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三 ウィズという少年

「出ていけ……」


 ようやくウィズと友達になれて浮かれていた俺にこの仕打ちはあんまりだ。

せっかくウィズの部屋に居られると思ったのにいきなり出てけとは。


「制服を着替えるんだよ! 早く、出てけ!」


 ついさっき着替える時は出ていくと、約束したばかりだ。

俺は部屋の前の廊下に出ようとするが、「そういや、お前さ……」と呼び止められて振り返ると、雪のような白い肌の背中が見えた。


「わ! ばか、こっち見るな!」


 前を腕で隠して、鈴を鳴らすような少女の声を出したウィズが本を投げつけてくる。

しかし、幽霊の俺には無意味で本は俺を通り抜けていく。


「早く、出ろ! ばかぁ!」


 俺は慌てて廊下に出ていくと、改めてウィズは女の子なのだなと、雪のような白く透き通った背中を思い出す。


「おい! さっき見たのは忘れろ」


 ウィズが部屋の中から声をかけてくる。俺は一言「わかった」と答えたが、それは土台無理な話だと思った。


「もういいぞ」


 許可が出て俺は部屋に入っていく。ウィズは青いシャツに短パンという格好でいたのだが、その肢体はどこか艶かしさが隠せていない。

ちょうど、少女は大人の女性へと変貌していく時期だ。

このまま男の子で通すのは、厳しくなっていく。


「あんまりジロジロ見るな」


 胸元を手で隠す仕草など、まさしく女性そのものだ。

よく今まで隠せたなと俺は逆に感心してしまった。


「それで、さっきは何故呼び止めたのだ?」

「あ、ああ。いや、お前って呼ぶのもあれだからな。名前……はわからないんだっけか?」


 話の流れから何を言わんとするか分かり、俺は何度も首を縦に振り続ける。


「じゃあ、ボクが付けてもいいか?」

「もちろんだ! ありがとう、ウィズ!」


 俺は声を大にして、部屋の中を舞い踊る。


「ばか……声、大きい」

「大丈夫だ、俺の声はウィズにしか聞こえない!」


 俺は再び舞い続け、その間ウィズが名前を考えていた。


「うーん、幽霊だから、ファントム──そうだ、ファンってのはどうだ?」

「ファン!! いい名前だ、気に入った! これから俺はファンだ! ファンと呼べ、ウィズ!」


 気に入った俺は、ジャンプしベッドの上空でクワッドアクセル(四回転半)を決めると、勢い余りそのまま壁の中へと吸い込まれた。


「おい、ファン! 何やってんだよ。行くぞ」

「ちょっと待ってくれ」


 部屋から出ていくウィズの後を俺は追っていく。

「どこに行くんだ?」と聞くと「食堂だ」と言われて俺は重要な事を気づいた。


「俺って、ご飯食えるのか?」

「そんなのボクが知るわけ無いだろう」


 ウィズの言うことは尤もだった。


 食堂には多くの少年達がおり、ウィズみたいに私服に着替えた子も居れば、制服のままの子と、お風呂上がりなのか上半身裸なんて子もいる。

さすがに裸の子は、中年の女性に怒られて部屋に戻っていったが。


「ウィズ、あの女性は?」

「寮母のハッシュさん。この人数のご飯を一人で用意してくれているんだ」

「へー、そりゃ凄い」


 食堂に入るや否や小声でひそひそと話す俺達の方を、多くの少年達が見てくる。

もしかして俺が見えるのかと思ったのだが、よく考えると真っ黒な人型の俺を見て驚かないはずはない。

少年達には、そんな様子は見受けられず、どちらかと言えば、ウィズの身体をジロジロ見ているように見えた。


「ウィズー! メシ行くなら、誘えよー!」

「ライト」


 ウィズの背後から突然、腕を肩に絡ませてくる少年が現れる。

茶色の短い髪が針のように立っているライトと呼んだ少年に、困った顔をしつつも何処と無く嬉しそうで、俺は嫉妬の炎を燃やす。


名前[ライト・ノーブル]

種族[人間]

年齢[十二]

性別[男性]

宗教[ガーランド]

技能[初級剣術][初級槍術][初級格闘術][力補正レベル3][敏捷補正レベル1][体力補正レベル3]


