表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Summer Echo  作者: イワオウギ
V
294/301

292.『どうだった?』

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 『どうだった?』

│ 『産むの、OKでした』

│ 『・・・そっか、良かった。

│  で、僕のことは?』

│ 『話しました。

│  お父さんとお母さん、会ってくれるって』

│ 『・・・分かった。

│  じゃあ、今から行く』

│ 『はい、

│  お願いします』

│ 『やれるだけのことをしよう。

│  大丈夫、

│  きっと上手く行く』

│ 『はい!』

│ 『じゃあ、また』

│ 通話を終えたワタシは、

│ 『カメさん、

│  今からこっちに来るって』と言いながら、スマホをベッドテーブルに戻しました。

│ お母さん、

│ 立って、こちらに背を向けていて、

│ 自分のイスをワタシからちょっと遠ざけていました。

│ そうして、

│ 『一応訊くけど、

│  あなた、カメさんとのお付き合いの件はOKしたの?』って尋ねつつ、

│ お父さんのイスの背後に立ち、

│ その背もたれを持って、ちょっと浮かせました。

│ 『うん、

│  OKした』って、ワタシは答えました。

│ お母さん、

│ お父さんのイスを、自分のイスの後ろに置きました。

│ そして、

│ 自分のイスに再び腰掛けながら、

│ 『妊娠中の子も一緒に、ってほうは?』と訊きました。

│ 『そっちも、

│  その、お母さんたちが許してくれれば・・・』って、ワタシは返しました。

│ お父さんが、

│ ライティングデスクのイスを抱え、こっちに戻ってきました。

│ 坐っているお母さんの脇を通り、ワタシの近くまで来ると、

│ 『どうなってんだ、いったい・・・』って(こぼ)しつつ、

│ 運んできたイスを、ワタシのすぐ隣に置きました。

│ そうして、

│ 自分たちのイスとちゃんと正対するよう、向きを少し調整すると、

│ 頭を上げて後ろを振り向き、

│ お母さんの脇を再び通って、自分のイスの向こう側に立ちました。

│ お母さんが、

│ 『あなたたち、

│  いつも私の来る前に会っていたの?』って、ワタシに尋ねました。

│ 『あ、えと、

│  いつも、ってわけじゃなく――』

│ そのとき、

│ トントン・・・って、ノックの音が響き、

│ 次いで、

│ 『カメです』って声が聞こえました。

│ ワタシは、

│ 1回深呼吸しました。

│ 『・・・どうぞ』って返しました。

│ ドアが開き、カメさんが現れました。

│ カメさん、

│ 部屋に入るとドアを閉め、ワタシたちのほうへ向き直りました。

│ 大学名と自分の名前を言ったあと、

│ 『宜しくお願いします』と頭を下げました。

│ 立っているお父さんが言いました。

│ 『ウサギの父の父ウサです。

│  こちらが、家内の母ウサです。』

│ お母さん、

│ いつの間にか横を向いて坐っていて、そのままカメさんに軽く会釈をしました。

│ カメさんが頭を上げると、

│ お父さん、

│ 『どうぞ、こちらへ』って言って、

│ 手で、

│ ワタシのすぐ横に置かれた、ライティングデスクのイスに促しました。

│ 『あ、

│  はい、失礼します』って返したカメさん、

│ お父さんたちのそばを通り、ワタシの近くに来ました。

│ 坐り直したお母さんが、自分の対面にあるイスに手を向け、

│ カメさんに、

│ 『どうぞ、坐って』と言いました。

│ カメさんが、

│ 再び、

│ 『はい、

│  失礼します』って返し、イスに腰掛けました。

│ お父さんが、自分のイスをお母さんの隣に置きました。

│ そして、

│ そのイスに坐ると、

│ 顔をカメさんのほうへ向け、

│ 『で、

│  早速なんだが、

│  カメ君は、ウサギの事情は知っているな?』と尋ねました。

│ カメさんが答えました。

│ 『あ、はい、

│  知っています、だいたいのところは・・・』

│ 『なら、

│  その、申し訳ないが、

│  学生証か何かを見せてくれんか。

│  家内は、

│  キミの名を兄ウサから聞いたことがある・・・と言ってるんだが、

│  何しろ、

│  あぁいうことがあったばかりで、色々不安なんだ。

│  念のため、確認させてほしい』

│ 『分かりました』と返したカメさん、

│ 腰を一旦浮かせて、ズボンのポケットから財布を出しました。

│ そうして、

│ 財布の中から学生証と免許証を抜き出すと、

│ 学生証はお父さんに、

│ 免許証はお母さんに渡しました。

│ お父さんとお母さん、

│ それぞれ渡されたものをじっと見たあと、互いに交換しました。

