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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
284/292

284.それで、お母さんとお父さんが来たのは

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ それで、

│ お母さんとお父さんが来たのは、

│ カメさんの帰ったあと、ちょっと時間が経ってからでした。

│ 15分後くらいだったと思います。

│ 部屋に入ってきたお母さん、

│ こっちに来ながら、

│ 『出がけに急に電話がかかってきて、

│  バスを1本乗り遅れちゃったわ』って言いました。

│ 体を起こしたワタシは、

│ 『あぁ、

│  そうだったんだ・・・』って返しました。

│ お父さんが、自分のと一緒にお母さんのイスも運んできて、

│ お母さん、

│ お礼を言って、そのイスに腰掛けました。

│ ワタシに尋ねました、

│ 『で、

│  悪阻のほうは、どんな感じ?』って。

│ ワタシ、

│ 顔を俯け、少ししてから口を開きました。

│ 『・・・えとね、

│  まだ治まっていないんだけどね、

│  でも、

│  1日だけ、

│  その、

│  決めるの、やっぱり延期させてほしいな・・・って。

│  もうちょっとだけ考えてみたくて・・・』

│ ワタシがそう返すと、

│ お母さん、

│ 『分かったわ。』って言いました。

│ 続けて、

│ 『じゃあ、

│  堕ろすかどうかは、

│  今日一日考えてみて、明日の朝までに決めるってことね?』って確かめました。

│ ワタシ、頷きました。

│ 『うん・・・。

│  その、急にで悪いんだけど・・・』

│ 『別にいいわよ、1日くらい。

│  できるだけ悔いのないよう、しっかり考えて結論を出しなさい』

│ 『うん・・・』って返しました。

│ お父さん、

│ お母さんの隣で、ずっと黙ってました。

│ お母さんたちが帰っていきました。

│ 閉まったドアを見て、小さく息をついたワタシは、

│ それから、

│ ベッドテーブルの上の金属容器とタオルを枕元のいつもの場所へと戻し、

│ 起こしていた体を、ゆっくりベッドに横たえました。

│ いつの間にか、1日延期することになっちゃったな・・・って思いました。

│ ようやく、

│ 本当にようやく、

│ この延々と続く苦しみから逃れられる、解放される・・・って思っていたのに、

│ それが急にお預けになり、

│ これから、

│ また、

│ まる1日、途方もない時間の長さを感じつつ、

│ この気持ちの悪さにただひたすら耐え続けなければならないことを考えると、

│ すごく憂鬱でした。

│ どうして延期しちゃったんだろう・・・って後悔していて、

│ でも、

│ 一方で、

│ 取り返しのつかない決定をひとまず避けられたことに、どこかホッとしている自分もいて、

│ いったい、どっちが本当のワタシなんだろう・・・って思いました。

│ 自分で自分が、よく分かりませんでした。

│ そうして、

│ 次いで、

│ カメさんについて、思いを巡らせました。

│ まだ1時間も経っていない、ほんの ついちょっと前に告白され、

│ 付き合ってほしい、って言われたわけですけど、

│ 正直、全然実感がありませんでした。

│ もしかしたら、あれはワタシの想像上の出来事だったんじゃないか、

│ カメさん、そんなこと言ってないんじゃないか、

│ それどころか、

│ 実はまだ収録に来ていなくて、これから来るんじゃないか・・・って、

│ そんなことすら疑っていました。

│ 半信半疑とか夢うつつとか、

│ そういう状態でした。

│ 1時近くになっても病室にカメさんが来なくて、

│ それで、

│ 夕方かも・・・って考えはまだちょっとありましたけれど、

│ でも、

│ 少しずつ、

│ やっぱりあれは実際にあったことだったんだ、

│ やっぱりワタシ、本当にカメさんに告白されたんだ・・・って、

│ そう思えるようになっていきました。

│ カメさんのことは、

│ わりとすぐに、

│ あぁ、

│ この人、良い人なんだな・・・って思いました。

│ とても正直ですし、

│ ワタシのことを気遣い、ここの皆さんとの交流を勧めてくれて、

│ そのために病院まで収録に来ると言ってくれました。

│ コメントを読んでくれているとき、

│ 普段あまり耳にしないような言葉だったり、ちょっと難しい言い回しのところは、

│ その都度その都度、

│ すぐに、

