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守護山娘シリーズ  作者: 白上 しろ
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金剛は駆ける④

山に登って後悔している様子の姫乃に、金剛は尋ねました。

「姫乃様はどうしてこの山に登ろうと思ったのですか?」

姫乃は横目で金剛を見ると、誤魔化すように言いました。

「特に理由なんて・・・・・・ ただ気分転換に……」

「気分転換になりましたか?」

姫乃は横目の視線をそのまま反対方向に向けました。

「そうね。とっても……」

金剛は素直に姫乃の言葉を受けとり、笑顔で言いました。

「それは良かったです!」

姫乃は小さくため息をつきました。

金剛は三角おにぎりを山に見立てて、底辺から四分の一あたりを指さしながら言いました。

「これが金剛山だとすると、私達は今この辺りです」

今度は姫乃の大きなため息が出ました。

「まだ、その辺なの……」


金剛に先導してもらい山登り再開。金剛の小さな背中を見て姫乃は思いました。

「(私よりも小さいのに、簡単に登って行く。私もこんな所でくじけちゃダメだ。ダメだ…… ダメだ……)」

姫乃は頭が疲れでクラクラしてきました。

「姫乃様」

「へ?」

金剛が突然振り返ると姫乃の手首を掴んで前に駆け出しました。

「わっ!? 何?」

鬱蒼とした杉を抜けると展望がありました。突き抜けるような見晴らしではありませんが正面には山の斜面全体が見渡せ、眼下には姫乃の住む町がありました。姫乃は呼吸を整えると、乾いた声で言いました。

「ここまで登ってきたんだ」

心地の良い風が吹き付けていた事に姫乃は気がつきました。姫乃はようやく少し笑顔になりました。

「もうちょっと頑張るか」


歩きながら姫乃は憧れの先輩の事を思い返していました。

中学の時、同じ陸上部で一年先輩の橋本翔はしもとしょう。部活の勧誘で声を掛けられた時から彼の存在が気になり始めていました。練習で颯爽と駆ける橋本先輩の姿を見る度に大きく鳴る心臓。最初は『憧れの先輩』だったのですが、いつしか『好きな先輩』、『大好きな人』へと変わっていきました。その時は側にいるだけで満足でした。ですが先輩が卒業し、姫乃が三先生の一年間。先輩に出会えずに寂しさが募りました。新しい目標に向けて、高校選びはすでに決まっていました。出合ってもう三年少し。先輩と同じ高校に入り、同じ陸上部に入部。次こそは想いを伝えるつもりでしたが・・・・・・ 高校にもなると足の早い人がたくさんいました。中学のクラブでは少しは存在感のあった姫乃ですが、高校では同じようにはいきません。練習でも『足を引っ張っている』と思い込み、更に足が速くなった先輩の存在が遠のいていくのを感じていました。そんなある日、親友から橋本先輩が金剛山に登って足腰を鍛えている事を知りました。それなら、自分も同じように練習したいと、今回の登山に挑んだ訳です。


― 先輩に追いつくんだ! ―


その一心で山を登る姫乃。

「(大丈夫。山登りは始めてでも、今まで結構走ってきたんだ!)」

しかし姫乃に不運が襲います。木の根を踏んだ時に、足が滑って足首を強くくじいてしまいました。

「痛っ!」

姫乃の悲鳴に金剛が驚いて振り返ります。

「どうしましたか!?」

姫乃は痛めた足首を手で押さえてしゃがんでいました。

「大丈夫ですか!?」

残念ながら、姫乃はこのまま登り続ける事は出来ませんでした。


金剛は姫乃の肩を担いで下山しました。

「痛みますよね?」

「心配ないわ。このくらいの捻挫なら何度か経験しているから」

金剛は申し訳無さそうに言いました。

「担いで下山すれば、もっと早く進めるのですが・・・・・・ ごめんなさい。これ以上、人間様を手助けする事は禁じられているのです」

「よく分かんないけど、別にいいわよ。気にしなく。むしろここまでしてくれて、助かったわ」

「とんでもありません!」

姫乃は鼻で笑いました。

「フフッ、変な子」

姫乃は微笑んだ後、ため息混じりにいいました。

「・・・・・・私、どこへ行っても足を引っ張ってしまう。正直ここまでダメな人だったなんて思わなかった」

金剛は落ち込む姫乃を見て言いました。

「また、来てください」

「え?」

「また、金剛山に挑戦してみてください」

姫乃は苦笑しながらいいました。

「さっきどうして金剛山に登ったかって、理由を聞いたわよね。教えてあげる」

姫乃はなぜ金剛山に登ったのかを素直に話しました。


「先輩様に追いつこうとされたのですね?」

ストレートに言われ、すぐに返事が出来なかった姫乃ですが、首を縦に振りました。

「ええ。でも、私にはやっぱり縁がなかったのかな? この山にも、そして・・・・・・」

『先輩にも』と言おうとして、姫乃は言葉が詰まりました。

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