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第八話 初デート①

「デートにジャージで来るとか…………マジないわ」

「いやあ、どうせ荷物持ちだし動きやすいほうがいいと思って…………はぁ、ごめん。実はこれにはやむにやまれぬ深い事情がありましてというか、こちらとしても誠に恐縮ですというか……」


 のっけから平身低頭。確かにこれは俺が愚かだったと言うしかない。

 つーか、やはりこれはデートだったのか。驚きだ。


 でもデートかどうか以前に、他人との外出で上下ジャージはねーだろって。

 確かに昨日の夜、叔母さんに煽られて色々とムキになってしまったところがあるけれども。いくらなんでもジャージはねーよ、このばかちんが。ちなみにこのジャージ、普段運動しないため結構ピカピカである。


 勿論というか、橘は目に見えて不満げだった。

 かすかに「んー…………」と唸り声をもらしながら唇を尖らせている。


 どうやら、俺による今世紀最大級のチョンボを一発ギャグとして笑って処理してくれる気は微塵もないらしい。

“マジで笑えねーよ、童貞”――目でそう言っている。生きててごめんなさい。


「……ほんと、すいませんっした…………」


 いっそ土下座しそうな勢いで、俺は肩を落とした。


 どう説明すればいいだろうか?

“こんなん絶対デートじゃねーし、ただの業務上の外出だし?”――などとバカな意地に拘った結果がこれである。今になって考えると、もう悩み方からしてガキくさい。中学二年の夏でももっとマシな悩みを抱えているものだと思う。

 無論、そんなことを考えていたなんてこの女には口が裂けても言えない。どうせまた童貞とバカにされるのがオチだ。


「キミ……元からちょっと残念なところあると思ってたけど、ここまでとはねっ」

「……返す言葉もありません、ハイ」


 そして橘の方は、これがまた垢抜けた格好をしてきたので余計後ろめたい。

 今日初めて見た時、ビシっと決まりすぎててゾッとしたものだ。


 ――こういう派手な女子って、もっとふわふわした格好するものじゃないのか?


 紺のトップスに白い膝丈スカートと、普段の言動と似合わずシックな出で立ちだ。

 だがその落ち着いた風合いと派手な金髪がうまくコントラストになっていて、全体としてはむしろ洗練された印象。どこか大人っぽい感じすら受ける。かと思えば黒タイツとタイトめな服装からは身体のラインが強調され、胸部や臀部が程よく盛り上がっていて目のやり場に非常に困る。


 ハイセンスな格好をした美少女と、いかにも残念なジャージ男。

 そんな二人が向かい合っていれば、それはもうとんでもなく奇っ怪な絵だろう。


 しかも休日の駅前広場となれば人目は避けられないわけで。通行人の物珍しげな視線がものすごく痛い。

 ついでに橘の責めるような視線は真面目に凍りつくレベル。

 とんだ恥さらしだ。昨日の自分を殺してやりたい。もういっそ死のうかな? ほら、ちょっとそこまで行ってきてさ……。


 ――などと、俺は色々と気圧されていたんだろう。

 ――ぐちゃぐちゃになったメンタルから、ついこんなことをぼそっと口走ってしまった。


「……もうあれだ、許してくれよ。今日一日なんでもすっから…………」


 少しの間、俺たちの間に沈黙が降りると――


「ふーん?」と、私服の金髪女は、指を顎に当てて何やら考える素振りを見せた。

 俺の哀れな申し出を聞くと、徐々に表情を柔らかくした。


「ほんとに、何でもする?」

「……う、俺にできることならな」

「ふーん……♪」


 もしやこいつの興味を引いてしまったのだろうか。

 橘は小悪魔的にニヤつき始めて、俺の身体を上下にじろじろと観察し始めた。


「……ガリ勉、けっこうスタイルいいよね。意外に背、高いし」

「何? スタイル?」

「お金、ちょっとは持ってきてるの?」

「アッハイ。あ、でも交通費だけは勘弁してください」

「だからカツアゲじゃないっつーの!! もう、ガリ勉はあたしをどんな女子だと思ってんのさっ……」


 ぷいっとそっぽを向いてしまう橘は、どうも表情をころころ変える女の子のようだ。

 こうもしばしば一緒にいると、そういうどうでもいい情報ばかりが増えていくので困る。


「じゃあさ、今日いっぱいはあたしに付き合ってよ……」

「はあ、全身ジャージ男にできることがあるなら何でも言ってくれ。荷物持ち以外、何の役にも立たないように思えるけどな」

「ふふっ……かえって、これはこれで都合良かったかも」


 何の拍子か分からないが、無駄にこいつの機嫌を取ってしまったようだ。


 しかしだ、金の要る用事? 叔母さんによるバカげた臨時収入がたまたま都合よく重なったのは――これは流石に嫌な予感しかしない。

 そう思うやいなや、彼女は俺の手首を柔く引っ掴んで、


「えへへ……こっち来て」

「お、おい!」


 引っ張られて歩く先は――どうやらショッピングモールのようだ。

 やはりというか通行人の目が半端なく痛い。ただでさえこいつの見た目だけで道行く人の目を引くには十分だというのに。


「おい、ちょっと離れて歩こうぜ……お前には恥ずいだろうがよ、一緒と思われると」

「別にいいよ、もう少しで恥ずかしくなくなるしさ。楽しみ」

「あ、何だって……?」

「それに――」


 すると、橘はニタっとこちらに微笑みかけて言った。


「ガリ勉は、他人にどー思われても気にしない。そうでしょ?」

「まだ覚えてたのかよ、そんなこと……」


 ただでさえ休日に外出なんかしないのに……心労の溜まりそうな一日が始まった。

ちょいと短めですいません。次回投稿は土曜となりそうです。

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