│ 分かりやすい、的確な補足を入れてくれました。

│ 事前に、皆さんからのコメントに目を通してくれていて、

│ 補足が必要そうな箇所は、

│ そのときに、(あらかじ)めその補足内容を考えてくれているのが分かりました。

│ ワタシが皆さんへのお礼コメントを喋る際も、

│ 途中、言葉が合っているかどうか悩んでいたら、

│ 『どうしたの?』って訊いてくれて、

│ で、

│ 言葉の用法で迷っていることを伝えたら、スマホで調べてくれて、

│ そうして、

│ 『何か調べてほしいことがあったら、遠慮しないですぐに僕に言って。

│  そのほうが結局時間がかからないで済むし、僕としても助かる』って・・・。

│ 確かに、

│ そういった理由もあったのだと思います。

│ でも、

│ きっと、

│ ワタシが気兼ねなく頼めるよう、気を利かせて言ってくれたんだろうな・・・って、

│ そう思いました。

│ カメさんが収録に来てくれるようになって、最初のうちは、

│ 以前にも書いたように、

│ お互いに必要なことだけを喋っているような、

│ ホント、そっけない感じでした。

│ けど、

│ そんなそっけないやり取りでも、カメさんの性格なり人柄は伝わってきました。

│ 良い人だな・・・って思いました。

│ ただ、

│ 好きにならないようにしよう・・・とも思ってました。

│ 病院の面会室で初めてカメさんと会って、

│ その後、

│ 病室に帰って、ひとりでベッドに横になってるときでした。

│ ワタシ、

│ もしかしたら、これから何か始まるんじゃないか、

│ 運命の出会いだったんじゃないか・・・って、ひとりで考えてまして・・・。

│ で、

│ もしかすると付き合うことになって、

│ この子を養子に送り出さなくて済むのかも、一緒に暮らせるのかも・・・って、

│ あれこれ想像していたんですけど、

│ でも、

│ ちょっとして、やめました。

│ カメさん、

│ ワタシのことを心配し、それで来てくれたのに、

│ なのにワタシ、

│ そのことを、まるで自分にとって都合のいい人が来たとでも考えているような、

│ カメさんの善意を、ちょうどいいから・・・って上手に利用しようとしているような、

│ なんか、

│ 段々と、そういうふうに思えてきてしまって・・・。

│ 気遣ってくれたカメさんに対し、

│ なんとなく、失礼な気がしたんです。

│ それに、

│ カメさん側としても、

│ 単に手助けのつもりで来たのに、

│ 勝手にワタシにそんなふうな目で見られたら困惑してしまうだろうし、

│ きっと、迷惑に感じるだろうな・・・って。

│ だからワタシ、

│ カメさんに対して、

│ 付き合えたら・・・とか、

│ そういうのは考えないようにしよう、って心に決めたんです。

│ それが、

│ ワタシのことを気遣い、病院まで来てくれるカメさんへの礼儀だ・・・って、

│ そう考えたんです。

│ その後、

│ カメさん、再び病院に来てくれました。

│ 自分のことを話してくれて、

│ そうして、

│ 収録のため、

│ 引き続き、ワタシのところに来てくれることになりました。

│ 少し上でも書いたように、

│ すぐに、

│ 良い人だな・・・って思いました。

│ けど、

│ 付き合えたら、とか、

│ そういうことは考えないようにしよう・・・って、改めて思いました。

│ カメさん、

│ 自分の産みの親について、あまり良い印象を持っていないようでした。

│ なので、

│ 同じことをしようとしているワタシについても、

│ きっと、そうなんだろうな・・・って思いました。

│ 良い印象を持たれていないんだろうな・・・って思いました。

│ カメさん、良い人そうでしたけど、

│ でも、

│ だからと言って、好きにならないようにしよう、

│ カメさんを困らせたりしないようにしよう・・・って、そう考えていたのですが、

│ ただ、

│ ワタシ、

│ 日を追うごとに、どんどんカメさんのことを好きになってしまって・・・。

│ なので、

│ 途中から、

│ もう、諦めることにしたんです。

│ 好きになるのを(こら)えないことにしました。

│ 我慢しないことにしたんです。

│ その代わり、

│ 自分の気持ちをカメさんに伝えないようにしよう・・・って思いました。

│ ずっとワタシの胸の裡にしまっておこう、

│ 隠したままにしておこう、

│ そうすることが、

│ 毎日ワタシのために病院まで来てくれる カメさんに対しての礼儀だ・・・って、

│ そんなふうに考えていて、

│ だから、

│ 急にカメさんのほうから告白されたとき、

│ ワタシ、何が何だか分からなくて、

│ え?

