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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
297/301

295.『え? えっと・・・』

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 『え? えっと・・・』

│ ワタシが言い淀むと、

│ お父さん、言いました。

│ 『その子は、

│  お前が酷い横暴を受け、妊娠した子だ。

│  今回の一連の出来事で言えば、お前は明らかに被害者なんだ。

│  産んで、育てるのに際し、

│  やるせない思いや、許せない気持ちはないのか。

│  その子を必ず幸せにすると言っていたが、本心からか。

│  イヤな気持ちはまったく無いのか』

│ ワタシは、

│ 下を向いて考えてみました。

│ 口を開きました。

│ 『・・・えと、

│  この子に対しては、だけど、

│  今は、

│  ワタシ、そういう気持ちは無いと思う。

│  不安や心配なら、ちょっとあるけど・・・』

│ 間がありました。

│ 再び、お父さんの声が聞こえました。

│ 『・・・カメ君、キミはどうだ。

│  キミは、そういう気持ちは無いのか。

│  本当に、純粋に、

│  心から、その子を育てたいと思っているのか。

│  幸せにしたいと思っているのか』

│ 少ししてから、

│ ワタシは、

│ そうっと、カメさんの様子を窺ってみました。

│ カメさん、

│ 顔を僅かに伏せ、じっとしてました。

│ 考えてるようでした。

│ でも、

│ やがて、その顔を起こすと、

│ お父さんに言いました。

│ 『・・・その、

│  イヤな気持ちと言うか、モヤモヤと言うか、

│  要するに わだかまりですけど、

│  それでしたら、

│  まったく無い、と言えば嘘になります。

│  正直、

│  心の底に、ちょっとあります。

│  なので、

│  純粋に、とか、

│  心から、とは言い切れないかもしれません。

│  ただ、

│  この子を僕たちの手で育てるのを、僕は本気で望んでいますし、

│  本気で幸せにしたいと思っています。

│  それは確かです』

│ お父さん、

│ 『そうか・・・。』と、下を向きました。

│ そのまま無言になり、

│ 少ししてから、再び口を開きました。

│ 『私は・・・、

│  私は、その子をキミたちふたりで育てることに関しては、

│  キミたちには悪いが、

│  やはり、どうしても複雑な感情を抱いてしまう。

│  どうしても、あの男のことが頭にチラついてしまう』

│ 『・・・』

│ 『無論、

│  妊娠中のその子に罪はない。

│  分かっている。

│  だが、どうしてもダメなんだ。

│  自分が、

│  その子の誕生や成長を喜び、祝うことを考えると、

│  まるで、

│  あの男のした行為を自分が有り難がり、感謝しているかのように思え、

│  その瞬間、

│  腹の底から怒りが込み上げてくる。

│  許せない気持ちになってしまう』

│ 『・・・』

│ 『・・・その、

│  勘違いしないでほしいんだが、

│  その子を産むことやキミたちの手で育てることを認めない・・・と言いたいわけではない。

│  ただ単に、

│  キミとウサギに知っておいてもらいたかった、というだけだ。

│  無事に産むことができ、

│  そして、キミたちの手で育てることになったら・・・だが、

│  その子の前では、

│  私は、そういった態度はとらない。

│  邪険にはしない。

│  大丈夫だ。

│  その子に罪は無いし、責任も無い。

│  それは分かってる』

│ お父さん、

│ 下向いたまま、息をひとつ吐きました。

│ そして、

│ 少ししてから顔を起こし、カメさんに何かを話そうとしたところで、

│ カメさんが、

│ 『あの・・・』と言いました。

│ お父さん、

│ 『ん? なんだ?』と尋ねました。

│ 『・・・あの、

│  これはまだ、ウサギさんには話してなくて、

│  あくまで僕がそう思っている、というだけなんですけど、

│  その・・・、

│  妊娠中の子を僕とウサギさんで育てることになって、

│  いつか、この子に僕のことを打ち明ける時期が来たとき、

│  この子に訊いてみて、この子が望めば・・・ですが、

│  あと、

│  この子の気質とか様々な状況を考慮し、ウサギさんと相談した上で・・・なんですけど、

│  血縁のある父親・・・ウサギさんの元カレのこと、

│  ちゃんと、ぜんぶ正直に話そうかな、って』

│ 『・・・』

│ 『別に、

│  責任を感じてもらおうとか、償いをしてもらおうとか、

│  そういうのじゃないんです。

│  この子には、

│  できればあまり隠し事をしたくないな・・・って、そう思ってるのと、

│  あと、

│  変に隠し、

│  それで何か疑いを持たれてしまうのもイヤなので・・・』

│ 『・・・』

│ 『元カレの話を知れば、

│  無論、ある程度の覚悟はしているのでしょうけど、

│  それでも、

