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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
279/292

279.翌日、お昼の12時20分を少し過ぎたところで

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 翌日、お昼の12時20分を少し過ぎたところで、

│ 病室のドアが、

│ トントン・・・って、2回ノックされました。

│ 次いで、

│ 『カメです』って声がしました。

│ え・・・って思いました。

│ 体を起こしたワタシは、

│ 髪の毛とかを手で少し整え、

│ そうして、

│ 出入り口のドアのほうに顔を向けました。

│ 『・・・どうぞ』

│ ドアが開き、

│ カメさんが現れました。

│ 『こんにちは、お邪魔します』って言いながら、

│ 部屋に入ってきました。

│ ワタシ、

│ そのカメさんを目にした瞬間、涙が止まらなくなりました。

│ ベッドの上で、そのまま泣いてました。

│ 気分がちょっと落ち着いてきたワタシは、

│ 目元をタオルで拭い、鼻をすすって、

│ その後、

│ ベッドの脇でイスに腰掛け、待っていてくれているカメさんに謝りました。

│ 『あの、

│  昨日は、ホント、ごめんなさい。

│  カメさん、

│  忙しい中、ワタシのために毎日ここに来てくれているのに、

│  それなのに、

│  ワタシ、酷いこと言ってしまって・・・。

│  ごめんなさい』

│ カメさんが言いました。

│ 『いや、気にしてないから大丈夫だよ。

│  ウサギさんが、

│  今すごく大変な思いをしていて、頑張っていて、

│  で、

│  気持ちにあまり余裕がないのは、僕も分かってるからさ、

│  だから、

│  大丈夫、問題ない』

│ 『でも、

│  ワタシ、カメさんに色々言ってしまって、

│  ホント、

│  最低だな、って・・・』

│ 『あぁ、えっと、』

│ そう口にしたカメさん、

│ ちょっと間を置いてから、更に続けました。

│ 『・・・僕とウサギさんが初めて会ったとき、10日前だけどさ、

│  ウサギさん、

│  妊娠悪阻でキツイ状態なのに、無理して僕に会ってくれて、

│  でも、

│  僕、結局 話さなくて、

│  そのまま帰ってしまって、

│  ウサギさんに、無駄足を踏ませてしまって・・・』

│ 『・・・』

│ 『僕だって、

│  ウサギさんに悪いことをしていたんだ、酷いことをしたんだ。

│  だから、気にしなくていい。

│  ドローだ、これで』

│ それ聞いたワタシ、

│ 最初、ドローって言葉にピンと来ませんでした。

│ 少し遅れて、

│ あぁ、引き分けって意味か・・・って気付いて、

│ で、

│ ワタシとカメさん、勝負してたのか・・・って思って、

│ こんな状況でいったい何の勝負をしてたんだろう、って考えて始めてしまって・・・。

│ そしたら、

│ なんか、段々と可笑(おか)しくなってきて、

│ 面白くなってしまって、

│ 笑っちゃいけないと思い、口元に手を当て必死に我慢していたんですけど、

│ 耐えきれなくなってしまい、

│ ワタシ、

│ 口元に手を当てたまま、ひとりで笑い始めてしまいました。

│ カメさん、

│ 戸惑った様子で、

│ 『え? えと・・・、

│  あの、

│  僕、何か変なこと言った?』って訊きました。

│ ワタシ、

│ 笑っていたのを少し落ち着けてから、言いました。

│ 『ごめんなさい。

│  ドローって言われて、

│  ワタシ、今までカメさんと勝負してたのか・・・って思ってしまって、

│  で、

│  こんな状況で何の勝負をしてたんだろう・・・って考え出したら、

│  なんかもう、だんだん可笑しくなってきて・・・。

│  ホント、ごめんなさい』

│ 『あぁ、そうか、』って言ったカメさん、

│ 更に続けました。

│ 『確かにドローじゃ、ちょっと変か。

│  えーっと・・・、

│  この場合、何て言うのが妥当なんだろ・・・』

│ 『お互い様、かな・・・』

│ ワタシがそう答えると、

│ カメさんが言いました。

│ 『あー、

│  そっかそっか、お互い様かぁ。

│  確かにそうだ、お互い様だ。

│  ドローじゃ、やっぱりちょっと変だったね。

│  ごめん、悪かった』

│ 『いえ、

│  ちゃんと意味は伝わりましたし、

│  それに、

│  面白かったからいいです。大丈夫です』

│ 『え?

