それに、このライラという少女、大人顔負けのスタイルをしている。

少なくとも昨日見たアイナス先生より、断然大きい。


 スタイルだけでなく、将来美人になると思う。

ライトやあの先輩が惚れるのも分からなくはない。

ウィズ達の世代なら容姿だけでも、惚れるヤツは多いだろう。


 ウィズが今までライトに女性だとバレない理由が分かった気がする。

ウィズは仕草やシチュエーションで時折女性っぽい色気を出すが、それには気づかないお子様だからだ。

もしかしたら、気をつけなければならないのは、大人、もしくは同性の女性なのかもしれない。


「ね、ねぇ、ウィズくんは、その……後夜祭、誰を……」


 ライラが体をもじもじしながら、昨日話をしていた後夜祭の事を聞いている。

ライトの言っていたように、彼女はウィズが好きみたいだ。


「ライラ、ちょっといいか」


 ライトが強引に腕を引きライラを教室の後ろに連れていく。

どうやら、ライトが先手を打つみたいで俺も後をつける。


「ファン、やめろ」


 ウィズに止められてしまった。そういうのは野暮だぞと怒られてしまう。

とは言え、結果は目に見えておりライトはガックリと肩を落としている様子から駄目だったみたいだ。

いや、また食い下がっている。

ライラは、少し考える素振りを見せ……


「ウィズ。どうやらライトのやつ上手くいったみたいだぞ」

「本当か!?」


 俺と違い、ライト達を見ないようにしていたウィズも振り返る。そこにはライトが拳を握って喜んでいる姿があった。

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