27.バスは、いつの間にか
バスは、いつの間にか、
見通しの良い場所を走るようになっていた。
窓の向こうの景観を、今までずっと塞いでいた深い森は、
この辺りには存在しない。
代わりに、
緑一色の、草の絨毯が、
遠く向こうの方まで、なだらかに続いていた。
バスに乗る私たちの目線よりも僅かに低い樹木たちが、
そこに、ポツポツと疎らに生えている。
その、広い草原の背後には、
険しそうな山々の尾根が、そびえ立っていた。
山の斜面は、
見ると、全体的に灰色の岩肌で覆われていた。
ところどころ、
濃い緑の、シミのような部分が出来ているが、
多分、
ハイマツなどの高山植物が、そこに群生しているのだろう。
そして、
そうした灰色と緑の入り混じった山肌には、
白の縦スジが、何本か長く延びていた。
谷底に残る、万年雪だ。
夏の強い日差しを受け、遠くで真っ白に輝いている。
私たちの乗るバスは、
そんな清々しい風景の中、
高原に延びる道の上を、ひたすらに走っていた。
少年は、
今は窓の方を向いて、外の景色を大人しく眺めていた。
実は少し前、
また、話をせがまれたのだが、
「バスを降りたらね」
と、
前のシートを指差しつつ、やんわりと断ったところだった。
少年は、そのまま私の顔をじっと見ていたのだが、
やがて、
しぶしぶ体の向きを変え、こちらに背を向けた。
私は、前に向き直すと、
シートの背に自分の背中を、ゆっくりと預けていく。
車内の薄暗い天井を、ぼんやりと見上げる。
念のため、次の話題を探しておくことにする。
バスがカーブを曲がるたび、
私の上体が、右に左に大きく傾く。
もう、かなり登ってきたはずだ。
私は、
シートにもたれたまま顔を横に倒し、窓の外を眺めた。
地面を這うような低い樹木。
芝のような、明るい緑色の草。
大小様々な岩が、たくさん転がっており、
平べったく、とても固そうな白い雪が、
地面のあちこちに、
のっぺりと、こびり付いていた。
背の高い木は、全く見当たらない。
高木限界を、
既に、越えてしまったのだろう。
そのまま私は、少年の方に視線を移した。
小さな背中。
小さな頭。
車体が上下に揺れ。
それに合わせて、少年の姿も上下に揺れ。
私は、横に倒していた顔を戻すと、
前の席の背もたれ越しに、
車内の薄暗い天井に、また目を向ける。
少ししてから、息をひとつ。
ダムでのことを考えると、ちょっとだけ気が重くなった。