│ えと・・・え?、って固まってしまって・・・。

│ それで、

│ 1時近くになって、

│ やっぱりあれは現実だったんだ、本当に告白されたんだ・・・って、

│ なんとかそう思えるようになったワタシは、

│ じゃあ、

│ 返事をどうするか、明日の11時までに決めないと・・・って、

│ 病室のベッドで、ひとりで考え始めました。

│ ただ、

│ 連日の寝不足とか妊娠悪阻による消耗の影響もあったんだと思いますが、

│ 全然考えがまとまらなくて・・・。

│ (※ウサギ注:

│   以下、

│   ワタシがどういったことで悩んでいたのか、具体的に書いてありますが、

│   ただ、

│   このときのワタシは、

│   児童手当(てあて)や児童扶養手当の存在を、まだ知らない状態です。

│   それを踏まえた上でお読みください)

│ お腹の中のこの子も一緒に・・・って言うけど、

│ 本当に大丈夫だろうか。

│ 責任持って、ちゃんと育てられるのだろうか。

│ そもそも、

│ カメさんと上手くやっていけるのだろうか。

│ 上手くいかなくて、別れることになってしまったらどうしよう。

│ 出産前の出来事だったら、

│ 多分、問題ないと思う。

│ ワタシひとりじゃ育てるのは厳しそうだし、元々そのつもりだったんだから・・・って、

│ 産んだあと、養子に送り出せるかもしれない。

│ けれど、

│ 出産前じゃなくて、

│ 産んで、赤ちゃんの世話をし始めた頃に、

│ カメさんと上手くいかなくなって、別れることになったらどうしよう。

│ 自分ひとりでは育てるのは難しいから・・・って、

│ ワタシ、養子に送り出すのだろうか。

│ できるだろうか、そんなこと。

│ 毎日、胸に抱き、

│ 笑いかけながら あやしていて、一生懸命 面倒を見ていて、

│ その子のほうも、ワタシのことを母親として思ってくれていて、

│ そうして頼っていて、

│ それを、

│ ワタシ自身、

│ きっと、充分過ぎるくらいに分かっていて・・・。

│ なのに、

│ ワタシは、

│ 自分ひとりでは難しいから・・・って、養子に送り出せるのだろうか。

│ その小さくて温かな手を、はなすことができるのだろうか。

│ 一生後悔することになるんじゃないか。

│ 養子に送り出すのがどうしても無理で、自分で育てることになったら、

│ どうなるのだろう。

│ 多分、ウチで育てることになるんだろうけど、

│ でも、

│ それをお父さんは許してくれるだろうか。

│ もしダメなら、

│ どこかの安いアパートに部屋を借り、

│ そこで、赤ちゃんとふたりで暮らすことになる。

│ ただ、

│ 家賃や食費などの生活費を自分で稼がないといけないから、

│ なんとかお母さんにヘルプに来てもらい、赤ちゃんの世話を少し頼んで、

│ その間に働かないといけない。

│ 頑張れるだろうか。

│ 働き疲れて家に帰ってきても、

│ ワタシは、間を置かずに赤ちゃんの世話をしないといけない。

│ 休めない。

│ それに、

│ 赤ちゃんはワタシの事情なんて分かるはずがないから、好きに泣く。

│ 夜中であっても、大声を上げて思いっきり泣く。

│ 周りに住んでる人の迷惑もあるから、すぐに(なだ)めないといけない。

│ 夜通し、何度も何度も宥めるハメになるかもしれない。

│ そしたら、

│ ワタシ、ろくに睡眠がとれなくて、

│ 朝になれば、

│ そのまま、生活費を稼ぐために働きに出ないといけない。

│ あぁ、

│ でも、育児が大変でどうしても充分に働くことができないようなら、

│ 生活保護を申請すればいいのかな・・・。

│ そうしたら、

│ そんなに余裕は無いとは言え、

│ 一応、

│ 最低限の暮らしは保障される。

│ 飢え死ぬことはない・・・って、

│ お母さんのあの話で、伯母(おば)さんが・・・。

│ けれど、

│ 生活保護の申請が通れば・・・ってことだった。

│ じゃあ、

│ 仮に、

