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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
273/292

273.『えっと、2週間くらい前

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 『えっと、

│  2週間くらい前、

│  小学校からの僕の友人が、地元で結婚式を挙げることになりまして、

│  それで・・・』

│ カメさんは、

│ そうして、

│ 自分が養子だと知らされた経緯や、

│ その後の、ワタシのお兄ちゃんとの出来事を語り始めました。

│ 途中、話が詰まると、

│ カメさん、ズボンのポケットからスマホを出して、

│ 以後は、

│ 時折そのスマホ画面を確認しつつ、淡々と話していきました。

│ 隣にいたはずのお兄ちゃんは、

│ 気付くと、

│ いつの間にか、ちょっと離れた場所に移ってました。

│ イスに腰掛け、

│ イヤホンで音楽か何かを聴きつつ、何かの雑誌を読んでました。

│ 自分が養子であることをカメさんが知ったのは、

│ ワタシと病院で初めて会ったときの、その2週間前のことだったそうです。

│ 友達の結婚式で実家に戻っていて、

│ その結婚式の翌日、

│ 両親に、

│ “大事な話がある”って呼ばれ、

│ それで

│ お父さんから告げられたそうです。

│ カメさん、

│ 最初は冗談だと思って、

│ だから、笑いながら、

│ 『いやいや、

│  親父、

│  朝から真顔で何言ってんだよ。

│  流石に意味が――』って、隣のお母さんに目を向けたら、

│ お母さん、ちっとも笑ってなくて、

│ それを見て、

│ え・・・って、固まってしまって・・・。

│ 少しして、

│ どうにか気を取り直したカメさん、

│ お母さんに、

│ 『・・・あの、えっと、

│  ゴメン、

│  お袋、

│  これって、冗談・・・なんだよね?

│  なんか、

│  どう反応したらいいか、

│  僕、全然分からなくって・・・』って言って、はは・・・って笑ったら、

│ お母さん、

│ 真剣な表情のまま、首を左右に振って、

│ そうして、

│ お父さんの言ったことは冗談なんかじゃない、本当のことだ・・・って。

│ “その瞬間、僕の意識が強制終了した”って、

│ カメさん、

│ 自分の意識をパソコン上で動いてるソフトみたいに言ってました。

│ 思考が停止し、

│ 何も聞こえなくなって、

│ 正面の明るい風景が、ただ自分の目に映っているだけの状態になったそうです。

│ ふと気が付くと、

│ 周りの音がいつの間にか戻ってきていて、色々聞こえるようになっていて、

│ カメさん、

│ そうした中、

│ テーブルの向こう側のふたりをぼんやり眺め、呼吸をただ繰り返していて・・・。

│ で、

│ そのうち、

│ あぁ、そうだ。訊かないと・・・って思って、

│ それで、

│ 『おふく・・・』って口にして、

│ そこで、言葉に詰まってしまったそうです。

│ “大丈夫よ、私はお母さんよ”って言われて、

│ けど、

│ カメさん、

│ どうしてもそれを口にすることができなくて、

│ で、

│ 少しして、こう尋ねたんだそうです、

│ 『・・・あの、すみません、

│  ちょっと訊きたいんですが、

│  僕、誰なんでしょうか・・・』って。

│ “誰、って、

│  だから、

│  あなたは◎◎カメで、私たち夫婦の大切な息子で・・・”って言われて、

│ カメさん、

│ 『あの、

│  でも、その・・・、

│  血は繋がってないんですよね・・・』って、返してしまって・・・。

│ そしたら、

│ お母さん、泣き出してしまったそうです。

│ “お願いだから、そんなこと言わないでちょうだい。

│  あなたのことは、

│  でき()る限り普通の子と同じように接して、

│  一生懸命 愛情を注いで大事に育ててきたつもりだし、

│  カメ姉やカメ兄以上に可愛がってきた。

│  血の繋がりがなくても、

│  あなたは、私たちの大切な家族なんだから”

