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守護山娘シリーズ  作者: 白上 しろ
6/78

金剛は駆ける⑤

二人は登山口にたどり着きました。

「怪我が治ったら、また来てください」

笑顔の金剛に、姫乃は疲れた様子で苦笑いしました。

「さぁ、どうかしらね?」

「姫乃様、山頂に行きたかったのですよね?」

姫乃はつい大きな声で言いました。

「当たり前でしょ! でも……」

金剛はあっさりといいました。

「私、待っています」

金剛のあっけらかんとした一言でしたが、姫乃の心には響きました。姫乃は目をそらして言いました。

「時間が掛かるわよ」

「どれだけかかっても構いません」

「すっごく、かかるかも!」

「はい。何日でも、何年でも、何十年でも、何百年でも、例え何千年かかっても・・・・・・」

金剛の途方もない台詞に姫乃は言葉を挟もうとしました。

「ちょっ……」

しかし金剛はまたあっさりといいました。

「私はここで待っています」

姫乃はまた小さくため息。金剛は言葉を付け足しました。

「でも無理はしないでくださいね」

姫乃は呆れていました。そこに突然、

「ゲコッ! ゲコッ!」

どこからか大きなカエルの鳴き声が聞こえました。

「わっ! 何?」

姫乃は驚くと、金剛は説明しました。

「カエルさんも『また来てください』って言っています」

よく見ると大きなカエルの石がありました。

「これが鳴いたの?」

金剛はうなずきました。

「嘘……」


登山口付近の駐車場。ここまで姫乃は自転車で来たのでした。

「大丈夫ですか?」

自転車に乗ろうとする姫乃に金剛は心配そうに言いました。

「大丈夫。自転車くらいならこげるわ。ここからは下り坂だし。ありがとね」

「はい。お気をつけて」

姫乃は金剛山の登山口を後にしました。金剛はずっと手を振っていました。


その夜。姫乃は部屋のパソコンで金剛山について調べていました。守護山娘の存在、やたら足の速い郵便局員さん、石のカエルなど・・・・・・。どこを調べても彼らの存在は載っていません。そんな時、現在の金剛山山頂付近にある広場の様子をタイムリーで見られる動画の中に、暗闇に一人で立っている女の子らしき後ろ姿を見つけました。

「あれ? 金剛? 何しているの?」

ずっと金剛の後ろ姿を見ていた姫乃は、それが金剛だとすぐに分かりました。しかし、瞬きをした瞬間、金剛の姿は無くなりました。

「あれ? どっか行っちゃった」

姫乃はパソコンを閉じました。それから窓から見える金剛山を眺めました。

「(あの山には何があるのかしら?)」 

姫乃は苦笑しました。

「(はぁ、私、疲れている。あそこには何かがあるって期待している。ただの山なのにね・・・・・・)」

金剛山の空には星がたくさん輝いていました。恋しい気持ちが美しい星々の空とイメージが重なって、姫乃は先輩の事を思い出そうとしていました。

「(先輩……)」

しかし、なぜか金剛の顔が頭をよぎりました。

「(あんたじゃないって!)」

改めて空を見ると今度は郵便局員さんの顔が頭に浮かびました。

「いや、あなたでもないから! みんな印象が強すぎるのよ!」

姫乃はため息をついた後、おかしくなってクスリと笑いました。

「(足の痛みが治ったら、また会いに行ってあげよっか)」


数日後。

足の痛みが治った姫乃は金剛山に再挑戦するため、登山口の駐車場にいました。前回と同じく、金剛山を見上げています。

「(今度こそ、登りきってみせる!)」

姫乃はキョロキョロと周囲を見渡しました。

「(今日は金剛、いないみたいね)」

姫乃は山頂を目指し登り始めます。少し登山に慣れ始めたのか、前回のように早々と弱音を吐くことはなく、何度も休憩しながらも登り続けました。姫乃以外に人はなく、一人、黙々と登って行きます。どこまでも続く山道がきつく、ハァ、ハァと苦しそうに息を吐きながら、一度中腰になりました。しかし姫乃はグッと体を起こし、叫びました。

「今日こそ絶対に登ってやるんだからー!!」

「その気持ちです! 姫乃様!」

突然目の前に金剛が現れたので、誰もいないと思って大声で気合いを入れた姫乃は顔を真っ赤にしました。

「金剛!? いるのなら教えてよ!」

金剛は元気よく右手を挙げました。

「います!」

姫乃はまた大きな声でいいました。

「おそい!」

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