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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
296/301

294.ワタシは、下を向いたまま

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ ワタシは、

│ 下を向いたまま、手元のタオルをじっと見ていました。

│ 外の、近くの大通りを行き交う車の音が聞こえてました。

│ 自分の心臓の音も聞こえてました。

│ カメさんの声がしました。

│ 『・・・その、

│  僕、

│  実を言うと、

│  誰かを愛する、ってことがどういうことなのか、

│  まだ、そんなに分かってなくて・・・』

│ 『・・・』

│ 『自分の子を愛する・・・であれば、

│  多分ですけど、分かるんです。

│  例えば、

│  自分の子を幼稚園へ通わせるとき、

│  その送迎バスが来るところまで、

│  心配だから・・・と、毎朝 手を繋いで送っていってあげたり、

│  家で、

│  自分の子が、平仮名や片仮名の文字の書き取りをしているときに、

│  それを見てあげて、褒めてあげたり、

│  子供と一緒にお風呂に入り、一緒に100まで数え、

│  そうして、数の数え方を教えたり、

│  子供が急に高熱を出し、うなされてたら、

│  どんなに忙しくても病院へ連れていき、懸命に看病したり、

│  グリーンイグアナに会いたいと言って聞かない子供のために、

│  連休中に、

│  ちょっと遠くの動物園に連れていってあげたり、

│  川遊びをしてるとき、みんなが目を離してるすきに、

│  行くなと言った深いほうへ、ひとりでこっそり行こうとしてるのを見付け、

│  大慌てで“そっちはダメだ!”と子供のところへ駆けていき、

│  叱って、

│  もう行かないよう、言い聞かせながら連れ戻したり、

│  クリスマスの夜遅く、

│  子供が欲しがっていた新幹線のオモチャを、そっと枕元に置いて、

│  翌朝の、

│  子供が驚き、喜びの声とともに はしゃぎ回る(さま)を想像しながら、

│  電気を消し、自分も眠りに就くような、

│  まぁ、全部ウチのことなんですけど、

│  とにかく、

│  そんな感じの、いわゆる親子愛が、

│  恐らくは、

│  自分の子を愛する・・・ということなんだと、僕、認識しているんです。

│  けど、一方で、

│  男女間の愛、

│  要するに、ウサギさんを・・・愛すということなんですけど、

│  そっちについては、

│  正直、あまりよく分かっていないんです』

│ 『・・・』

│ 『先ほどの、

│  子供を愛すことの例で挙げた、高熱に浮かされた際の看病の話で言うと、

│  もしウサギさんがそうなれば、

│  大丈夫だろうか・・・と、僕、心配すると思います。

│  寝ているウサギさんの様子を見るついでに、水を持っていってあげたり、

│  何か欲しい物を訊いて、買ってきてあげたり・・・、

│  そんな感じで、親身になって看病すると思います。

│  でも、それ、

│  僕の中の感覚で言えば、

│  ウサギさんを愛しているからそうする、と言うよりも、

│  ウサギさんのことが好きだからそうする、なんです。

│  他にも、

│  ウサギさんが、何かをひとりで悩んでいそうなときは、

│  その話を聞いてみて、

│  良い案がないか、一緒になって考えようとすると思います。

│  けど、それも、

│  愛しているから、と言うより、

│  好きだから、なんです。

│  好きだから、そうしてあげたい・・・なんです。

│  ・・・ウサギさんにしてあげたいと思うことの全部が全部、そんな調子で、

│  愛しているからこそしてあげられることが何も浮かんでこなくて、

│  なら、

│  愛すとはどういうことなんだろう、って・・・』

│ 『・・・』

│ 『だから、

│  ウサギさんを本当に愛してくれようとしているのか、については、

│  僕、答えられないんです。

│  分からないんです』

│ 『・・・』

│ 『ただ、

│  今さっき挙げた、看病の例や ひとりで悩んでた際の例を含め、

│  ウサギさんと一緒になったら、

│  こういうことをしたい、してあげたい・・・と思ってることはいくつもあって、

│  それだったら、

│  僕、大丈夫なんです。

│  本当にそうするつもりでいると、自信を持って答えられるんです。

│  なので、

│  愛そうとしてくれているのか・・・についての、満足な返答にならないかもしれませんけど、

│  代わりに、

│  それを、今から言っていこうと思います。』