 ライトという少年は、ウィズと同じ歳でありながらかなり背丈もあり体格もがっしりとしている。

そのまま拉致される格好で連れていかれるウィズの後を追う。


「げっ! 野菜ばっかかよ」

「ライト、好き嫌いは駄目だ」


 どうやらトレイ持って主菜、副菜、汁物、そしてパンと取って行く仕組みみたいだ。

ウィズとライトも列に並び、トレイを持つ。


「ちくしょう!」


 俺も同じようにトレイを持とうとするが、すり抜けてしまった。

ご飯を食べれる食べれないの前に、皿を持つことも出来ない。


 ウィズ達は四人がけのテーブルに座ると、美味しそうにご飯を食べ始めた。

美味しそうに見えるのだが、一向に空腹の気配はない。

やはり俺にはご飯を食べる必要は無いみたいで、少し寂しくも二度と空腹の苦しみを感じなくて済むのだとホッとした自分がいた。


「もうすぐ収穫祭だな、ウィズ。ウィズは何に出るんだ?」


 収穫祭。お祭りでもあるのだろうかとウィズに今すぐ聞いてみたいが食事中や人目もあるから、後で聞くことに決め今はじっとウィズを見る。


「うーん、やっぱり魔法かな。成績には関係ないけど優勝でもしたら箔が付くし」

「えー、俺と剣術にしようぜ」

「絶対嫌だね、ライトに勝ったことないからな」


 とても収穫祭の話とは思えない。どんなお祭りなのか気になって、気になって周りをウロウロしながらウィズを見続けた。


「大体五穀豊穣を願う祭りなのに、何で剣術対決とか、魔法対決やるんだろうなぁ!」


 突然ウィズが収穫祭の説明をしてくれる。

まさに以心伝心だ。


「ウィズ、どうした急に」

「う……な、なんでもない! 耐えられなかっただけだ」


 顔を赤く染めたウィズは、ライトからそっぽを向く(てい)で俺の方を向いて睨んできた。


「あとは、後夜祭か。今年は誰か誘うんだろ、ウィズ」

「俺はいいよ、興味ない。ライトは、またライラか?」

「おう! 当たって砕けろだぜ!」

「わかった。骨は拾ってやるよ。骨壺大きめがいいか?」

「何で、死ぬ前提なんだよ! 物理的に砕けるか!」


 話の内容からすると、どうやら後夜祭というのは、女の子を誘って何かするらしい。

ライトはライラって子が好きみたいだが、ウィズは女の子だからな。

ただ、ウィズの様子を見ると興味がないわけじゃなさそうで、どちらかと言えば無いふりをしているみたいだった。


 二人が楽しくお喋りをしている間、暇になった俺は、食堂内を彷徨(うろつ)くが面白そうなものは何もない。

ウィズといるのが、やっぱり一番だなと思い元の場所へと戻ると何やら騒がしくなっていた。


「だから嫌だって言ってんだろ!」

「うるせぇ! 先輩の俺に譲れって言ってんだろが!」


 喧嘩かと人混みの上から覗く。

ライトより背は高く、岩のようにゴツゴツした輪郭をしている年上と思わしき少年がライトに掴みかかっていた。


「何があったんだ、ウィズ」


 ウィズの隣に行き事情を聞くと、小声で話してくれた。


「ライラの取り合い。あの先輩がライトにライラを後夜祭に誘うなって、馬鹿らしい話さ」

「そのライラって子は、相当モテるな」

「うっ……まぁ、そうだな」


 何故か気まずそうな表情を見せるウィズ。ライラとウィズの間に何かあるのだろうか。


「ちょっと、君たち何やってるの!」


 寮母のハッシュという女性が仲裁に入る。

さすがに食堂であれだけ大きい声で話をすると迷惑だからな。

ライトと少年は互いに離されライトは、此方に戻ってくる。

ゴツゴツした輪郭の少年がこちらを睨んでいる所を見ると、納得はしてないみたいだ。


「全く、ライトは突っ走りすぎなんだよ」

「いやぁ、済まねぇ。ついカッとなってな。正直、あの先輩も振られるのは確定しているし、カッとなる必要もなかったな」

「ごめん……」

「ばっか。謝る必要なんかねぇよ。ライラがウィズを好きなのは前々からじゃねぇか」


 部屋へと戻る途中、二人の話を聞きながら俺は後ろをついていく。

どうやらウィズの一人勝ちらしい。

先ほどの気まずい表情の答えはコレだったのかと納得した。


「はぁー……」


 部屋に入るとウィズはベッドにダイブして大きなため息を吐く。


「ウィズ、大丈夫か!?」

「疲れた……」


 そう言うと再び大きなため息を吐くと、起き上がり枕を抱き締めてベッドに腰をかける。


「なぁ、ファン……」


 ウィズから話かけられ、俺は隣に腰をおろす。


「なんだ?」

「ボクには、ライトと先輩の考えがわからない。譲れって言う先輩も、譲らないって言うライトも。大事なのはライラの気持ちなのに」


 俺にもわからない。何せ恋愛などしていたかどうかも覚えていない。

ただ、ウィズが言っていることは正しいのだろうと、俺も思う。


「そうだな。あれは、恐らく見栄とか、プライドとかそういうのではないだろうか」

「はっ! くだらないな」とウィズは一蹴するとベッドにそのまま横になる。


「ただ、あの先輩とか言うのには気をつけた方がいい。ライラって子がウィズを好きなのを知ったら、絶対絡んでくる」

「だよなー。面倒なことにならなければいいけど」

「モテモテだな、ウィズ。ライラにも先輩にも」


「うるさい! 次言ったら、絶交だぞ!」と枕を投げつけてきた。


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