│ お母さんが、

│ 学生証をカメさんに返す際に、

│ 『カメさんは下宿されているの?』と尋ねました。

│ カメさん、

│ 学生証を受け取りながら、

│ 『あ、

│  はい、下宿です』と答えました。

│ 『お産まれはどちら?』

│ 『えっと・・・、』って口にしたカメさん、お父さんからも免許証を受け取ると、

│ 『出身はY県です』と答えました。

│ 『あら、Y県の人なの。

│  Y県のどこ?』

│ カメさん、

│ 財布に学生証と免許証の2枚を戻しつつ、実家の市の名前を言いました。

│ そして、

│ その大まかな場所や雰囲気などを軽く説明しながら、また一旦腰を浮かせると、

│ 財布をズボンのポケットに戻しました。

│ 次いで、

│ そのまま、街の成り立ちや郷土料理の話をお母さんとカメさんで少し喋り、

│ それが一段落したタイミングで、

│ お父さん、口を開きました。

│ 『・・・で、

│  キミとウサギのことなんだが、

│  まず、

│  どうして会うような関係になったのか、その経緯をちょっと話してほしい。

│  ウサギは、

│  先月からずっとここで入院していて、病気の療養を続けている。

│  その療養中のウサギに急に新しい彼氏ができて、

│  しかも、

│  さっきのウサギの説明では・・・だが、

│  会って、まだ20日足らずで、

│  それで、

│  結婚を前提に・・・とか、そういう話になっていると言われても、

│  こちらとしては、そうそう素直に信じることはできない。

│  冗談なんじゃないか、と思ってしまう。

│  会うようになった経緯を、

│  まずは、ちょっと話してほしい』

│ 『分かりました。』と返したカメさん、

│ 下を向いて、

│ 息をひとつ吐くと、

│ 少しして、顔を上げました。

│ 『・・・僕がウサギさんのことを知ったのは、

│  先月の下旬です。

│  ウサギさんがここに入院した、その日の夜に兄ウサから聞かされたのですが、

│  そのときのことを話す前に、

│  まずは、

│  更に2週間ほど前の、僕の友人の――』

│ そうやって語り始めたカメさん、

│ 7月の中頃に友人の結婚式で帰省した際のことを、

│ まずは、話しました。

│ 両親から、

│ 自分は、血の繋がりのない養子であったと知らされたと話しました。

│ お父さんもお母さんも、

│ ちょっと驚いた顔をしました。

│ そして、

│ お母さん、

│ 『あぁ、それでさっき・・・』と言いました。

│ スマホをズボンのポケットから出したカメさん、

│ 指でそれを操作しながら言いました。

│ 『ゆうべ、実家に電話し、

│  その書類が残ってないか、親に訊いてみたんです。

│  そしたら、

│  だいたいとってある、と言われたので、

│  大丈夫そうなものだけ写真に撮ってもらい、送ってもらいました。

│  あと、

│  家族写真も1枚あります。

│  全て同じフォルダに入れてありますので、

│  指で横にスライドさせれば、確認できます』

│ お父さん、

│ 差し出されたスマホを受け取ると、

│ 隣のお母さんと体を寄せ合い、ふたりで写真を見始めました。

│ お父さん、

│ スマホをお母さんとの間で手で持っていて、

│ そのスマホにお母さんが手を伸ばし、指で操作し、

│ ふたりでときどき小声で何かを話し合いながら、写真を確認していきました。

│ お母さん、

│ 画面上で、2本の指を広げる動作をしました。

│ そうして、

│ カメさんに、

│ 『・・・この、車イスのおばあさんの後ろに立ってるのがあなたよね?』と尋ねました。

│ カメさんが答えました。

│ 『はい、そうです。

│  隣に立ってるのは、兄の兄カメで、

│  その更に向こうにいるのは、

│  姉の姉カメと、その家族です』

│ 『車イスのおばあさんを挟んだ反対側にいらっしゃるおふたりが、

│  あなたのご両親かしら』

│ 『そうです。

│  父の父カメと、母の母カメです』

│ 『・・・。

│  その、あなたのお兄さんやお姉さんは・・・』

│ 『姉も兄も、血が繋がっています。

│  僕だけです』

│ 『そう・・・。

│  この、真ん中の車イスの方は、

│  じゃあ、あなたのお祖母(ばあ)さまかしら』

│ 『いえ、曾祖母です。

│  僕の母方の祖父の、母親で、

│  名前は、曾祖母カメ(※フルネームです)と言います。

│ 『あら! そうなの。

│  おいくつでいらっしゃるの?』

│ 『えーっと、

│  (とし)は確か・・・』

│ それから、

│ カメさんとお母さんで、

│ カメさんのひいおばあさんの話や、お姉さん夫婦とその娘さんの話をちょっとして、

│ 次いで、

│ お母さん、

