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守護山娘シリーズ  作者: 白上 しろ
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葛城は咲く⑤

数年後。

大学生になった渉は、再び葛城山を登りました。この時はもう一人ではなく、同じ山岳部の仲間達と一緒でした。その中には、女性の姿もありました。渉は葛城の姿を見つけます。

「おーい!」

渉が叫ぶと、気がついた葛城は手を振りました。渉は成長して大きくなりましたが、葛城は変わらず、少女のままでした。しかし、髪は整えられて、もうかつてのような(野暮ったい)姿ではありません。渉がくれた髪飾りの似合う、かわいらしい姿でした。

「お久しぶりです」

葛城が挨拶しました。渉は葛城高原を見渡します。

「本当に素晴らしい眺めですね」

葛城は嬉しい返事をしました。

「はい!」

葛城の山にはたくさんの赤いツツジが咲いていたのです。真っ赤に彩られた山頂は、まるで天国にいるかのようでした。しかし渉の隣にいた女性、山口やまぐち 伊織いおりは何故か不機嫌そうにいいました。

「誰?」

葛城は伊織に挨拶をしました。

「初めまして。わたくし、葛城山の守護山娘の『葛城』と申します」

伊織と、そして渉も驚きました。伊織は渉の反応に対しても驚いて尋ねます。

「って! なんで渉が驚くの? 知り合いじゃないの?」

「いや、名前まで知らなかったから。ところで『守護山娘』って何?」

今度は反対に、渉が伊織に尋ねました。

「知らないわよ。私に聞かないでよ」

もめている二人の会話に、葛城が申し訳なさそうに割って入りました。

「今まで黙っていてごめんなさい。実はわたくし・・・・・・」

葛城は自分の正体について説明しました。

「ふーん、なるほど。それで姿が変わらないんだ。じゃ、改めて宜しく。葛城ちゃん」

「えぇ~!? この話、信じるの?」

葛城の話を、伊織は疑っているのに対して、渉はあっさり受け入れました。

「僕は水越 渉っていうんだ」

「えぇ? 渉も名乗っていなかったの? 本当に知り合い?」

伊織は呆れながら、名乗りました。

「私は山口 伊織」

葛城は深々と頭を下げました。

「渉様に伊織様ですね。宜しくお願いします」

伊織はまた面食らいました。

「伊織様? 『様』って何?」

一方の渉は、照れながらいいました。

「渉様かぁ。なんだか殿様になった気分だ」

伊織は、惚気る渉を横目で睨んでいました。

「(色々疑問に思わないのかしら? この人は!)」

とりあえず受け入れられた葛城は、渉達と一緒に過ごす事になりました。


伊織はお弁当を取り出しました。

「じゃ~ん! お弁当作ってきたんだ!」

色とりどりのサンドウィッチでした。それを見て、渉も続きました。

「じゃ~ん! 僕も作ってきた!」

「えぇ!?」

伊織が驚くと、急に怒り出しました。

「なんで作ってくるのよ! (渉の分も作ってきたのに!)」

渉も驚きました。

「えぇ! (何で怒られた?)」

二人のやり取りを葛城は楽しそうに見ていました。渉はおもむろにいいました。

「葛城ちゃんにもあげよう」

「えー?」

伊織は否定的な反応です。どうも葛城の存在が気に入らないようでした。

「だってこんなにたくさんあるんだからさ」

渉に促され、伊織は仕方なさそうに頷きました。

「そうね。あなたにもあげるわ」

葛城は遠慮気味にいいました。

「宜しいのですか?」

「いいわよ」

葛城は満面の笑みで『ありがとうございます!』と御礼をいいました。伊織はハッとしました。

「(あっ・・・・・・ 馬鹿だな、私。この子に嫉妬している。まだこんな無邪気な子どもなのに)」

そう思いながら、伊織は葛城を見ますが、身長に不釣り合いな程に大きな胸とお尻が目につきました。胸に至っては伊織よりも大きいかも知れません。

「(やっぱり油断できない!)」

「おいしいです!」

伊織の作ったサンドイッチを食べて、葛城は素直に言いました。

「あたり前よ。愛情込めて作ったんだから」

「愛情ですか?」

「そう」

と言って伊織は慌てました。もしかして渉に聞かれたのではないか、と思ったのです。ふと見ると渉は黙々と弁当を食べており、今の会話を聞いていない様子でした。伊織はホッとしましたが、渉が『ん?』と気がついて目が合いました。伊織は目を背けました。そんな伊織の様子に気がつかず、葛城は素直に笑顔で言いました。

「『愛情たっぷり』ですから、こんなにおいしいのですね?」

「え?」

渉の反応に、伊織は慌ててサンドイッチを葛城の口に放り込もうと思いました。

「さ、さ、いっぱい食べてね、か、つ、ら、ぎ、ちゃん!」

悪意は無かったのですが、伊織はサンドイッチを葛城の口より上に押しつけていました。

「そ、そこは顔です、伊織様」

「え? あっ・・・・・・」


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