きびだんごってなんぞえ?
こんにちは。
冬の童話祭の作品です。
「はい?」
「だから、きびだんごをつくってくれ!俺は鬼退治に行くんだ!だからお供に何かやらなければならない!そこで、俺はきびだんごを要求する!」
身だしなみをきちんとした桃太郎は、おばあさんに『鬼ヶ島に行くからきびだんごを作ってくれ!』と言ったのだが、一向にきびだんごを作ってくれなかった。
「はて?きびだんごって・・・・・・なんぞえ?ワシはそんなものを1度も作ったことがないんじゃ・・・」
「はぁっ!?」
おばあさんの意外な言葉に、桃太郎は呆けた声を出す。
「きびだんごも知らないのか!じゃあ、おばあさんは何の料理が出来るんだよ!」
「う~ん・・・。白ご飯と、みそ汁と、熱いお茶だけかの・・・。ああ~!あとは漬け物も漬けられたかのぉ・・・。けど、もう10年も漬け物は作ってないのぉ・・・」
「よくそれで生きてこれたなっ!ってか、俺もよく成長できたなっ!すげぇよ、俺!!」
一人で乗り突っ込みをしている桃太郎を見て、おじいさんは腹を抱えて笑い転げていた。
「なぁ、桃太郎よ・・・。こんなに何も知らないばばあにきびだんごを教えてくれんか?言い出しっぺの桃太郎だけが頼りなんだ」
おばあさんはすがるような目付きで、仏様に拝むかのように手を合わせてきた。
「俺も知らん!」
「はぁっ?」
きっぱりと桃太郎は知らないことを告げ、それにおばあさんは怒っていた。
「なに、自分が知らない物を作らせようとしてるんだ!」
「うるさいな!隣に住んでいるタカシくんが、『きびだんごを作ってくれ!と言ったら、親が作ってくれる』と言ったんだよ!」
「じゃあ、お前はタカシくんの家の子になれよ!」
「なれねぇよ!俺にとっての親は、おじいさん、おばあさんなんだよ!」
「まぁっ!!」
ここで両方とも照れてしまい、静まり返り冷静になる。
「それじゃあ・・・」
沈黙を破ったのはおじいさんであった。
「そのタカシくんに聞けばいいんじゃないかの~。桃太郎や、今すぐタカシ君に聞きに行きなさい!」
「名案だなじいさん。しかし、物語を面白くするために、タカシくんは引っ越ししたことになっている!」
「タカシくーーん!カムバーーーック!!」
おじいさんは家のドアを開け、大声で叫んでいた。
「っということはここにいる人みんな、きびだんごを知らないわけだな・・・」
桃太郎はおじいさん、おばあさんの顔を交互に見ていう。
「おにぎりじゃあ、ダメなのかえ?」
「ダメだ!きびだんごだ!きびだんごじゃなければ、俺が求めている理想の仲間が満足しないんだ!」
桃太郎はそこは譲らないらしい。
「う~ん・・・。困ったのぉ・・・」
おばあさんは自分の頭の中で『きびだんご』というのがどういったものかを考えはじめた。
(きびだんごという物をワシは知らない。っというか、じいさんも桃太郎も知らない。これじゃあ、作ろうにも作れないじゃないか・・・。んっ?待てよ?誰も知らないということは、もしワシが『これが、きびだんごじゃ!』と言って作ってもバレないという訳じゃな・・・)
おばあさんはそう思うと、パンと手を叩いた。
「ああ!ああ!きびだんごけ?思い出した・・・。今から作るからのぉ・・・」
「本当に大丈夫か?」
おばあさんがわざとらしく棒読みで、『きびだんごを思い出した』と連呼するから、桃太郎に不安でしかなかった。
「では、早速作るとするかのぉ・・・」
おばあさんはそう言うなり、かまどの方へと歩いていった。
ー(幕間)ー
「おい!本当に大丈夫か?」
「大丈夫じゃ、大丈夫じゃ・・・」
心配している桃太郎をよそに、おばあさんは釜で炊き込みをはじめた。
「フレー!フレー!おーばーばー!」
おじいさんは扇子を持ち大袈裟に躍りながらおばあさんの左右を行き来している。
「邪魔じゃ!」
おばあさんはおじいさんを蹴り台所から追い出した。
「ほら、桃太郎も出ていくんじゃ!」
おばあさんは心配そうに見守っていた桃太郎も台所から追い出した。
「さて・・・」
おじいさんと桃太郎を台所から追い出したおばあさんは、炊き上がった釜を見つめていた。
「うまくいくかのぉ・・・」
おばあさんは釜の蓋を開け、呟いた。中には雪よりも真っ白なお米が釜一杯に入っていた。
ー(幕間)ー
「できた!・・・・桃太郎や、これがきびだんごじゃ!これを持っていくがいい!」
「おばあさん、ボケたのか?これはきびだんごじゃなく、おにぎr・・・」
「おばあさんナイスじゃ・・・“おにぎり”と“鬼斬り”をかけたんじゃな?」
「じいさん、ボケたかのぉ?これはきびだんごじゃ!」
「いや、ボケているのはばあさんの方だろ!それは明らかにおにぎりだろ!」
