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Summer Echo  作者: イワオウギ
37/289

37.売店の中に足を踏み入れると

売店の中に足を踏み入れると、


「おかえりー」


少年が、

明るい声で私を出迎えた。


「・・・ただいま」


私も、

少年の前まで行ってから、挨拶を返した。


「何時だったー?」


「1時40分」


「今は何時ー?」


「1時ぐらい」


「じゃ、お昼ごはん余裕だねー」


「いやぁ、結構ギリギリじゃないかなぁ」


「そうかなー」


「少し早めに並ばないとダメだろうし」


「ロープウェイ?」


「そう」


「どれくらい前に並ぶの?」


「うーん、だいたい5分前ぐらいかなぁ・・・」


「そっかー」


「ところで、何買うか決めた?」


「まだー」


「じゃ、早く買うのを決めよう」


私は、

そう言って、左右にある陳列棚をざっと見た。

どうも、ここは、

弁当屋と言うより土産屋に近いようだ。

棚に、ずらっと並べられている平たい箱は、

どれも、立派な紙でキレイに包装されており、

表面には、

チーズケーキや饅頭(まんじゅう)などの写真が、その商品名とともに印刷されている。



「ねぇ、後ろー」


少年の声が聞こえた。


「ん?、後ろ?」


天井から吊り下げられた、カラフルな長いポスターを見ていた私は、

背後を振り返り、それから下を向いた。

小さな女の子が、私の顔をじっと見上げていた。

つぶらな瞳。

頬は、ほんのりと赤く。


少年よりも、年下のようだ。

背が低かった。

髪は、肩くらいの長さ。

透明なプラスチックの、淡いピンクのお花が付いたバレッタを、

サイドの髪に、斜めにして付けている。

赤いカーディガン。

真っ白なブラウスが、その下に覗いている。


「あ、ごめんごめん」


私は、そう言い、

慌てて端に寄った。

少年も、私に続いて端に寄った。

女の子は、

自分の目の前の、空いた通路に目を向け、

そして、

私の顔を見上げ、口を小さく開いたが、

何も言わずに口を閉じ、

そのまま、顔を俯けてしまった。


「通って良いよ」


私は、改めて声をかけてみたが、

女の子は動かない。

ずっと、下を向いたまま。


この分だと、

私たちの方が、女の子の横を抜けた方が早そうだ。


そう思い、歩きかけると、

女の子は、

急に後ろを振り向き、向こうへ駆けていき、

陳列棚の角を曲がって、

そうして、すぐに姿が見えなくなった。

私は、後ろを振り向いた。


そのまま、

少しの間、待っていると、

棚の、そちらの角の向こうから、

先ほどの女の子が、歩いて出てきた。

そこは、

見たところ、駄菓子コーナーのようだった。

女の子は、

棚の前に立つと、顔を上に向け、

手を、精一杯に高く伸ばした。

更に踵を浮かせて、背伸びをし、

棚に並んだお菓子の箱を、何とか手に取ると、

下を向いて、じぃっと見つめた。


私は、少年の方に顔を向ける。

少年は、その女の子を見ていた。


「お昼ごはん、探そう?」


声をかけると、

少年は、女の子の方に目を向けたまま、


「・・・うん」


と、気のない返事をした。

私は、

少しの間、黙って少年を見ていたが、

やがて顔を上げると、辺りを見回した。

駄菓子コーナーの更に向こう、奥の左手側に目を向けると、

弁当屋らしき売店があった。

ボール状のおこわ(・・・)のおにぎりが入ったプラスチックのパックが、

たくさん並んでいる。

焼き芋も、あるようだ。


「あそこに行こう」


その売店を指差し、少年に声をかけてみたが、

反応が無かった。

まだ、女の子を見ている。


「おーい、行くぞー」


再び、声をやや大きくして言うと、

少年は、ワンテンポ遅れて、


「・・・え、あぁ、うん。

 分かった、行くー」


と、

やや慌てた様子で返事をし、こちらを見上げた。

私は、

その少年の顔を、じぃーっと見る。


「・・・?、なにー?」


少年が尋ねた。


「いや、何でもない。行こう」


顔を上げた私は、

そう言って、

駄菓子コーナーの奥に覗く弁当屋の方へと足を向けた。

歩き出して、すぐに後ろを確認すると、

少年は、

ちゃんと、ついてきていた。

私は、

少年に声をかけようとしたが、すぐにやめ、

前に向き直した。


からかうのは、勘弁してやるか。

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