│ その申請が通らなかったとしたら、どうなるんだろう。

│ それでも、

│ ワタシ、自分の子を育てられるのだろうか。

│ 確か、

│ 1回目の投稿に寄せられたコメントの中に、

│ ひとりあたり、年30万以上かかった・・・ってのがあった。

│ とすると、

│ ひと月あたり3万弱。

│ それくらいなら、

│ ワタシが働いてる間の、赤ちゃんの世話の問題さえなんとかすれば、

│ 色々と少しずつ節約してなんとかなりそう。

│ でも、

│ コメントの人も言っていたけど、

│ 子供が成長するにつれ、

│ 必要なお金って、だんだん増えてくるんじゃないだろうか。

│ 食べる量が増えてくるし、

│ 子供の体が大きくなり、使っていた服や靴のサイズが合わなくなれば、

│ 新しいのを買わないといけない。

│ 昼間の子供の面倒を見てもらうのも兼ねて、保育園に通わせるにしても、

│ 通園バッグやスモック、お昼寝用の布団とかを用意しないといけない。

│ 給食費だって払わないといけない。

│ その後、小学校に上がる際も、

│ ランドセル、

│ 筆記具やノート、授業で使う学習教材、

│ 上履き、ジャージ等々、

│ とにかく様々なものを買い揃えなければならない。

│ 出費が(かさ)むようになる。

│ やっぱり、更に稼がないと・・・。

│ ワタシの仕事のスキルが上がって、それでお給料が上がってくれればいいけど、

│ そうでなければ、

│ 働く時間を増やすか、

│ もしくは、

│ 多少大変だったとしても、もっと高給の仕事に就く必要がある。

│ 子供の急な病気やケガで出費が増えてしまったり、

│ あるいは、

│ ワタシ自身が病気に(かか)ってしまい、そのせいで働けなくて収入が一時的に減ることになれば、

│ もしかしたら、

│ 家賃や水道料金などの、必要な支払いのために、

│ お金を借りなければならないかもしれない。

│ お父さん、貸してくれるだろうか。

│ もしダメなら、

│ どこかで借りる必要がある。

│ その、どこかで借りた分をすぐに返済できれば良いけれど、

│ でも、

│ 普段からギリギリの生活だろうから、

│ 多分、一筋縄ではいかない。

│ いつもの生活費に加え、借金の返済分も稼がないといけないから、

│ その分、無理をして余計に働く必要が出てくる。

│ そんなとき、

│ その無理が(たた)って、ワタシが体を壊してしまったら・・・。

│ あるいは、

│ ワタシや子供が、再び病気になってしまったら・・・。

│ そうじゃなくても、

│ 災害や事故などの何らかのアクシデント、業績不振などの勤め先の都合で、

│ その仕事を急に辞めざるを得なくなってしまったら・・・。

│ それで、充分なお給料が手に入らなかったら・・・。

│ そしたら、

│ 生活費などの支払いのため、更に借金を重ねることになってしまう。

│ 状況はますます悪くなり、

│ ますます無理して働かなければならなくなり、

│ そして、

│ ワタシは、

│ いつか、自分の望まないような仕事を選ばざるを得なくなるかもしれない。

│ そうしないと生活ができないから。

│ 子供を養うことができないから。

│ でも、

│ この子にとって、

│ それ、幸せなんだろうか・・・。

│ 噂が広がってしまい、

│ ハブられたり、からかわれたりするんじゃないだろうか。

│ ・・・。

│ なら、

│ もしもの話だけれど、

│ ワタシひとりで育てることになって、生活保護の申請が通らなかったら、

│ やっぱり・・・。

│ それとも、

│ それでも無理│ して、自分で・・・。

│ ・・・。

│ 一時的に、

│ 例えば数年だけ、自分の子の世話を誰かに任せられる制度ってないのだろうか。

│ もし、そういった制度があれば、

│ その数年で、

│ アルバイトとかしながら資格を取って、良い勤め先を見付け、

│ そこで働いてお金を貯め、

│ そして、

│ 自分の子を自分でちゃんと育てられるような状況になったら、

