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守護山娘シリーズ  作者: 白上 しろ
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葛城は咲く⑧

毎年、笹は人の手で刈られ、たくさんのツツジが葛城の山頂に咲くようになりました。おかげで多くの人達が葛城山を訪れるようになり、葛城は毎日が嬉しくて仕方がありません。

ある日。夕日に染まる葛城山山頂に渉と伊織の姿がありました。渉は伊織の目をじっと見ると、伊織の手をとりました。伊織はハッと驚いて渉の目を見つめていました。

滝の奥に潜むクジラは『ホエ~ル』と欠伸をしていました。空の雲に紛れる巨大な白い鳥も夕日色に染まり、じっと息を潜めて葛城の町一帯を見渡しています。サングラスの鴨は長い影を伴ってテクテクと歩いていました。その後ろにはたくさんの小さな鴨達。彼らはヨチヨチとサングラスの鴨の後を付いていきます。夕日に彩られる葛城の台地。その真ん中で葛城はクルクルと回って楽しそうに踊っていました。

渉は伊織の指に婚約指輪をはめました。伊織は恥ずかしそうにしながらも微笑んで頷きました。山頂にある祝福の鐘の音が鳴り、渉と伊織はキスを交わしました。


それから。

渉と伊織は結婚した後も、年に数回、葛城山を訪れました。渉や登山部の仲間達は笹の除去も手伝いました。葛城は彼らと一緒に楽しいひとときを送り続けました。


そして更に数十年が過ぎました。今もなお、人々は笹の除去をしてくれています。しかし、かつて携わった人達の姿は段々と見られなくなってしまいました。皆等しく年をとったのです。葛城の心に小さな不安が生まれてきました。葛城山の台地で、もう何度見てきたか分からない空を巡る星々に、葛城は今日もまた問いかけました。

「(皆さんはどこに行かれたのですか?)」


そしてまた歳月が経ち、とうとう以前携わった人達は、誰も来なくなってしまいました。葛城山に訪れるたくさんの人々を目の前にしながらも、葛城は一人になってしまうように感じ始めたのです・・・・・・。



「・・・・・・と、いう訳じゃ」

子角仙人が一息つくと、稲村はいいました。

「長いです。ゾウの鼻よりも長いです」

観音も同じような事をいいました。

「長かったです。キリンの首よりも長かったです」

子角仙人はいいました。

「ゾウやキリンの話を人間様に聞いたのか。見た事もないのに、知ったかぶりおって」

まさにそうなので、稲村と観音は、更に面白く無さそうな顔をしました。

「実際どのくらい長いか知っておるのか?」

『このくらい』と、稲村と観音は両手を目一杯広げていいました。子角仙人は首を左右に振り、ため息をつきました。

「どうなんじゃろうな?」

稲村と観音は首を傾げると、子角仙人は二人の目を見ていいました。

「わしも見た事がない」

稲村、観音はゆっくりと広げた両手を下ろしました。



葛城山のツツジについて一通り説明した子角仙人は、大きな課題も付け加えました。

「実は今の葛城は、ああ見えて非常に落ち込んでおる」

観音は庇うようにいいました。

「『ああ見えて』は何だか可哀想です」

稲村は提案しました。

「話をしてあげてはどうなのですか?」

子角仙人の表情は変わりません。稲村は続けます。

「これではヤッカイとの戦いに支障がでる恐れがあります」

子角仙人は少し考え込んで言いました。

「葛城は分かってくれるじゃろうか?」

人間の命には時間的な限りがあります。それは、半永久的に生きている守護山娘と、決定的に違うところでした。観音と稲村は言葉がありませんでした。自分で沈じみこませてしまった空気を変えようとするように、子角仙人は軽くいいました。

「ま、話だけでもしてみるか」


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