│ カメさんの声が、一旦途切れました。

│ 間がありました。

│ 再び、聞こえてきました。

│ 『・・・僕は、

│  朝起きたとき、ウサギさんにおはようと挨拶します。

│  寝るときは、おやすみと言います。

│  出掛ける際は、行ってきますと言って、

│  帰宅時は、ただいまと言います。

│  朝は、

│  ゴミの日なら、

│  出社ついでに、家のゴミを集積所まで持っていきます。

│  会社の人に飲みに誘われる等、急に夕飯がいらなくなったときは、

│  早めにウサギさんに連絡します。

│  残業で帰りが遅くなりそうな際にも連絡し、

│  深夜になりそうだったら、先に寝ていてほしいと伝えます。

│  食器洗い程度の軽い家事なら、平日でもときどき僕が代わります。

│  休みの日のトイレやお風呂掃除は、僕がします。

│  買い物に行ったとき等の重い荷物は、僕が持ちます。

│  病気などでウサギさんが家事をするのが難しいときは、できるものは僕がします。

│  ウサギさんからの相談には、ちゃんと耳を傾けますし、

│  何か要望があれば、それに応えようと努力します。

│  ウサギさんがつらそうな表情をしていたら、話を聞いて元気付け、

│  手助けできそうなら、手助けします。

│  ウサギさんの笑顔がまた戻るよう、力を尽くします。

│  ウサギさんが何かを頑張ろうとしていたら、

│  僕はそれを応援し、できる範囲でサポートします。

│  そうして、

│  その頑張っていたことが達成できたら、

│  一緒になって喜び、祝福します。

│  ダメだったときも、

│  話を聞いて慰め、また頑張れるよう励まします。

│  結婚記念日やウサギさんの誕生日のときは、

│  ウサギさんに、日々の感謝の気持ちを伝えます。

│  ありがとう、って伝えます。

│  ウサギさんを悲しませるような真似はしません。

│  浮気はしませんし、

│  ウサギさんに手を上げることもしません。

│  喜びも苦しみも分かち合ってくれる、かけがえのないパートナーとして、

│  一生懸命 大切にします。

│  ・・・。

│  妊娠中のこの子も、大切にします。

│  手を上げることはしません。

│  どんな子だろうと、

│  自分の子として、責任を持って育てます。

│  見放しません。

│  会社から帰ってきたときや、休日のとき、

│  ちゃんとその子の面倒を見ます。

│  一緒にお絵描きしたり、

│  僕にそうする元気があれば・・・ですけど、追いかけっこをしたりして遊んであげます。

│  一緒にお風呂に入り、

│  一緒に歌を歌ったり、その日にあったことを聞きながら体を洗い、

│  湯船に()かって、100まで一緒に数えます。

│  お風呂を出たら、

│  体拭きや、パジャマを着るのを手伝ってやり、

│  子供のおやすみの際には、本の読み聞かせをしてあげます。

│  悪いことをしたらちゃんと叱り、

│  良いことをしたらたくさん褒めます。

│  子供が寂しがっていたら、できるだけ一緒にいてあげて、

│  子供が悩んでたり困ってたら、

│  一緒になって悩んであげて、困ってあげます。

│  子供の卒園式や小学校の入学式、運動会などのときは、

│  それに出席するため、

│  仕事は、できる限り休みを取ります。

│  休日には、ときどき家族で出掛けます。

│  子供の好きな映画を観に、映画館へ行き、

│  様々な動物たちを近くで見に、動物園や水族館に連れていきます。

│  遊園地やアスレチックにも連れていきます。

│  夏休みには、

│  近所のお祭りに、家族みんなで浴衣姿で出掛けて、

│  屋台のりんご飴や水風船を買ったりし、お祭りの雰囲気を楽しみます。

│  夜に打ち上げ花火のイベントがあれば、

│  歩道橋の上など花火の見えるところに行って、家族で一緒に楽しみます。

│  川や海、山にも行きます。

│  冬は、

│  スケートかスノーボードに連れていき、

│  夜は、

│  ホテルや民宿の熱い温泉に()かり、

│  赤くなった顔で、疲れをゆっくり癒やします。

│  家では、

│  家族みんなでコタツに入り、

│  冗談を言いながらカードゲームやボードゲームで遊んだり、

│  みかんを頬張りながらテレビを見ます。

│  初詣に出掛けたり、凧揚げもします。

│  習い事も、

│  英会話くらいは、可能だったら小さい頃からやらせます。

│  経済的に余裕が出てきて、充分なお金が貯まったら、

│  戸建ての家を買います。

│  そして、

│  犬を新しい家族として迎え、

│  休みの日には、子供と一緒に犬の散歩をし、

│  時折、ドッグランに連れていきます。