│ そうしたら、

│ その、任せていた自分の子を返してもらって・・・って、

│ そうか、

│ これ、里親だ。

│ 自分の子を数年間だけ里親に・・・って手があるんじゃないだろうか。

│ でも、

│ 里親になってくれる人、見付かるんだろうか。

│ 見付かったとしても、

│ 本当に、

│ その子の面倒をちゃんと見てもらえるのだろうか。

│ ぞんざいに扱われたりしないだろうか。

│ だいいち、

│ ワタシ自身、

│ その預けている数年間で、ちゃんと良い仕事を見付けることができるのだろうか。

│ 自分で子を育てられるような状況に、ちゃんとなっているのだろうか。

│ それに、

│ ワタシは、

│ 自分の子を里親の人に預けている間は、

│ 恐らくは、ときどきしか会いに行けない。

│ そしたら、

│ ワタシ、その子にどう思われるだろう。

│ お母さんだと、本当に思ってくれるだろうか。

│ 数年を経て、その子を自分の手で育てられるようになったとき、

│ その子、

│ ちゃんと、ワタシのところに戻ってきてくれるだろうか。

│ ・・・。

│ だったら、

│ この子を自分ひとりで育てなければならないかも・・・って状況になったとき、

│ すぐに婚活を開始して、

│ 新しい旦那さんを探すというのはどうだろうか。

│ 上手くいけば、

│ この子を養子や里子に送り出したりせず、自分で育てられるかも。

│ けど、

│ 良い旦那さんを見付けるの、ちょっと難しいんじゃないだろうか。

│ 子連れの人は、

│ やっぱり、少し敬遠されるような気がする。

│ 飽くまで、連れ子のいない人と比べれば・・・だけれど、

│ 幾分、お金のことを考えないといけないし、

│ 自分はその連れ子とも上手くやっていけるのだろうか・・・って、

│ きっと、そっちの不安もあると思う。

│ それに、

│ “子連れで旦那がいない・・・ってことは、何か理由があるんじゃないか。

│  性格や家に難があって、

│  それで旦那に逃げられたんじゃないか”って、そんなふうな色眼鏡で見られてしまい、

│ そもそも最初から、ワタシはその人の候補に(のぼ)らないかもしれない。

│ 仮に、

│ なんとか興味を持ってもらい、付き合う話に進んでも、

│ ワタシは、

│ その人と会うための、ある程度のまとまった時間って、

│ なかなか作れないんじゃないだろうか。

│ 普段は、

│ 仕事や育児、家事に追われてて、

│ 自分の時間だって、なかなか取れないくらいだろうし・・・。

│ 作れるとしたら、

│ お母さんに子供の面倒や家事をお願いし、その間に・・・って、

│ そんな感じだろうか。

│ お母さんにそこまで頼ってしまっていいんだろうか・・・。

│ それに、

│ お金も時間も余裕が無いだろうから、

│ オシャレは、

│ 婚活中の他の人たちに比べ、どうしても質素なものになってしまうだろうし、

│ 会うための時間も、そんなには長くとれない。

│ 半日でも難しい気がする。

│ そして、

│ そういったこちらの苦しい立場に付け込み、逆に愛想よく近付いてくる、

│ 悪い人たちもいるんじゃないだろうか。

│ 子供のためにパートナーを強く欲しているだろうから、簡単になびかせられるだろう、

│ 会うための時間がなかなか取れないってことは、

│ 裏を返せば、

│ メッセージのやり取り中心で、そこまで会わなくてもいい・・・ってことだから、

│ ウソをついていてもバレないだろうし、騙しやすい・・・、

│ そんなふうな良くない考えで近付いてきて、

│ で、

│ ある程度打ち解けてきて、仲良くなってきた段階を見計らい、

│ 生活に少し困っているからお金を送ってくれ、って言われたり、

│ 不当に高価なものを買わされたり、変な契約を結ばされたり、

│ あるいは、

│ 怪しげなセミナーや宗教に勧誘されたり・・・、

│ そんなこともあるんじゃないだろうか。

│ ワタシ、

│ そういう悪い人たちを、ちゃんと見分けられるのだろうか。

