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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
286/292

286.『・・・で、 ウサギ

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 『・・・で、

│  ウサギ、ちょっといい?』

│ 少しすると、

│ 友達の声が聞こえてきました。

│ 慌てて顔を上げたワタシは、

│ 『あ、

│  うん。何?』って返しました。

│ 友達は、

│ 視線を自分のスマホに落としていて、その画面の上で指を動かしていて、

│ そのまま、話し始めました。

│ 『私さぁ、

│  さっきのあんたの話を聞いてて、ちょっと疑問に思ったんだ。

│  シングルマザー・・・って言うか、ひとり親の家庭って、

│  確かに、

│  色々大変そうだな・・・とは、私も思うんだけど、

│  でも、

│  ホントにみんな、

│  あんたの言うような、

│  そこまでリスクのある、崖っぷちの生活を送っているのかな・・・って』

│ 『え?』

│ 『中3のとき、

│  隣のクラスに、母子家庭の子がいたんだよ。

│  離婚は、物心が付く前だったらしい。

│  父親のこと、ぜんぜん覚えてない・・・って話してた』

│ 『・・・』

│ 『その子、

│  私の通ってた塾に、2学期の途中から週一で来るようになってさ、

│  で、話すようになったんだけど、

│  着ている服とか持ち物とか普通だったし、自分の携帯だって持ってた。

│  家の電話を解約して・・・ってことらしい。

│  携帯を買ってもらうとき、

│  中古の、もっと安い機種でいい・・・って言ったのに、

│  お母さん、

│  バッテリーの問題もあるし、長く使ってもらわないと困るから・・・って、

│  新しいのを買ってくれた・・・って話してた』

│ 『・・・』

│ 『確かに、

│  話を聞いてると、生活にあまり余裕は無いような感じだった。

│  お母さん、仕事で疲れてるから・・・って、

│  休みの日以外の炊事や洗濯とかの家事は、だいたいその子がやってるみたいだったし。

│  けど、

│  一方で、

│  ホントにギリギリの、

│  それこそ爪に火を灯すくらいの生活をしていたようにも思えなくて・・・』

│ 『・・・』

│ 『で、

│  ちょっと気になって調べてみたら、

│  児童手当とか児童扶養手当、ってのがあるんだって。

│  知ってる?』

│ 顔を上げた友達が、そう訊きました。

│ ワタシ、首を振りました。

│ 『ううん、

│  知らない・・・』って返すと、

│ 友達は、

│ 視線を再びスマホに落とし、その画面を見ながら話し出しました。

│ 『えーっと、

│  まず、児童手当のほうの説明ね。

│  これは、

│  子供を育てている全家庭が、自分たちの住む自治体から支給されるお金のことで、

│  その支給額は、

│  子供が3歳未満のときは、

│  一人あたり、毎月1万5000円で、

│  3歳から高校生の年頃までの間になるとちょっと減って、毎月1万円らしい。

│  3歳未満のほうが支給額が大きいのは、

│  その時期のほうが子育ては手がかかって大変だから・・・ってことじゃないかな。

│  で、

│  もうひとつの、児童扶養手当のほうは、

│  これは、

│  ひとり親世帯とか、

│  そういう子育てが大変そうな人が、役所で申請すれば追加で支給されるお金のこと。

│  さっきの児童手当に加え、月に4万円以上支給されるケースもあるみたい。

│  ただ、

│  ひとり親家庭なら必ずそれだけの追加額が支払われる・・・ってわけじゃなくて、

│  その、ひとり親家庭の世帯収入がそこそこあったり、

│  あるいは、

│  自分の実家で子育てをしていて、家賃とかの心配が要らない状況だったりすると、

│  児童扶養手当による追加額はそこまで多くなくて、

│  それどころか、追加ナシって場合も普通に有り得るらしい。

│  あぁ、

│  それと、

│  二人目、三人目の子供がいたとしても、

