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守護山娘シリーズ  作者: 白上 しろ
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金剛は駆ける⑩

風と風がぶつかり合うように空気の流れは異様な文様を描き、奇妙に高い音が幾十にも重なっていました。そして大きく弾かれた雲は巨大なドーナツのような形を作り、その中心に金剛とヤッカイの姿がありました。お互いに全力で右の拳をぶつけたまま、動きがありません。周囲の奇怪な音とはほど遠く、二人の間には時が止まったように静かでした。小さな音が聞こえたかと思うと、ヤッカイの全身を覆うプロテクターには小さなヒビが走りました。ヤッカイが声を詰まらせて言いました。

「ばっ…… 馬鹿な! 風となった私を捕らえるなんて!」

「あなたは風ではありません! 本物の風にはなれないのです!」

「どうして、そんな事が!」

「だって!」

金剛は一瞬言葉に詰まりました。しかし、グッと体に力を入れて叫びました。

「あなたは今『生きている』じゃないですか!」

「生きている? ……だから本物の風にはなれない?」

ヤッカイはある事に気が付きました。そして声高らかに笑ったのです。

「フフフッ! そう、そういう事! 正成は風と言ったわね? 正成なんて何でもない。あなたの切り札でも、最終兵器でもなかったのよ! まるでどこかに存在するかのように私を脅したつもりでしょうけれど、すべては嘘。残念ね、金剛。正成など、もうこの世のどこにも存在しない!」

金剛は俯いたまま何も言いませんでした。

「すでに死んだ者じゃない!」

ヤッカイは怒鳴ると同時に金剛を遠くへはじくように蹴り飛ばしました。金剛の体は投げ出されたかのように宙に浮きました。

ヤッカイは追撃しようとします。しかし小さくヒビの入っていたプロテクターが突然粉々に砕けました。ヤッカイの全身に、金剛はすでに大きなダメージを与えていたのです。ヤッカイは俯いてワナワナと震えていました。

「そ、そんな・・・・・・ そんな事って!」

ボロボロと砕け落ちるプロテクター。しかしそちらには見向きもせず、自らの両手を見ながら動揺しています。

「爪がっ! 私の爪がぁー!」

綺麗に青く塗った爪が割れていました。ヤッカイは寒々そうに体を縮めて、涙目で悔しそうな表情を浮かべました。

「お、覚えていなさい! 金剛!」

そう言うとヤッカイはスッと姿を消してしまいました。ヤッカイの分子達も引き上げていきます。


ヤッカイにはじかれて一人残った金剛は高い空から力なく落ちていきます。ヤッカイの言葉に落ち込んでいる様にも見えました。しかし口元はどうでしょう? クスクスと笑っていたのです。金剛はつぶやきました。

「正成様が私の『切り札』だって。『最終兵器』だって。ふふふっ…… あのヤッカイ、正成様をずっと警戒していたんだ。ずっと怖がっていたんだ……」

金剛は愉快そうに笑いながら、静かに言いました。

「おかし・・・・・・」

一筋の涙を空に残して、金剛は身を預けるように地上へと落ちていきました。


やがて大の字になり降下する金剛の眼下には金剛山とその周辺に人々の家や田んぼが広がっていました。風と共に雲も去り、太陽があたりを暖かく照らしていました。

「良かった。みんな無事だったんだ。良かった」

太陽の光に照らされた金剛山一帯と同じように、金剛の瞳も輝いていました。


金剛山の山頂近くの広場。そこで姫乃は空を見渡していました。上空に消えた金剛を探していたのです。しばらくして姫乃は空に金剛を見つけました。両手を振って金剛の名前を叫びながら合図を送ります。姫乃は落下してくる金剛を受け止めようと思いましたが、近くまで来ると、不可能だと悟って慌てて逃げました。金剛は着地の体制のまま勢いよく地面に深く沈み込むと、姿が見えなくなってしまいました。落下地点に大きく空いた穴を覗き込んで、姫乃は慌てて呼びました。

「金剛! 大丈夫?」

「大丈夫です!」

元気な声と共に勢い良く穴から這い出てきたのは、金剛と思われる泥人形でした。水浸しの犬が全身で水を弾くように、金剛も全身をブルブルと振ると泥がたくさん飛び散って、金剛の姿が現れました。

「姫乃様? あれ? いない?」

金剛は姫乃を探しますが、見あたりません。代わりに泥人形が近くに突っ立っており、金剛は『わっ!』と驚きました。泥人形は小刻みに震え始めました。

「金剛~!!」

怒った泥人形の声は、姫乃の声でした。金剛の弾いた泥を全身に被っていたのです。


 

今日もまたたくさんの人達が金剛山を訪れます。いつものように金剛は巨大杉の上で周囲を見渡していました。微笑む口元で沈める呼吸は周囲の杉と同化しているように物静かです。ふと金剛はたくさんの人々の中に姫乃を見つけました。

「姫乃様だ!」

金剛は木の上から降りようとしましたが、思いとどまりました。嬉しそうな姫乃の隣には橋本先輩の姿。金剛は静かに見守ることにしました。木漏れ日が射して金剛は祈ります。

「今日もまた一つだけお願いします。人間様が幸せでありますように」


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