│ 不審そうなお願いがあったとき、

│ ちゃんとそれを不審だと見抜き、その上で断れるだろうか。

│ 騙されてしまったら、ワタシ・・・。

│ ・・・。

│ そもそも、

│ カメさん、本当にワタシのことを好きになってくれたんだろうか。

│ さっきワタシに言ってくれたこと、ホントっぽかったし、

│ カメさん、すごく良い人そうで、

│ ウソ言って誰かを騙すような人には全然見えないけれど、

│ でも、

│ ワタシ、もしかしたら騙されてるんじゃないか。

│ ウソをつかれてて、

│ また、あとで裏切られてしまうんじゃないか。

│ それに、

│ カメさん、

│ この子を大切に思ってくれてるようなことを言ってくれたけど、

│ どうしてなんだろう。

│ 何で、自分の子じゃないのにそこまで・・・。

│ カメさん、

│ この子のこと、

│ ワタシのことと同じくらい大切に思ってる、って・・・。

│ もしかしたら、

│ カメさん、この子に同情していて・・・ってこと?

│ 自分みたいな思いをさせないように、

│ ちゃんと、産みの親と一緒に暮らせるように・・・って、

│ そういうこと?

│ ワタシのことは別にそんなに好きじゃないけど、この子のために仕方なく・・・って。

│ でも、

│ カメさん、

│ ワタシのこと、大切に思ってくれてる、って・・・。

│ ウソを言ってるようには・・・。

│ ・・・分からない。

│ 全然分からない。

│ だいたい、

│ この子と一緒に・・・って言われても、

│ ワタシ、

│ ホントにこの子をちゃんと産めるのだろうか。

│ 妊娠悪阻を乗り越えられるのだろうか。

│ 頑張れるんだろうか。

│ でも、

│ だからと言って堕ろすのも・・・。

│ もしかしたら、

│ この子を自分で育てられるかもしれないし、

│ カメさんだって、すごく良い人そうで・・・。

│ けど、

│ それでも、

│ もし、カメさんと上手くいかなかったら・・・、

│ 別れることになってしまい、

│ この子を養子として送り出すか、自分で無理して育てるか、

│ そういう選択をしないといけない状況になってしまったら・・・って、

│ そんな感じで、

│ ワタシ、

│ 病室のベッドで、ひとり延々と悩んでいて、

│ でも、

│ ちっとも結論が出てこなくて・・・って言うか、

│ それ以前に、

│ どう考えたらいいか、何を考えたら答えが出るのか、

│ まったく分からなくて・・・。

│ で、

│ それでも答えを出さないと、

│ どうするかを決めないと・・・って、無理して考えていて、

│ そしたら、

│ 頭の中がますますゴチャゴチャしてきて、

│ ますますわけが分からなくなって、

│ ぜんぜん収拾がつかなくなってしまって・・・。

│ だから、

│ 途中、ひとりで結論を出すのは諦めました。

│ 友達に話して、相談しよう・・・って思いました。

│ ワタシは、

│ 病室の時計に目を向けました。

│ あと、もうちょっとか・・・。

│ でも、

│ カゼ引いたりして、今日は来なかったらどうしよう。

│ そのときは電話しようか。

│ “来なかったから心配で・・・”って電話して、

│ で、

│ 相談できそうだったらそのまま相談して・・・って、

│ そんなことを考えながら、

│ 病室のベッドで、

│ ひとり、友達が来てくれるのを待ちました。

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ちなみに、

生活保護の条件に、

“支援をしてくれる親族などがいない”という項があります。

なので、

ウサギさんの場合、

そのときの両親の生活状況にもよるのですが、

まずは、

“親をなんとか説得し、支援してもらってください”って、

多分、そういう話になると思います。

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