│  いつか、

│  どこかの連休中で、ペットも同乗可能なキャンピングカーを借り、

│  家族みんなで小旅行に出掛けます。

│  学校で友達と上手くやっているだろうか、いじめられたりしてないだろうか、

│  普段からウサギさんとふたりで気を配りながら、話し合いながら、

│  大事に育てます。

│  ・・・。

│  子供が自立し、

│  ウサギさんと僕、犬だけになったら、

│  若い頃にはそんなに捻出できなかったであろうウサギさんと僕の時間を大切にし、満喫します。

│  色々なところに一緒に出掛け、

│  同じ空気の中、

│  一緒の景色を見て、一緒の音を聞き、一緒に笑って、一緒の気持ちを共有し、

│  そうして、

│  一緒の思い出をたくさん作ります。

│  定年になったら、

│  会社勤めしているときにはできなかった、やりたいことを始め、

│  ウサギさんと犬とで、

│  ゆっくり、気ままに暮らします。

│  死ぬまで一緒に暮らし、

│  そして、

│  お別れのときに、

│  ウサギさんが、

│  この人で良かった・・・と思ってくれるような、そういう伴侶になります。

│  ・・・。

│  ウサギさんや妊娠中の子を、本当に愛してくれようとしているのか・・・という問いには、

│  僕、

│  愛すということがまだよく分かっていないので、答えられません。

│  でも、

│  いま挙げたことなら大丈夫です。

│  そうするつもりでいる・・・と、自信を持って答えられます。

│  断言できます。

│  ウサギさんたちの面倒を見ることについては、

│  その、

│  一緒に暮らしてみたけどどうしても合わなくて・・・という可能性もなくはないので、

│  どの程度見るか、どういった形で見るか・・・は、

│  将来の状況によって変わってくると思います。

│  ただ、

│  いずれにせよ、

│  見放したり、見捨てたりするつもりはないです。

│  その覚悟を持っています。

│  ・・・。

│  ウサギさんやこの子と、家族として生きていくことになれば・・・ですが、

│  僕は、

│  家族のためにも、一生懸命 働くつもりでいます。

│  不自由な思いを家族にさせないよう努めますし、

│  父として、全力で家族を守ります。

│  そうして、

│  笑いの絶えない、温かい家庭にします。

│  ウサギさんとこの子を僕が必ず幸せにしてみせる・・・って、

│  心からそう思っています』

│ ワタシ、

│ タオルで顔を押さえたまま、口を開きました。

│ 『ワタシも、

│  ワタシもカメさんとこの子を必ず幸せにしてみせる・・・って、心からそう思っています。

│  家事や育児を一生懸命 頑張りますし、

│  それに、

│  ワタシだって、働けるようになったら働くつもりです。

│  ワタシだって働いて、お金を稼いで、

│  家族をちょっとでも楽にします。

│  可愛いワンちゃんを迎えて、

│  笑いの絶えない温かい家庭にして、

│  楽しい思い出をたくさん作って、

│  そうして、

│  いつかお別れの際に、

│  カメさんに、

│  ワタシで良かった・・・って思ってくれるような、そういう伴侶になります。

│  絶対なります』

│ そう言ったワタシは、

│ 鼻をすすり上げてから、顔を起こしました。

│ お母さん、

│ 微笑みを浮かべ、

│ 『・・・分かったわ。

│  カメさんもありがとね。』って、ワタシとカメさんに言いました。

│ そして、

│ その微笑んだ顔を、隣のお父さんへ向けると、

│ 『カメさんは、

│  休みの日に、トイレ掃除もしてくれるんですって』と言いました。

│ 苦笑いしたお父さん、

│ まいったな・・・って、頭に手をやりました。

│ そして、

│ 手を下ろすと、下を向き、

│ 息をひとつ吐きました。

│ 『・・・分かった。』って返しました。

│ お父さん、

│ そのまま、じぃっとしていました。

│ やがて、

│ 顔を上げ、

│ ベッドの上のワタシを見て、尋ねました。

│ 『・・・ウサギ、

│  お前は、

│  お腹の中の、その子に対して、

│  その・・・良くない感情というか、

│  そういうのはまったくないのか』

│ 続きます。

│ この子をカメさんと育てることにした経緯(いきさつ)の話は、

│ 多分、次でラストです。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あけましておめでとうございます。

もう何回目か分かりませんが、今年こそ完結できるよう頑張ります。

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