│ そう言われて、

│ カメさん、

│ あぁ、

│ 自分だけ、そうなのか・・・って。

│ それで、

│ もう、何もかもがどうでもよくなってしまって、

│ その後、お父さんからも色々言われたけれど、

│ 全てが他人事のように感じられてしまって、まったく頭に入ってこなくて、

│ で、

│ 気付いたら、

│ カメさん、

│ いつの間にか、自分の部屋にいたんだそうです。

│ ひとりで、ぼーっとしてて、

│ そのうち、

│ なんで自分はこの家にいるんだろう・・・って、段々と不思議に思えてきて、

│ だから、

│ 下宿先のアパートに帰ることにしたんだそうです。

│ 電車に揺られてる最中、電話がかかってきて、

│ スマホ画面を見たら実家からだったから、すぐに電源を切って、

│ それで、

│ アパートに戻って、

│ そのまま、

│ 部屋でひとり、何時間もぼんやりしていて・・・。

│ その後、

│ トイレに行って、

│ それから、

│ 冷蔵庫を開け、作り置きしておいた料理を少し口にし、

│ イスに腰掛け、机の上のノートパソコンを開いたら、

│ お姉さんとお兄さんからメールが来ていて、

│ ふたりとも かなり心配してる様子だったから、メールをちょっと返して・・・。

│ そしたら、

│ 夜中の3時なのに、お兄さんからは返事が来たから、

│ そのまま少し、

│ お兄さんと、メールでやり取りをして、

│ ちょっと寝て、

│ 起きたら大学の研究室に行き、いつものように実験の準備を始めて・・・。

│ そういった感じで、

│ カメさん、物凄いショックだったそうです。

│ 研究室にいる間も、

│ 気付くと手を止め、ぼ−っとしてしまっていて、

│ ミスも多くて、

│ だから、

│ その週は、自分の作業があまり捗らなかったそうです。

│ 養子であることを告げられた 最初の頃は、

│ Y県に住む両親に対しては、許せないという感情しかなかったそうです。

│ 裏切られた、って気持ちでいっぱいで、

│ 腹が立って腹が立って仕方なくて、

│ 悔しくて、悲しくて、

│ 心細くて・・・。

│ 何日か経つと、ようやく少し冷静になれて、

│ それで、

│ 自分の、小さい頃からの実家での暮らしを、

│ ちょっとずつ振り返れるようになって、

│ 昔から両親が一生懸命に世話してくれていたこと、可愛がってくれたこと、

│ 色々なことを自分に教えてくれたこと、

│ 大切に育ててくれたこと、

│ そうして、

│ 今も、こうして大学に通わせてもらっていることを思えるようになって、

│ けど、

│ それが有り難いことだと頭では分かっていても、

│ 素直にそう思うことができなくて、

│ 受け入れられなくて、

│ 以前のように、

│ また普通の親子として接する気には、どうしてもなれなくて・・・。

│ お姉さんやお兄さんに対しても、

│ いくら自分が望んでも決して手に入れることのできない、

│ 血の繋がりを持っていることが羨ましくて、

│ 引け目を感じて、

│ それまでずっと大好きだったし、尊敬もしていて、

│ 気軽になんでも話せていたけど、

│ なんとなく、距離や壁を感じるようになってしまって・・・。

│ お姉さんもお兄さんも、

│ カメさんには、

│ それまで通りの、変わらない態度で接してくれてはいたけど、

│ でも、

│ カメさんのほうは、なかなか そうはいかなくて、

│ お姉さんやお兄さんのことを、姉貴や兄貴と呼ぶのにどうしても違和感を覚えてしまい、

│ 抵抗があって、

│ 家族じゃなくて、他人のような感じがしてしまって、

│ それが心苦しくて、

│ つらくて、寂しくて・・・。

│ 一方、

│ 自分を産んだ両親に対しては、

│ もう、怒りの感情しかなかったそうです。

│ どうして僕を捨てたんだ、

│ どうして自分たちの手で育ててくれなかったんだ・・・、

│ そういった気持ちでいっぱいで、

│ カメさん、

│ 自分の産みの親に対しては、あまり良い印象を持っていないようでした。

│ そうして、

│ カメさん、

│ 2、3日、悶々としながら生活していたそうですが、

│ ただ、

│ 自分の研究に、かなりの支障が出てしまっていたので、

│ 少し冷静になるためにも、

│ しばらくの間、考えないことにしたんだそうです。

│ それでようやく落ち着いてきて、

│ 再び、いつもの調子で過ごせるようになってきて、

│ そしたら、

│ 大学の研究室で自分のノートPCの調子がおかしくなり、

│ で、

│ ワタシのお兄ちゃんに言って、ノートPCを貸してもらうことにしたんだそうです。

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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