葛城は咲く④
葛城山の冬。一面の雪で覆われていた葛城高原は、また雪が積もり、完全に真っ白な世界となっていました。そこに渉はまた一人、姿を見せました。
「(あの子はいるだろうか?)」
寒々とした中、渉が辺りを見渡すと、雪の上にクルクル回りながら踊っている(ように見える)女の子がいました。渉はすぐに葛城だと分かりました。
「いた!」
渉の声に気がつき、葛城は急に動きを止めようとしたからか、スベッて転んでいました。
なお雪の降り積もる葛城の台地。渉は飴細工のように綺麗に光る赤い髪飾りを、ポケットから取り出すと、葛城の前に差し出しました。
「わぁ、すごいです!」
葛城は素直に驚き、素直に感想を述べました。
「とてもおいしそうです!」
「あっ、これ、髪飾りです。食べられません」
葛城は慌てて言い直しました。
「あっ、あの! おいしそうなくらいに、とても綺麗なのです!」
意味の分からない事を言った葛城は、また慌てますが、渉は笑って感謝の言葉を口にしました。
「プッ! ありがとう」
渉は葛城に髪飾りをもう少し前に差し出します。
「これ」
葛城はその意味が分からず、渉の目を見ました。渉は急に恥ずかしくなって、早口になりました。
「まさか、本当にいるなんて思わなかった。もう冬なのに。そう、ツツジを見つけたんだ。この春に登った時に。真っ赤なツツジを。こんな笹だらけの山に、ツツジだなんて、思いもしなかったよ。綺麗だったから、作ってみたんだ。父さんは、アクセサリーを作っているから、教えてもらって・・・・・・」
葛城はまだ意味が分からずに、ただ渉を見ていました。
「とにかく、これ、食べられないけど! あげる!」
渉は半ば強引に、葛城の手に髪飾りを渡して、走り去って行きました。慌てて走る渉の後ろ姿を、葛城はただ、八重歯がのぞき見える口を開いて、棒立ちで見送りました。雪の世界の向こうに、渉の姿が見えなくなりました。やがて、手の上に光るツツジの髪飾りを見てみました。とても美しい髪飾りでした。
「(本当に、頂いて宜しかったのでしょうか?)」
葛城は髪飾りの美しさに見とれてしまい、なぜか恐る恐る、カプッと一口、軽く噛んでみようと思いましたが、渉の言葉が頭をよぎりました。
― 食べられないけど! あげる! ―
葛城は、噛むのを止めました。そして、突然走り出すと、ある場所へとたどり着きました。手で雪を払うと、そこには、ツツジの茎が見えました。僅かではありますが、葛城の山頂には、ツツジが育成していたのです。葛城はもちろん、知っていました。葛城はようやく実感したように、嬉しくなってきました。そしてまた髪飾りを見つめました。
「わたくしも! わたくしも、ツツジを咲かせてみたいです! たくさん! この葛城山いっぱいに! きっとみんな、幸せになれます!」
葛城は、寒い雪の原で、一人クルクル回りながら踊ると、回りすぎてスベッて転んでいました。近くでサングラスをかけた鴨が、馬鹿にしたように笑っていました。