│  恐らく、ショックを受けると思います。

│  落ち込むと思います。

│  でも、

│  世の中の、

│  同じ境遇を持つ、他の多くの人たちがそうであるように、

│  この子も、

│  勿論、時間はかかるでしょうけれど、

│  なんとか受け止め、

│  消化し、

│  自分なりの答えを出すと思います。

│  そして、

│  前を向き、生きていくはずです。

│  僕の心の底に、

│  その頃になっても、まだ、わだかまりが残っているのであれば、

│  この子のそうした(さま)や姿勢がそれを解かしていき、無くしてくれるような、

│  そういう気がします。

│  長年分からなかった、モヤモヤの答えを示してくれそうな、

│  そういう感じがします。

│  ・・・でも、

│  一方で、

│  この子に元カレのことを話す頃・・・と言うか、

│  多分、

│  話す話さないは関係なく、僕のことを打ち明ける頃には・・・なのですが、

│  そのときには、

│  心の底のわだかまりは、もうとっくに無くなっている気がするんです。

│  モヤモヤに対する答えを、

│  この子に、もうとっくに教えてもらっている気がするんです』

│ 『・・・』

│ 『僕の中では・・・ですけど、

│  子供って、

│  今を、常に全力で生きてるイメージなんです。

│  行きたいところがあれば、取り敢えず全力で駆けていきますし、

│  自分の好きなものがあると大喜びし、思い切り はしゃぎます。

│  親に怒られても、

│  自分が納得できないと、その小さな体を目一杯使って抗議し、

│  最後には、耳をつんざくような大きな声で泣き出します。

│  面白そうなものを見付けると、いつまでもじぃっと観察し、

│  近くに親が来ると、

│  これ何? あれは?、と矢継ぎ早に質問し・・・。

│  僕自身、小さい頃はそうでしたし、

│  昨年の暮れ、

│  曾祖母の屋敷で一緒になった親戚の子供たちも、そういう感じでした。

│  大騒ぎしながら、しょっちゅうそこら中を走り回っていて、

│  姉に頼まれ、姪たちの神経衰弱の相手をしたときは、

│  みんな、

│  本当に真剣な表情で、真剣にゲームに臨んでいて、

│  朝は、

│  その日に着る服のことで、親と激しくバトルし、

│  外を歩いていて、

│  自分の好きな消防車を見付けるや否や、姪が大喜びし、

│  すぐさま力の限りに姉の手を引っ張り、一緒に駆けていき、

│  消防署の前に着くと、

│  点呼していた消防士さんたちの様子をじぃっと観察し始め、

│  ときどき顔を姉のほうへ向け、熱心に何かを訊いていて、

│  小さいのに、すごいエネルギーだな・・・って。

│  そして、

│  大変そうだな・・・って』

│ 『・・・』

│ 『妊娠中の、この子も、

│  多分、そんな感じなんだろうな・・・って、

│  僕、思ってるんです。

│  毎日元気に走り回って、はしゃぎ回って、

│  思い切り笑って、思い切り喜んで、

│  思い切り怒って、思い切り泣いて、

│  気になるものがあれば次々に訊いて、次々に覚え、

│  夜になったら、

│  電池が切れたみたいに大人しくなり、ぐっすり眠って、

│  そうして、

│  翌朝になればまた元気になり

│  ドタバタ走り回って、いつも通りに騒ぎ始めて・・・。

│  勿論、

│  ときには転んで怪我をするでしょうし、

│  道が分からず、

│  あるいは進み方が分からず、途方に暮れてしまうこともあると思います。

│  自分の思うように行かず、悔し涙を流すこともあるでしょうし、

│  意気消沈し、塞ぎ込んでしまうこともあると思います。

│  でも、

│  休むことはあっても、

│  その歩みは、きっと止めないんです。

│  また歩き出すんです。

│  一生懸命 悩み、考えながら、

│  失敗し、ときどき弱気になりながら、

│  それでも、

│  前に向かって、一歩一歩 進んでいくんです。

│  成長し、大きくなっていくんです。

│  今、僕の心の底にあるわだかまりは、

│  そうした、

│  この子の大人になっていく様や軌跡が少しずつ解かしていき、

│  無くしてくれるような気がしています』

│ 『・・・』

│ 『自分では分からない、このモヤモヤの答えは、

│  この子が、

│  将来、

│  その背中で僕に教えてくれるんじゃないか・・・って、

│  そう思っています』

│ お父さん、

│ イスで顔を(うつむ)かせたまま、黙ってました。

│ でも、

│ やがて顔を上げると、

│ カメさんに言いました、

│ 『・・・キミのご両親の名前、

│  父カメさんと母カメさん、だったかな』って。

│ カメさんが答えました。

│ 『あ、

│  はい、そうです。

│  父カメと母カメです』

│ 『そうか、』と返したお父さん、

│ そのまま何度か小さく頷いたあと、

│ まっすぐカメさんを見て、

│ 『・・・良いご両親に育てられたな』と言って、ニッコリ笑いました。

│ カメさんが、

│ 明るい声で言いました。

│ 『あ、

│  はい! 僕には もったいないくらいの素晴らしい両親です!