│  児童手当とは違って、一人目と同じ額が追加されるわけじゃないんだって。

│  結構少なくなるみたい。

│  双子の場合でもそうなのかな・・・。

│  あと、

│  ひとり親家庭の人の医療費についても、助成の制度があるんだってさ。

│  所得制限等の条件がある場合がほとんどらしいけど。

│  これらの支援の他にも、

│  自治体によっては、独自の支援制度があったりするらしくて、

│  だから、

│  もし、

│  万が一、あんたひとりの手で育てることになっても、

│  その上、家族等の協力さえも得られないのだとしても、

│  一応は、

│  なんとかやっていけそう・・・って感じだった。

│  それで、

│  えーっと・・・ちょっと待ってね。

│  ・・・。

│  あ、これだ。

│  で、

│  実際の暮らしぶりはどんな感じだろう・・・って思って、調べてみたらね、

│  やっぱり、結構大変みたい。

│  母子家庭の世帯収入の平均は、

│  いわゆる一般的な家庭・・・ふたり親家庭の世帯収入の半分よりも更にちょっと少くて、

│  だから、

│  暮らせてはいるけど、

│  色々我慢して、日頃から頑張って節約しなくちゃいけないのが実情みたい。

│  家での食事は、

│  仕事とかで疲れていても、できるだけ自炊するようにして、

│  服も、

│  基本的には、

│  古着屋さんやリサイクルショップを回って、安く手に入れるようにして、

│  知り合いとか近所の人からお下がりを譲ってもらえるなら、譲ってもらって・・・って、

│  そんな感じで。

│  同年代の他の子みたいに、塾とか習い事になかなか通わせられないのが心苦しい・・・って、

│  そんな内容の発言を、ちょこちょこ見かけた。

│  お子さんが二人とか三人の場合は、

│  きっと、更に大変なんだろうな・・・って思った。

│  あと、

│  シングルママさんの人の中には、

│  何らかの病気や障害のある子を育てている人もいるんじゃないか・・・って思って、

│  それも、

│  一応、調べてみた。

│  母子家庭ってだけでも大変なのに、

│  お金や手間が少しかかりそうな、そういった子をちゃんと育てられるのだろうか、

│  そういう子のための支援の制度もありそうだけど、

│  それでも、かなり厳しいんじゃないのかな・・・って、

│  そう思って。

│  正直、

│  調べるのはちょっと気が重かったんだけど、

│  ただ、

│  念のため、知っておいたほうがいいような気がして・・・。

│  そしたらさ、

│  それでもなんとか子育てを頑張ってるシングルママさんが結構いてさ、

│  私、ちょっとビックリした。

│  やってけるんだ、って思った。

│  しかも、

│  大変そうは大変そうだったんだけど、

│  少なくとも記事の中では、

│  そんな、悲壮感漂う・・・って感じでは全然なくて、

│  明るくて、前向きで、

│  自分の子供の、日々の笑顔や少しずつの成長を心の底から喜んでいて、

│  それを心の支えに頑張っていて・・・。

│  けど、一方で、

│  二進(にっち)三進(さっち)もいかない、相当厳しそうな状況のママさんも、

│  やっぱり見かけた。

│  私が読んだ印象では・・・だけど、

│  本人のやる気が足りないとか、子供に対しての愛情が足りないとか、

│  そういう問題じゃ無くて、

│  不可抗力って言うか、

│  ホント、どうしようもない感じで・・・。

│  ひとり親で、

│  しかも、そうした子を育てているとなると、

│  仕事を探すときに、

│  自分の働きたい日数や働ける時間帯、場所といった勤務形態の面で、

│  選択の幅が結構限られてしまって、

│  それで、

│  その人も苦労して、やっと良さそうな職場を見付けたんだけれどね、

│  ただ、

│  そこ、ちょっと遠かったんだって。

│  電車は無くて、

│  自転車でなら通えるけど、片道40分。

│  他の良さそうな職場は、更に遠く。

│  だから、

│  その人、自転車で40分のそこの職場に勤め始めたんだ。

│  でも、

│  毎日の子育てや家事、仕事のある日は仕事にも追われてる関係で、

