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Summer Echo  作者: イワオウギ
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 9.私は俯き、川面を見つめた

私は(うつむ)き、川面を見つめた。


水は絶えず流れている。

止めどなく流れていた。

川のせせらぎの音が、容赦なく私の(うち)を分け入り、

深く深く沁み渡っていく。

私の芯に届き、

私の芯に響く。


「ショックだった」


「悔しかった」


「認めたくなかった」


「だから、必死に言い返そうとした」


「でも、そのときの私には、

 それが出来なかった」


「言い返せなかった」


「何でもないフリして、

 そうかもしれない・・・って、ただ静かに返し、

 そのままストローを(くわ)えて、

 残り少なくなった梨のジュースを、

 ひとり、音をさせて吸い上げた」


私は顔を俯け、

息を、感情もろとも大きく吐き捨てた。

少し間を置き、ゆっくり面を上げる。


「それからの私は、

 世の中のことをつまらないと考えなくなった」


「世の中は面白い」


「ただ、私がその面白さに気付かないだけだ」


「だから、

 つまらないと感じたら面白さを探そうとした」


「気付こうとした」


「理解しようとした」


「そうしたら・・・」


「そうしたら、

 少しずつ、色々なものが面白くなってきた」


「サッカーの試合も」


「テレビのバラエティも」


「友達との会話も」


「とにかく、色々なものが面白くなった」


「楽しくなった」


「そして、私はよく笑うようになった」


「自分から笑うようになった」


「いつも楽しそうだな・・・と、人に言われるようになった」


「実際、楽しかった」


「面白いヤツだ・・・って、言われたこともある」


「嬉しかった」


「いつの間にか、私の周りに人が集まってくるようになって」


「いつの間にか、毎日が楽しくなって」


「いつの間にか、世の中が面白くなった」


私は、そこで一息つくと、

脇のペットボトルを手に取った。

お茶をひと口、

そして更に、ふた口と飲んだ。


「今朝、トミヤマの駅でクロバダムのパンフレットを見付けた」


「案内を読んだ」


「つまらないと思った」


「でも、多分、

 ダム自体は面白いはずなんだ」


「つまらないはずがない」


「ただ、私がその面白さに気付かないだけ」


「その面白さに気付けるくらいに、私が面白くないだけ」


「パンフレットを見ながら、そんなことを考えていたらさ」


「何か、悔しくなってきたんだ」


「世の中には、ダムの面白さに気付ける人間がたくさんいるのに、

 どうして私には、それが分からないんだ」


「私にだって分かるはずだ」


「そうだ、実物を見てないからだ」


「実物を体感していないからだ」


「だから分からないんだ」


「現地に行ってダムを体感すれば、私もその面白さに気付けるはずだ」


「よし、行って面白さを分かってやる」


「理解してやる」


「私は・・・」


「私は、それでダムを観に行こうと思った」


「ダムを観に行くことに決めたんだ」

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