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守護山娘シリーズ  作者: 白上 しろ
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葛城は咲く⑨

後日。元気のない葛城の元に、子角仙人が訪れました。

「葛城」

葛城は子角仙人の突然の訪問に驚きました。

「仙人様!」

子角仙人は問いました。

「どうしたのじゃ? 最近のお前は元気がない。それではヤッカイとの戦いに負けてしまうぞ」

葛城は困ったように頷きました。

「分かっております」

「悩んでおるのは人間様の事ではないか?」

葛城は図星とばかりに子角仙人の顔を見ました。

「我々と違い、人間様の寿命は限られておる」

葛城の表情が曇り、ふて腐れたようにいいました。

「そんな話は聞きたくありません」

「では何じゃ? お前が落ち込んでいる理由とは。いつかこうなることくらい、とうの昔から分かりきった事ではないか」

葛城は悲しい目を子角仙人に向けますが、受け流すように軽く相づちをうちました。

「もう分かりました」

「分かっておらぬ」

葛城の目にはうっすら涙すら浮かんでいます。

「人間様には『死』というものがあるのじゃ。何度同じ事を教えれば……」

子角仙人の言葉を遮るように葛城は大きな声でいいました。

「わたくしは頭が悪いのです!」

子角仙人は一喝します。

「そういう問題ではない!」

それでも葛城はいいました。

「どうして人間様がいなくならなければならないのですか? 人間様が何をしたというのですか! 人間様はそのような事を望んでおられるのですか? わたくしには分からないのです。何度言われても、何度教えられても、分からないものは、分からないのです!」

葛城は泣きながら、走り去ってしまいました。葛城は人間の手をたくさん借りてきました。人間への愛を強く持っていました。それだけに感情の入り方にも強いものがありました。子角仙人にも分かっていました。それでも守護山娘として任務を全うするには心も持ちようがあるのです。落ち込んでいては今の強力なヤッカイには勝てません。子角仙人の後ろから稲村が現れました。

「あれではどうしようもない」

子角仙人は残念そうに言いました。

「葛城は人間様への感情を強く持ちすぎたのじゃ」

稲村は冷静にいいました。

「人間様を思う気持ちは分かる。しかし、自らの感情に流されすぎては、守護山を守りきることは出来ない。どうされますか?」

子角仙人は言葉に詰まりながらいいました。

「今は葛城を信じてやるしかあるまい」

「信じる? そう言えば、仙人様も葛城に強い思い入れがあるのでしたね。仙人様の封印を葛城が解いたとも聞いています。吉野の金峯山から葛城山に橋を架けるという無謀な計画を手伝ったとも」

「無謀ではない。あれは本当にじゃな・・・・・・」

「葛城はそんな無茶な事を、本気で手伝おうとする純粋な者なのです」

「いや、じゃから、無茶ではなくて・・・・・」

「とにかく、今回に限り次のヤッカイとの戦いを見守る事は止めましょう。今のヤッカイはとても強い」

子角仙人の顔が曇りました。

「私は葛城が消滅する姿を、見たくはありません」

稲村は言葉のない子角仙人を残して姿を消しました。


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