│  その40分の自転車通勤が、体力的にキツくなってきて・・・。

│  で、

│  自転車じゃなくて、バスでの通勤に切り替えたの。

│  ただ、

│  そのバスって、1時間に2本くらいしかなくてね、

│  だから、

│  自転車だったときより、更に早くに家を出なくちゃいけなかった。

│  帰宅できる時間も遅くなり、

│  子供のことや家事が終わるのが夜遅くにずれ込んで、家での睡眠時間が減ってしまって・・・。

│  それでもバスの中では寝られるから・・・って、

│  その人、前向きに考えていたんだ。

│  けど、

│  バスの中では、

│  寝られたとしてもウツラウツラの浅い眠りで、あまり寝た気になれなくて、

│  そしたら、

│  家でも寝付きが悪くなり、

│  眠いのに、全然眠れなくなってしまって、

│  そのうち、

│  体を壊してしまって・・・って。

│  その人、

│  その後は、

│  町の職員さんとか福祉施設の人、近所の人に助けてもらいながら体を治して、

│  今は、

│  別の職場で・・・だけれど、また仕事に復帰してるみたいだった。

│  今度は、

│  体を壊さないよう、気を付けながら働いていて、

│  そうして、

│  苦しい生活ながらも、どうにか自分の子を育ててる・・・ってことだった。

│  そういう人も、

│  やっぱり、いるにはいるんだな・・・って、

│  私、読んで思った、

│  病気などでちょっと大変そうな子供を持つシングルママさんだけじゃなくて、

│  多分、

│  他の、多くのシングルママさんたちの中にも』

│ 『・・・』

│ 『一応、断っておくけど、

│  これはホント極端な例で、そんなにはないケースだと思う。

│  少なくとも、

│  しょっちゅうあるようなことではないはず。

│  だって、

│  体を壊してしまうママさんが沢山いて、社会問題になっている・・・って記事、

│  見かけなかったし、

│  それに、

│  ネットでシングルママさんの記事や日記を検索すると、

│  出てくるのって、

│  大変だけど、なんとかやってます・・・って内容のものがほとんどだもん。

│  前向きな気持ちで、毎日頑張ってる人が多かった。

│  ただ、

│  たまに・・・ではあるとは言え、

│  そういったママさんがいるってことも、間違いないと思う。

│  女手ひとつで育てるとなると、

│  やっぱり、

│  比較的、苦しい生活になってしまうんだな・・・って。

│  今日(こんにち)の日本において、母子家庭の貧困率は5割近い・・・って書いてる記事も見かけたし』

│ 『・・・』

│ 『確かに、

│  さっき私が説明した通り、

│  児童扶養手当などの、ひとり親のための支援がいくつか用意されてるし、

│  いざというときには生活保護だってあるから、飢え死ぬこともない。

│  だから、

│  ひとりで子供を育てることは、

│  やろうと思えば、多分、できる。

│  そこまで無理なことではない。

│  ただ、

│  やっぱり、

│  ある程度の覚悟は必要なんじゃないのかな・・・って、

│  私、調べてみてそう思った。

│  以上。まる』

│ そう語った友達は、

│ 引き続き、スマホを指で操作しながら、

│ 『・・・何か、私に調べてほしいことってある?』って訊きました。

│ ワタシ、

│ 慌てて頭を切り替えました。

│ 『えーっと・・・、』って考え、

│ 『じゃあ、

│  高校生・・・って言うか、

│  中学生でもいいけど、

│  その頃に出産して、ひとりで子供を育ててる人の話って・・・』って訊きました。

│ 友達が答えました。

│ 『あぁ、

│  それ、私も知りたいな・・・って思って、

│  ついでにちょっと調べてみたんだ。

│  でね、

│  高校生のときに妊娠して、出産して、

│  ひとりで(そだ)・・・あぁ、旦那さん無しで、って意味だけど、

│  そういう状況で子供を育ててる人の記事、2つ見付けた。

│  2つとも、

│  両親にサポートしてもらいながら、実家で育ててる・・・って感じだった。

│  ちょっと待ってて。

│  えーっと、

│  確か・・・、』