│  うーん、なんかあんまり釈然としないんだけど、

│  なら、

│  まぁ、良かったのかな・・・』

│ 『はい、良かったです』って返しました。

│ 収録が終わりました。

│ 『・・・じゃあ、

│  正常に録音できてるようだし、

│  今夜、またサイトに投稿しておくよ』

│ 『あの、

│  ワタシ、今日中じゃなくても別に構いませんから。

│  余裕のあるときで結構ですから。

│  カメさんだって色々忙しいでしょうし、

│  毎日毎日 手間をかけさせてしまって申し訳ないな、って思ってて・・・』

│ 『あぁ、

│  大丈夫だよ。

│  忙しいって言っても、今の時期ならそこまで忙しくないし、

│  それに、

│  今日の収録分だって、

│  個別じゃなくて一括だから、大した量じゃないし。

│  まぁ、でも、

│  そうか、

│  なら、余裕がなさそうだったら、

│  今日の投稿は、お休みさせてもらおうかな・・・』

│ 『はい、

│  そうしてください』

│ 『で、

│  ・・・あー、そうそう、

│  話は変わるんだけど、

│  昨日、ネットでたまたま面白い話を見付けて・・・』

│ ・・・

│ 『へー、

│  じゃあ、そのワンちゃん、

│  今でも そのぬいぐるみ、大切にしてるんですね』

│ 『うん、そうらしい。

│  かなり汚れてしまっていて、

│  だから、

│  洗おうと思って、

│  飼い主さん、一度取り上げたことがあったんだけど、

│  そうしたら、

│  心配そうな目で、じーっと見られたから、

│  洗うのは、もう諦めたんだって。

│  写真で見たけど、かなりボロボロの状態で、

│  でも、

│  その犬は、本当に大事そうに抱えていて・・・』

│ 『・・・。

│  あの、

│  ワタシ、

│  できたら、それ、ちょっと見てみたいな、って・・・。

│  もし良かったら、その・・・』

│ 『あぁ、別にいいけど、

│  でも、

│  ウサギさん――』

│ 『えっと、

│  写真とか動画を見るくらいなら大丈夫です、

│  文章を読むのが、ちょっとつらいだけなので。

│  多分、少し集中しないといけないせいだと思います』

│ 『あぁ、そうだったんだ。

│  分かった、ちょっと待ってて。

│  ・・・はい、この写真。

│  上のほうにも何枚か載ってる』

│ 『ありがとうございます。

│  ・・・なんか、髭を生やした博士みたいな顔のワンちゃんですね。

│  カメさん、

│  さっき、なんて種類の犬って言ってましたっけ。

│  テリア系?、でしたっけ・・・』

│ 『うん、テリアだと思う。

│  ワイアー フォックス テリアかな。

│  ちょっと返してくれる?

│  ・・・そうそう、

│  この感じは、

│  多分、ワイアー フォックス テリア』

│ 『・・・カメさん()って、

│  もしかして、

│  犬、飼ってるんですか?』

│ 『え? ・・・あぁ、

│  まぁ、うん。

│  こっちじゃ飼ってないけど。

│  ・・・えと、何で?』

│ 『なんか、

│  犬のこと、詳しそうだったから・・・』

│ 『いや、

│  別に、そんな詳しいってわけじゃないけど・・・』

│ 『飼ってるワンちゃん、

│  何て種類なんですか?』

│ 『ウチのは、1頭目も2頭目も雑種だよ。

│  ちょっと待って。

│  ・・・ほら、

│  これ、5年くらい前の写真なんだけどさ、

│  後ろで眠たそうな表情してる大きいほうが◇◇って言って、

│  僕が3歳のときにウチに来てくれた、最初の犬。

│  晩年は流石に寝てばっかりだったけど、

│  小さい頃からとにかく元気で、やんちゃ坊主で、

│  遊んでほしくて、すぐに僕にちょっかい出してきてさ。

│  で、

│  その◇◇に頭くっつけて眠ってる、こっちの まだちっちゃいのが・・・』

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ じょんならんさん、

│ コメント、ありがとうございます。

│ はい、

│ カメさん家の犬、室内飼いだそうです。

│ 帰宅してドアを開けると、いつも玄関の上がり(かまち)のところで待っていて、

│ 遊んで遊んで、って、

│ すぐにカメさんに せがんでくるので、

│ 抱き締めて、頭の匂いを少し嗅がせてもらったあと、

│ 家の中でボール遊びをしたり、

│ 引っ張り合い用のオモチャで引っ張り合ったりするのが日課だったそうで、

│ サボってしまうと、

│ 部屋の隅でそっぽを向いて、ふてくされちゃうそうです。

│ お母さんはそうでしたが、

│ 友達のほうは、

│ 最初の頃は、毎日ではなかったです。

│ 入院して少し経ったとき、

│ “勉強の負担になりたくないし、

│  お見舞いは2、3日に1回くらいでいいよ”って、

│ ワタシ、友達に言いまして、

│ で、

│ 友達も気を利かせてくれたみたいで、何日か来ない日がありました。

│ ただ、

│ カメさんが毎日来てくれているのを話したら、

│ “じゃあ、私も毎日来るし”って、なんか対抗心を燃やしてしまって、

│ それ以降、

│ また、毎日お見舞いに来てくれるようになっちゃいました。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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