高取は現る⑥
ある日。
明日香は宇宙人と町を展望出来る高取山の国見櫓にいました。明日香は座って宇宙人に話していました。
「私、ずっと目が悪かったの。だからずっと落ち込んでいたんだよ。みんな目が見えるのに、どうして私だけ見えにくいのだろう、って。目が見えないって、すっごく怖いの。ほんとだよ。でも、私を勇気付けるために、おばあちゃんが『高取姫』の話をしてくれたの」
宇宙人はカタコト言葉で返します。
「カタトリヒメ?(たかとりひめ?)」
「うん。高取姫はこの町を色んな災害から守ってくれるお姫様なの。すっごく強くて、かわいいんだよ。私の憧れの人なんだ。私もいつか高取姫みたいに強くなりたいって思うの。私は高取姫からいっぱい勇気をもらったの。目が良くなるようにしっかり頑張るんだよ、って。だから壺坂寺に何度も拝みに行ったわ。壺坂寺にはね、目の神様がいるんだよ。そしたらね、急にパァって光が射してきて、ぼんやりと目が見えるようになってきたの。目の神様だったのかな?でも、もしかしたらね、高取姫だったんじゃないかって思うの。だって何度も夢に出て来たんだもん!」
明日香は立ち上がると町に向かって叫びました。
「高取姫ー!」
宇宙人も町を見ますが、高取姫らしき人物は見あたりません。
「ドコニ イル?(高取姫はどこにいるのだ?)」
元気が良かった明日香ですが、急に力が抜けたように少し顔を伏せていいました。
「分からないの。何かが襲ってきて、お城がボロボロになって、それから高取姫の姿は消えてしまったって、おばあちゃんが言っていたわ」
表情のない宇宙人に明日香は続けました。
「でも・・・・・・高取姫が負けるなんてきっと何か理由があったのよ。高取姫は多分、怪我をしていたんだと思うの。だから高取姫を見つけたら、私が手当してあげるの。この町には、たくさん良いお薬があるから。どんな怪我でも治せるんだから!」
明日香がおもむろに鞄から何かを取り出しました。
「そうだ。これ、宇宙人さんにあげる」
「ナンダ?(何だ、これは?)」
明日香の手には工作で作ったヘンテコな人形がありました。
「雛人形だよ。学校で作ったの」
宇宙人は人形を受けとりました。確かにお世辞にも上手とは言えませんが、髪は長く、着物を着た女の子でした。
「宇宙人さんのお守りだよ。高取姫をイメージしたの」
宇宙人は人形をよく見ました。宇宙人は驚くべき事に気がつきました。
「コ、コレハ!(こ、これは!)」
驚いて考え込む宇宙人(と言っても外見に変わりはありませんが)をよそに、明日香は困ったように言いました。
「だから雛人形だよ? ちょっと変かも知れないけど・・・・・・」
夜。秘密基地にて。
宇宙人はガラスケースの少女に向かっていいました。
「オマエ タカトリヒメ(お前は高取姫だったのか)」
明日香からもらった人形は宇宙人が捕らえた少女とそっくり・・・・・・ とは、とても言えませんが、なぜか宇宙人は人形の姿を見て、いつも見ている少女が高取姫であると確信しました。そして、確かに彼女こそ高取姫だったのです。
「ニンゲンヲ トラエタト オモッタ(人間を捕らえたと思っていたが)」
宇宙人はいつもよりも慌てた様子で機械を操作し始めます。
「カンペキ ダッタ(完璧だったのだ)」
何度もエラーが表示されますが、宇宙人は機械の操作を続けます。
「テキヲ ホロボスタメニ(敵を滅ぼすために)」
宇宙人はおかしくなってしまったように機械を操作する手つきが早くなっていきますが、エラー表示が何重にも表示されるばかりです。
「オマエヲ ヨミガエラセ!(お前を蘇らせて!)」
無理な操作で機械の内部からショートした火花がはじけていました。それでも宇宙人は操作の手を止めません。機械の内部からは煙まで吹き始めました。
「スベテノ テキヲ ホロボスノダ!(すべての敵を滅ぼすつもりだった!)」
宇宙人は苛立ったように機械を叩きました。
「ダガ オマエ ニンゲン チガウ!(しかし、お前は人間ではなかった!)」
機械のすべてのランプは消灯してしまいました。無理な操作でついに壊れてしまったのです。宇宙人は明日香達の顔が頭をよぎり、手の動きがピタリと止まりました。
「モウ ワレワレハ ニンゲンヲ トラエルコト デキナイ(もう私には人間を捕らえる事は出来ない)」
宇宙人は力なさげに高取を見て問いました。
「ワレワレハ ナゼ ウマレタ? ナニヲ スルタメニ?(私は何のために生まれたのだろうか? 何をするために生まれたのか?)」
宇宙人はしばらく黙った後に、いつもの台詞を言いました。
「ジツニ コッケイダ(実におかしい)」
宇宙人はほとんど真っ暗な中、再び普段の冷静さで少女に問いました。
「オマエニ ナニガ タリナカッタ?(生き返るには、お前に何が足りなかったのだ?)」