│ そう口にした友達は、

│ その2つの記事の内容を、()(つま)んで簡単に話してくれました。

│ 色々悩みや苦労はあるみたいでしたが、

│ 私が聞かせてもらった、その2つの例については、

│ 生活に、ある程度の余裕があるように感じられました。

│ ただ、逆に、

│ 自分の家で育てることになっても、ある程度の余裕が見込めるからこそ、

│ 産んで、育てることにしたのかな・・・とも思いました。

│ 『・・・と、

│  まぁ、そんなところかな。

│  他は?』

│ 友達がそう訊いたので、

│ ワタシ、首を振りました。

│ 『ううん、もう大丈夫。

│  ありがと。

│  すごく参考になった。

│  来てくれて、ホント助かった』って言いました。

│ 『そう、

│  良かった。』って口にした友達は

│ スマホをスリープさせると、イスから立ち上がりました。

│ ベッドの端に置いた自分のポシェットを開け、スマホを戻しつつ、

│ 『まぁ、

│  あとになって何か調べてほしいことが見付かったら電話してよ』って言いました。

│ 『うん、分かった』って、ワタシは返しました。

│ 『あ、そうだ。

│  ここって、

│  電話、何時までOKなの?』

│ 『9時まで、かな・・・』

│ 『そう。

│  じゃあ、8時くらいに電話すると思う。

│  多分だけど』

│ 『うん、分かった』

│ 『それとさ、

│  カメさんって、

│  もう、

│  どこかの会社の内定、貰ってるんだよね?』

│ 友達が、

│ イスを元の場所へ戻しに行きながら、そう尋ねました。

│ ワタシは、

│ 『えっと・・・、

│  訊いてないけど、多分・・・』って返しました。

│ 友達が言いました。

│ 『ちゃんと訊かないとダメだからね。

│  どういう会社で、

│  どこにあって、

│  休みはどんな感じで、

│  給料はどれくらいなのか・・・とか、そういうの全部。

│  場合によっては、

│  あんただけの問題じゃないんだから。

│  分かった?』

│ 『えっと・・・、

│  うん、分かった・・・』

│ 『・・・じゃあ、

│  私、そろそろ(かえ)・・・あ、

│  そうそう、

│  2本指、ちょっと作って』

│ 『え?

│  あ、

│  うん、分かった』

│ 『反対の手で握って。

│  ・・・あぁ、違う違う、

│  逆逆。

│  握るほうの手を下側にして、そこに2本指の腹を当てる感じ』

│ 『・・・こんな感じ?』

│ 『そうそう。

│  それで、

│  2本指で、下にある手のひらを何回か叩いてみて』

│ 『・・・』

│ 『・・・寿司屋でも始めるの?』

│ 『もう! こらっ』

│ ワタシが手を振り上げ、声を上げると、

│ 友達は、腹を抱えて楽しそうに笑いました。

│ そしたら、ワタシも段々と可笑しくなってきて、

│ 病室で、

│ ふたりで少し、笑ってました。

│ 『あー、面白かったー。

│  さてと、

│  じゃあ、私、そろそろ帰るから』

│ 『うん。

│  今日は・・・ってか、

│  今日も・・・だけど、ありがと。

│  ワタシ、

│  もう、ずっと助けてもらってばっかりいて、

│  悪いな、って思ってて。

│  受験勉強だってあるのに・・・』

│ 『いいよ別に。

│  それに、

│  いつか私のとき、あんたに助けてもらうから』

│ 『・・・えと、

│  私のとき、って?』

│ 『子供を産むかもしれないときに、ってこと。

│  あんた、

│  その頃にはもう、一人前のお母さんになってるかもしれないわけだし、

│  私、頼りにしてるから』

│ 『えっと・・・、

│  うん、そうだね、

│  分かった』

│ 『じゃあ、

│  私、そろそろ帰る』

│ 『うん。

│  今日も来てくれてありがと。

│  勉強、頑張って』

│ 『ガッテン承知の助!

│  じゃ、またねー』

│ 『うん、

│  またねー』

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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