異世界転生係の女神さまの鬱憤
私の目の前には今にも消えそうな魂が漂っている。それに声を掛ける
「ようこそ神界へ!貴方は異世界に転生します!」
もう、幾度目か。
「貴方は本来死ぬはずではなかったのです。ですが運命の悪戯か、貴方は亡くなってしまいました」
泣いてはいないが泣くふりをする。相手は人の魂、魂の状態でも視覚もあれば嗅覚も聴覚も味覚も五感全てが備わっている。
「俺が・・・異世界に?」
「そうです!貴方は異世界へ行くのです」
「そ、そうか!やっと来たんだな!俺が、俺が魔王を倒してお姫様や女騎士果ては奴隷でハーレムを、ふふふ、フハハ」
はぁ、ほんと、どうしたんでしょうか。ここ数年で同じような反応をする人ばかりが現れてこの仕事疲れますね・・・今度の休暇のついでに仕事探そうかしら。
10年前は異世界と聞いてもよく分からない人が多くて説明は大変だったけどそれが楽しかったのになぁ。
「チート!そうだ、俺はどんな最強になれるんだ!やっぱ魔法でどかーんとやるか!賢者とか呼ばれたりしてな!ハハハ」
あぁ、またトリップしてるわね・・・どうしましょうか。チートもあまりあげすぎると異世界のバランス崩しかねないけど、崩れても一時的な物だしねぇ。
そうだわ!ここは今までと趣向を変えて見ましょうか。
「さぁ、女神よ!早く俺にチートを!さぁさぁ!」
「お黙りなさい!」
ふふふ、神気を出して見れば先程までの威勢は引っ込んで魂全体が震えだしたわ。ほんと最近の人は、いえ地球人は・・・今度の休暇はあれね、こうなった原因を探すために地球に行くのもありね。
「あなたは何様になったつもりです?高々人間風情が女神である私にそのような無礼を働くのいうのですか?貴方はたまたま異世界へ行けるのですよ?そう、たまたま。私の裁量一つで天国にも地獄にもあとは、あなたの魂を消滅させてしまうことも出来るのですよ?」
「え・・・こんなのテンプレにない・・・」
「何を言ってるのかわかりませんね。二度目の人生をさせてあげようとこの私が提案しているのにも関わらず、それ以上の能力を与えろ?あなたは生前何をしました?地球を救うようなことをしました?何か誰にでも自慢できるような偉大なことをしました?そのようなことを何一つせずに生きて何故そのような力を貰えると思うのです?」
「あぁ、女神様・・・おれ、死にたくないです、どうか、チートなんて要りませんハーレムなんて要りません!もう一度人生を歩ませてください。俺は何もしなかった、日がな一日惰眠と遊びに惚けて親孝行すらしていなかった。もうあの人たちには何も出来ないけど!せめて新しく親になった人には何かしたい!お願いします女神様・・・」
「そうですか、では二度目の人生に幸あれ」
ふぅ、神気で少しだけ魂が歪んじゃったみたいね・・・まぁ、最近のストレス解消にもなったしあの人間の魂には少し罪悪感もなくはないけど・・・どうでもいいわね。
「先輩!お疲れ様です。交代に来ました」
「やっと来たのね〜これで休暇よー」
「あ〜先輩?一ついいですか?」
「なに〜」
「さっき神気が解放されてた件とそれによって歪んだ魂の後処理について創造神様からお呼び出しか掛かってますよ」
さぁ〜っと頭から血の気が引いたのがわかった。
「あぁ、さようなら私の休暇!ようこそ大量の報告書&反省文。あはは、アハハハハハ〜」
「せ、先輩、仕事で鬱憤溜まってたからって自業自得っすから何も言いませんよ」
そうね、私ももう少し冷静になるべきだったわね・・・
「分かったわ、創造神様の所に行ってくる」
「御武運を」
「ちょっと待ちなさい、それだと死地に行く戦士みたいじゃない」
「だって、創造神様すっごい怒ってたっすよ」
「えぇ・・・ってそれなら早く行かなきゃもっとひどいじゃない!」
私は慌てて神界の空を駆けて行った。涙をこらえながら。
「これだからこの仕事は堕天使が量産されるのよ〜」
私の神聖だった翼はいつの間にかストレスで真っ黒に染まっていた。
幾本か抜けた黒い羽根とキラキラとした雫が宙に消えていくのだった。
「私は早目に人員交代しなきゃ・・・そのためには担当者探しと行きますかね〜あ、新しい魂きたね〜」
「ようこそ神界へ!貴方はこれから異世界に転生します!」