│  尊敬しています!』

│ その後は、

│ カメさんの、大学卒業後の進路の確認のあと、

│ 内定先の会社についてや、その会社のある地域についての話、

│ カメさんのやりたいこと、興味を持っている分野の話をし、

│ 再び、カメさんの家族や故郷についての話に戻り、

│ 次いで、

│ お父さんが、

│ 自分が九州に住んでいたときのことを話していると、

│ お母さん、

│ お父さんのほうを向いて、

│ 『あなた、

│  そろそろお(いとま)しないと・・・』って、自分の腕時計を見せました。

│ 『え?

│  あぁ、もうそんな時間か。

│  なら、そろそろ帰ろう』

│ 『そうね、

│  帰りましょう』

│ お父さん、

│ 顔を、ワタシたちのほうへ戻しました。

│ 『じゃあ、

│  私と家内はそろそろ帰る。

│  で、

│  ウサギの妊娠中の子に関してだが、

│  出産については・・・、』と言ったお父さん、隣のお母さんに顔を向けると、

│ お母さん、お父さんを見て頷きました。

│ お父さんが、

│ 顔をこちらに戻し、言葉を続けました。

│ 『出産については認める。

│  ただ、

│  キミたちふたりの手で育てることに関しては、

│  返答は、ちょっと待ってほしい。

│  先ほど、

│  ウサギが自分で面倒を見ると言い出した場合のことを想定し、

│  (あらかじ)め私と家内で話し合っていた・・・と口にしたが、

│  詳細については、まだそこまで話し合っていないんだ。

│  本格的に考えるのは、

│  実際にウサギにそう言い出されてからでもいいだろうと思っていた。

│  なので、

│  もしものときはウチで面倒を見れるかどうか、

│  これから家内とちゃんと検討したいし、

│  それに、

│  多分、これは大丈夫だと思うが、

│  ウサギの元カレが親権を主張するとも限らん。

│  そうなった場合のことや、

│  あとは、他に何か考えなきゃいけない問題があるかどうか、

│  弁護士の先生に、

│  念の為、訊いておきたい。

│  なので、

│  育てることに関しての返答は、少し待ってほしい。

│  と言っても、1週間かからないと思う。

│  明後日、弁護士の先生と会う約束があるから、

│  多分、そのあとくらいだ。

│  まぁ、

│  カメ君もウサギも自分で言っていたが、

│  そもそも、キミたちふたりの仲がこれからも続くかどうかは分からない。

│  あまりそうなってほしくはないが、

│  例えば、3か月後に別れてしまうことも有り得るわけで、

│  それを考えると、

│  返答は、別にそこまで()く必要も無いと思う。

│  ・・・言っておくことはこれくらいかな?』

│ お父さんが、顔を隣のお母さんへ向けると、

│ お母さん、

│ 『学校への連絡のことは?』と訊きました。

│ 『あぁ、

│  ・・・まぁ、その話はもう明日でいいんじゃないか?

│  学校の先生方も今日は休みだろうし、

│  別段、そこまで急がなきゃならない理由も無いし・・・』

│ お母さん、頷きました。

│ 『そうね、

│  分かったわ』

│ お父さん、

│ 顔をカメさんのほうへ戻し、

│ 『キミは?