│ カメさんのお兄さんについて聞こうとし始めたので、

│ お父さんが言いました。

│ 『母ウサ、

│  今は、

│  カメ君とウサギの、会うようになった経緯の説明の、まだ途中なんだ。

│  その話は、ひとまずあとにしよう』

│ お母さん、

│ ハッとした表情で、

│ 『あらいけない。』って、慌てて口に手を当てました。

│ そうして、

│ 続けて、

│ 『私ったら、すっかり忘れちゃって・・・。

│  ごめんなさいね』って、カメさんに謝りました。

│ お父さんが、

│ 『写真、もういいか?』って、お母さんに尋ねました。

│ 『ええ、

│  私は、もう大丈夫』と返したお母さん、寄せていた体を戻しました。

│ お父さんも体を戻し、

│ カメさんに、

│ 『ありがとう』ってお礼を言いつつ、カメさんのスマホを差し出しました。

│ 受け取ったカメさん、

│ そのまま、経緯の説明を再開させました。

│ 1ヶ月くらい前に自分が養子だったと知らされ、強いショックを受けたこと、

│ 黙ってアパートに帰り、

│ その後、

│ 親とは口を利かず、悶々とした日々を送っていたこと、

│ そんなとき、研究室で自分のノートPCの調子がおかしくなり、

│ ワタシのお兄ちゃんにノートPCを借りたこと、

│ そしたら、

│ そのPCに、

│ ワタシが自分の妊娠のことでネットで調べたり、相談したときの痕跡が残っていて、

│ そこに、特別養子縁組の解説サイトにアクセスしていたらしい跡もあって、

│ それを見て、

│ ワタシのお兄ちゃんが、自分のことでそういうことを考えているんじゃないかと思ってしまい、

│ 許せない気持ちになって・・・と、

│ カメさん、

│ お父さんたちに、順に説明していきました。

│ そうして、

│ 夜、ラーメンに誘われた際、

│ ワタシのお兄ちゃんに掴み掛かったことをカメさんが話すと、

│ お父さんもお母さんも、

│ え・・・って、驚いた表情をしました。

│ お父さん、

│ 『掴み掛かったのか、兄ウサに』と言いました。

│ ※ウサギ注:お兄ちゃん、ラグビーしていて結構体が大きいので。

│ カメさん、頭をかきながら言いました。

│ 『掴み掛かったと言うか、

│  胸ぐらを掴んだ、という感じなんですけど、

│  まぁ・・・。

│  あのときの僕、完全にキレちゃってまして、

│  すみません・・・』

│ 『いや、

│  兄ウサのことは別にいいんだが・・・』

│ そのあとも、

│ カメさん、

│ ワタシと会うようになった いきさつを話していき、

│ 最後に、

│ 投稿用に収録したワタシの音声(ボツ音声です。冒頭部分はカットしてありました)を、

│ 3つ、カメさんのスマホで流しました。

│ 『・・・こんなふうに、

│  僕、収録のために毎日ウサギさんの病室に来ていたんです。

│  そうして、

│  その、

│  あるとき、自分の中のウサギさんに対する気持ちに気付きまして、

│  それで、

│  ウサギさんに自分の気持ちを・・・って、

│  だいたい、そんな感じです』

│ 経緯を語り終えたカメさん、

│ 電源ボタンを押し、スマホをスリープさせると、

│ ズボンのポケットに戻しました。

│ カメさんの語る経緯を、

│ 下を向いて、じっと聞いていたお父さん、

│ 少ししてから言いました。

│ 『・・・なるほどな。だいたい分かった。』

│ そして、

│ 顔を上げると、

│ カメさんを見て、続けて言いました。

│ 『家内がな、

│  ウサギのことで、ちょっと不思議がっていたんだ、

│  あの子、今にも()を上げそうなのに、

│  いつまで経っても、ちっとも音を上げない。

│  そんなに頑張れそうに見えないのに・・・って。

│  カメ君の今の話を聞いて、合点がいった。

│  キミが、そうやってウサギのことをずっと支えてくれていたんだな』

│ 『え?

│  あ、いや、

│  支えたと言っても・・・。

│  だいいち、

│  ウサギさんの友――』

│ 慌ててそう口にしたカメさんに向かって、

│ お父さん、

│ 深く頭を下げました。

│ 『ありがとう、

│  ウチの娘のために、そこまでしてくれて。

│  そして、

│  そんなキミに疑いの目を向けてしまい、申し訳ない。

│  許してほしい』

│ 隣のお母さんも、カメさんに頭を下げました。

│ カメさんが言いました。

│ 『いや、

│  許してほしい・・・って、別にそんな。

│  その、

│  ウサギさんの事情を考えれば、親として当然だと思いますし、

│  僕、ぜんぜん気にしてませんから。

│  大丈夫ですから。

│  だから、そんな・・・』

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