桃太郎は誰がどう見ても“おにぎり”であるきびだんごを見て、怒りながら突っ込みを入れていた。
「はて?これはおにぎりではない!食せばわかる!」
おばあさんがそんなことを言うのだから、きびだんご?を1つ手に取り食べてみた。
「食ったがなんかほんのり甘いぞ?」
きびだんご?を1つ完食した桃太郎は、首をかしげて感想を言った。
「そうじゃ!そのおに・・・きびだんごは塩ではなく、砂糖で力一杯に握ってある」
「なんか思いっきりなことをしたな・・・」
桃太郎はおばあさんがきびだんごを全然知らないことをさっきの言葉で悟ったが、呆れるよりむしろここまで来たら感心してしまっていた。
「さあさあ、これを持って鬼退治に行くんじゃ!あ、あとこれもやろう」
そう言っておばあさんが渡したものは小瓶に入ったきな粉であった。
「まぁ、貰えるものは全部貰ってやる!ありがたく思うんだな!」
桃太郎は何故か偉そうにきびだんごときな粉を雑に巾着袋に入れた。その光景をおじいさんとおばあさんは暖かく見守っていた。
「桃太郎や。厳しい戦いになると思うが、気を付けるのじゃぞ?病気などにも気を付けての」
「ありがとう。おじいさん、おばあさん。行ってきます!」
「「いってらっしゃい」」
おじいさんとおばあさんは桃太郎が見えなくなるまで見送りました。その間、桃太郎は何度も何度も振り返り、大袈裟に手を振りました。
ー(幕間)ー
桃太郎が歩いていると、道の真ん中にうずくまって小刻みに震えている白い犬がいた。
「おい!どうした?誰かにやられたのか?」
「おや?桃太郎ですか?・・・実は昨日から何も食べていないのです・・・。もう、お腹が空いて空いて、ここで倒れてしまったのです」
犬はそうとう弱っているのか、やっとの思いで頭をあげ桃太郎に言った。
「そうか、そうか。ではこのきびだんごをやるから、一緒に鬼退治に行くんだ!わかったな?」
「あ、ありがとうございます。絶対に役に立ちます!」
桃太郎は犬の前にきびだんごを置いて、犬はというと与えられたおにぎりのようなきびだんごをよく見ることもなくガツガツと食べていきました。
「きびだんご。とても美味しかったです。おかげで元気もりもりになりました!」
犬はぴょんと飛び起き、桃太郎の周りを喜びのあまりぐるぐると回り始めた。
「うるさい!」
そんな犬にチョップをお見舞いした。
しばらく歩くと、道の真ん中に猿がふてぶてしく座っていた。
「おい!猿!」
「おっ?桃太郎じゃねーか!俺に何か用があるんだろ?言ってみろよ!」
「おう!分かってるじゃねーか!実は鬼ヶ島に鬼退治に行くんだ。お前もきびだんごをやるから仲間になれ!」
「わかったぜ!絶対に役に立つから期待してろよ?」
そんなやる気満々の猿にきびだんごをやるために巾着袋の中を見たとき、桃太郎は驚いた。
おにぎりは桃太郎が歩いた振動でこねられ、きな粉が入った小瓶の蓋も開き、約3割餅になったおにぎりに少しだけきな粉が付いた食べ物になっていた。
(やべ!何か違う食べ物になってる。さて、どうするかな。わざわざ取りに帰るのも嫌だしな・・・。バレなければいいっか!)
「ほら、きびだんごだ!」
桃太郎はきびだんご第二形体を猿に渡す。
「ほう。これがきびだんごか・・・。初めて見たな・・・」
猿はまじまじときびだんご第二形体を見つめて美味しく食べた。
「あら?桃太郎さんだわ!私の美貌に導かれたのかしら?」
またしばらく歩くと、今度は雉に出会った。
「鳥の分際で!魅力とか分かるわけないだろ!」
桃太郎は雉を冷たくあしらう。
「まぁ、酷い!けど、そこがす・て・き!」
雉にとっては好印象のようだ。
「雉よ!お前はあまり必要ないが、一応仲間にしてやる!」
「ああんっ!素敵だわ!役に立たないと思っている私が活躍したらどんな顔をするのかしら?」
桃太郎は巾着袋の中を覗いてみた。
おにぎりは完全に餅みたくなっており、きな粉も満遍なくそのおにぎりに付いていた。
(まぁ、雉にやるだけだからいいか!)
桃太郎はきびだんご第三形体を雉にやった。
「あら?きびだんごとは珍しいわ!ありがとう、桃太郎。今、とっても食べたいと思っていたのよ!」
雉はとても喜んできびだんご第三形体を頬張っていた。
形はともあれ、犬、猿、雉はみんな喜んでいた。
「みんな喜んでくれたから、終わりよければ全てよしだな!」
桃太郎は腕を組み、自分で納得してうんうんと頷いた。
「どうかしたのですか?桃太郎さん?」
「どうせ、エロいことでも考えているんだろ?」
「いやん!私の体でそんな・・・」
(本当にこのメンバーで大丈夫なんだろうか・・・)
桃太郎は仲間を見て不安に思っていた。
この桃太郎ご一行は、このあと鬼ヶ島でいろいろとやらかすのだが、それはまた別の話である。