271.その翌日の夕方
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│ その翌日の夕方、
│ 前の日と同じくらいの時間に、お兄ちゃんが現れました。
│ お兄ちゃん、
│ 病室に入ると、壁際のイスをワタシの近くに持ってきて、
│ ベッドの周りにカーテンを引きました。
│ 背負っていたリュックを下ろし、イスに腰掛けたあと、
│ 『なんか、
│ 今日も調子、あんまり良くなさそうだな・・・』って言いました。
│ ワタシは、
│ 『うん・・・、
│ 今日も、ちょっと・・・』って答えました。
│ お兄ちゃんが言いました、
│ 『そうか。
│ なら、
│ 大変だろうから、オレも早く退散するよ』って。
│ あれ?、って思ったワタシは、
│ すぐに、
│ 『今日、カメさんは?』って訊きました。
│ お兄ちゃんが答えました。
│ 『あぁ・・・、
│ カメ、今日はここに来てないし、
│ もう連れてこないから』
│ え・・・って思い、
│ 『何で?』って訊きました。
│ 『何で、って、
│ いや、
│ だって、
│ お前、迷惑だったんじゃないの?
│ 途中、かなり怒ってるみたいだったし・・・。
│ だから、オレ、
│ 悪いことしたなぁ、って反省してて・・・』
│ ワタシ、
│ お兄ちゃんに言いました。
│ 『・・・確かに、ちょっと怒ってたけど、
│ でも、
│ カメさん、最後にちゃんと謝ってくれたし、
│ それに、
│ ワタシのことも気遣ってくれたし・・・』
│ 『気遣ってくれた、って、
│ でも・・・』
│ ワタシ、小さくため息をつきました。
│ そうして、
│ お兄ちゃんに、
│ 『・・・カメさん、
│ なんで、
│ ワタシの力になりたい、って言ってくれたの?
│ どんなことを話そうとしてたの?』って尋ねました。
│ お兄ちゃん、
│ 顔を下に向け、そのまましばらく黙ってて、
│ やがて、
│ 『・・・いや、
│ オレの口からは、ちょっと・・・』って言いました。
│ ワタシは、
│ また、小さくため息をつきました。
│
│ その後、
│ 少しすると、急にいつもの吐き気の波が来て、
│ それを察したお兄ちゃん、
│ 『あぁ、
│ 長くなってゴメンな。
│ オレ、そろそろ帰るわ。』って言って、慌てて立ち上がりました。
│ 置いてあったリュックを背負うと、
│ ワタシに目を向けつつ、
│ 『カーテ・・・、
│ あぁ、向こうで?』って言いました。
│ ベッドから足を下ろしたワタシは、
│ スリッパを履きながら、黙って頷きました。
│ 『分かった』って言ったお兄ちゃん、
│ ベッドの周りのカーテンを開け、イスを元の場所へ戻しました。
│ そのままふたりで病室を出て、通路をちょっと歩き、
│ トイレの前で、お兄ちゃんと別れました。
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│ 次の日、
│ お昼の時間にお兄ちゃんが来ました。
│ ワタシ、驚きました。
│ 『どうしたの? こんな時間に』って訊きました。
│ ドアを閉めたお兄ちゃん、
│ こっちを振り返りながら言いました。
│ 『あぁ、えっと、
│ 今日はオレ、
│ 夕方からは、ちょっと用事があって・・・。
│ イスって・・・あぁ、そこか。
│ サンキュー』
│ 『時間、大丈夫なの?
│ 午後の研究室、間に合うの?』
│ 心配になって、そう訊くと、
│ お兄ちゃん、
│ 自分用のイスをこっちに持ってきながら、
│ 『大丈夫 大丈夫。
│ いま夏休みだからコアタイム無いし。』って言って、
│ ワタシの近くにイスを置き、腰を下ろし、
│ ふぅ・・・って息をつきました。
│ そうして、
│ 辺りを見回しながら、
│ 『・・・部屋、移ったんだな』って言いました。
│ 『うん、
│ お母さんが、個室にしなさい・・・って』
│ 『そうか。』って言ったお兄ちゃん、
│ 顔をこちらに向けました。
│ ワタシを少し見たあと、
│ 『・・・今日は、ちょっと元気そうじゃん』って言いました。
│ 『あ、うん。
│ でも、
│ 今日は・・・って言うより、今は・・・かな。
│ 夕方頃になると、
│ 多分、また悪くなるから・・・』
│ 『あぁ、そうなのか・・・』
│ ワタシ、
│ 気になってたことを改めて尋ねました、
│ 『それより、
│ 今日、急にどうしたの?』って。
│ お兄ちゃんが言いました。
│ 『あぁ、えっと、
│ 明日さ、
│ 昼頃、
│ また、カメを連れてきてもいい?
│ 今度は、
│ アイツ、ちゃんと話すと思うから』
│ 『え?
│ ・・・あ、
│ うん、ワタシはいいけど、
│ でも、お兄ちゃんもカメさんも、
│ お昼だと研究室――』
│ 『あー、
│ オレは問題ないし、
│ カメにも、ここに来る前に確認したんだけどさ、
│ 大丈夫だって。
│ オレ、
│ 明日も夕方はちょっと無理で、
│ ここに来るとなると、昼しか時間なくて・・・。
│ 明後日だったら、
│ 一応、研究室を上がったあとに来れるけど・・・』
│ 『お兄ちゃんとカメさんが大丈夫なら、ワタシは別に・・・。
│ それに、
│ どちらかと言うと、お昼のほうがいいし・・・』
│ ワタシがそう返すと、
│ お兄ちゃんが言いました、
│ 『あぁ、そっか。
│ 夕方は、あんまり体調が良くないのか・・・』って。
│ ワタシは、
│ 『うん、多分・・・』って返しました。
│ 『分かった。
│ じゃあ、明日の昼にするわ。
│ 研究室に戻って、カメにもそう伝える。
│ この部屋に直接連れてくるけど、
│ いいか?、それで』
│ 『あ、
│ うん、大丈夫』
│ 『分かった。
│ なら、
│ 明日の昼、カメを連れてくるわ』
│ 『うん、分かった・・・』
│ 続きます。
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