│  何か話しておきたいことはあるか?』と訊きました。

│ カメさん、

│ 『えーと・・・、

│  いえ、大丈夫です』と返しました。

│ お父さん、

│ ワタシに目を向けました。

│ 『ウサギは?』

│ ワタシ、首を振りました。

│ 『ううん、大丈夫』

│ お父さん、

│ 『よし、

│  じゃあ、帰ろうか』と口にし、立ち上がりました。

│ お母さんも、

│ 『そうね』と言って、立ち上がりました。

│ カメさんが、慌てて言いました。

│ 『あ、

│  イス、僕が戻しておきます』

│ お父さん、首を振りました。

│ 『いい、いい。

│  ウサギの未来の花婿さんに、そんなことさせるわけにはいかない。』

│ そう言って、

│ 自分とお母さんのイスを持ち上げ、そのイスを戻しに歩き出すと、

│ 『あぁ、そうだ、

│  カメ君、

│  キミは、漫画は読むのか?』と訊きました。

│ 『あ、

│  はい、読みます』

│ 『どんなのを読んでるんだ』

│ 『今は・・・』と言ったカメさん、

│ いま読んでる漫画のタイトルを、いくつか挙げました。

│ お父さん、

│ イスを壁際で下ろしながら、首を傾げました。

│ 『・・・知らないな。

│  何の雑誌だ、どこでやってる漫画だ』

│ 『えと、

│  漫画アプリです、スマホの』

│ お父さん、

│ 得心がいったように何度か頷きました。

│ 『・・・そうか。

│  現在(いま)の子は、そうか・・・』

│ 『あぁ、でも、

│  ちょっと前までは紙の本で読んでましたし、

│  今だって、

│  たまにですけど、紙で読んでます』

│ お父さん、少し笑いました。

│ 戸口で待つ、お母さんのところまで行くと、

│ ドアをちょっと開けてから、ワタシたちのほうを振り返りました。

│ カメさんに言いました。

│ 『兄ウサかウサギから聞いて、知ってるかもしれないが、

│  私は昔から漫画を集めるのが趣味でね、

│  最近のはそんなに無いが、古いのだったら結構ある。

│  もし良ければ、

│  近いうちに、一度ウチに遊びに来なさい』

│ 『はい!』

│ 『あと、

│  そのイス、あそこのデスクのものだから』

│ 『あ、分かりました』

│ お父さん、

│ そのまま横を向き、病室を出ていきました。

│ お母さんも、

│ ワタシたちに軽く頭を下げてから、お父さんに続いて出ていきました。

│ ドアが閉められました。

│ それから2日後、

│ 夜に、お母さんから電話がありました。

│ 元カレのことや、ワタシとカメさんの仲が続くかどうかの問題はあるけど、

│ ただ、

│ お母さんたちとしては、

│ この子をワタシとカメさんで育てることについて、認めるつもりでいる・・・という内容でした。

│ お礼を言ったワタシは、

│ すぐにカメさんに電話し、伝えました。

│ カメさん、ホッとした様子でした。

│ そして、

│ ふたりで頑張って育てよう、この子を幸せにしよう・・・って言ってくれました。

│ ワタシとカメさんの馴れ初めや、

│ この子を産むことにし、カメさんとふたりで育てることにした経緯は、

│ だいたいこんな感じです。

│ 1ヶ月半もかかってしまいましたが、

│ どうにか終えることができて、良かったです。

│ 途中、

│ 皆さんからの温かい言葉や励ましの言葉には、何度も何度も助けられましたし、

│ 力をいただきました。

│ ありがとうございます。

│ カメさんも、ありがとう。

│ 毎日 忙しいのに、

│ いつもワタシのために手伝ってくれて、応援してくれました。

│ 『多分、まだ8割くらいなんだけど・・・』って、

│ あの、短編小説並の補足が送られてきたときはビックリしました笑

│ それと、

│ 何回かコメントを頂きましたが、

│ ワタシは、

│ 別に、

│ 同じような目に遭われた人に対し、何かを言いたかったわけではありません。

│ そもそも、

│ ワタシ自身、堕ろすのが普通だろうな・・・って思ってますし、

│ 仮に、

│ 知り合いか誰かが同じような目に遭い、その人から相談されることがあれば、

│ ワタシは、

│ 恐らく、堕ろすことを勧めると思います。

│ ワタシが今回、

│ 産んで、育てることにしたのは、

│ ひとつは、

│ 多分、ワタシがお人好しな性格だからです。

│ 友達にも、

│ なんであんた怒らないわけ?、とよく言われます。

│ もうひとつは、

│ カメさんがいてくれたからです。

│ カメさんがいなければ、

│ ワタシ、間違いなく堕ろしていましたし、

│ 仮に産めたとしても、自分で育てることはなかったと思います。

│ 周りの人も、

│ どうか、当人に無理をさせないでほしいと思います。

│ 世の中には、

│ 自分の現状すら受け入れるのが困難で、苦しんでる方もいらっしゃいます。

│ 寄り添い、支えてあげるか、

│ あるいは、

│ できるだけ、そっとしておいてあげてほしいと思います。

│ では、

│ 最後に、

│ ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

│ これから先、

│ お腹がもっと大きくなって、もっと大変になるんでしょうけど、

│ でも、

│ なんとか無事に産めるよう、頑張ります。

│ 皆さん、

│ これからも宜しくお願いします!

│ カメさん、

│ 卒論、応援してるからね。

│ ふっくらお腹のウサギさん

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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