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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
271/294

270.次の日の夕方

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 次の日の夕方、

│ 病室に、お兄ちゃんが現れました。

│ ひとりでした。

│ お兄ちゃん、

│ その日のワタシの容体について、軽く尋ねたあと、

│ 『それで、

│  今、ラウンジにカメがいるんだけどさ、

│  どうする?』って訊きました。

│ ワタシは、

│ 自分の気持ちを確かめたあと、

│ 『ううん、会う。

│  せっかく来てくれたんだし・・・』って返しました。

│ お兄ちゃんが言いました、

│ 『・・・別に、

│  無理に会わなくても良いと思うけど』って。

│ ワタシ、首を振りました。

│ 『ううん、会う』って、返しました。

│ 他の人に聞かれないよう、面会室に行って話すことになり、

│ お兄ちゃん、

│ 面会室の利用申し込みのために、部屋を出ていきました。

│ お兄ちゃんが戻ってくると、

│ ワタシは、

│ その戻ってきたお兄ちゃんと一緒に病室を出て、

│ 点滴スタンドを手でガラガラ押しながらエレベーターのところへ行き、

│ 階を下り、

│ 再び、病院内の通路を少し歩いて、

│ そうして、

│ 面会室の前に行きました。

│ お兄ちゃん、

│ ドアを、ガチャッと開けました。

│ 奥の窓際に応接セットがあり、

│ そこのソファに、男の人が坐ってました。

│ こっちを見ていて、

│ ワタシたちに気付くと、慌てた様子ですぐに立ち上がりました。

│ お兄ちゃん、

│ ワタシのほうを振り向いて言いました。

│ 『アイツがカメ。

│  昨日お前に話したけど、

│  オレの大学の同期で、同じ研究室に所属してる』

│ お兄ちゃんのその紹介のあと、

│ カメさん、ワタシに何か言おうとして、

│ けど、何も言わず、

│ 少し遅れて、

│ そのまま小さく頭を下げました。

│ ワタシも軽く頭を下げると、

│ ドアを開けてくれてるお兄ちゃんの前を通って、面会室に入りました。

│ 心臓がドキドキしていました。

│ かなり緊張していました。

│ 応接セットの、カメさんの向かいのソファまで行き、

│ 点滴スタンドを脇に置いて、そのソファに腰掛けました。

│ ドアを閉めたお兄ちゃんが、

│ こっちに来ながら、

│ 『カメ、

│  この前 話したオレの妹のウサギ。

│  さっきちょっと訊いてみたら、

│  調子、そんなに良くないみたいだったから、

│  一応、あまり長くなり過ぎないようにしてくれ』って言って、

│ ワタシの前の、応接セットのテーブルの上に、

│ 金属容器とタオルを置きました。

│ 次いで、

│ カメさんのいる、ワタシの向かいのソファに目を向けると、

│ 背負っていたリュックの輪から肩を抜きつつ、そのソファの前に行き、

│ リュックを床に下ろしたあと、

│ ソファに腰掛けました。

│ 次いで、

│ 隣の、まだ立ったままでいるカメさんを見上げ、

│ 『ん?

│  どうした、カメ。

│  早く坐れよ』って、声をかけました。

│ カメさん、

│ ハッとした表情になり、すぐにソファに腰を下ろしました。

│ カメさんの話は、なかなか始まりませんでした。

│ カメさん、

│ テーブルの向こう側で、顔を下に向けたまま、

│ ずっと黙ってました。

│ ワタシもお兄ちゃんも黙っていて、

│ なんとなく重苦しい雰囲気の中、時間だけが過ぎていきました。

│ そのときのワタシは、相変わらず頭痛と耳鳴りが酷くて、

│ しかも、

│ やがて、気分も段々と悪くなってきました。

│ 吐き気の波が少し来ていて、

│ 大きいのが来ないことを祈りつつ、なんとか(こら)えてました。

│ 正直、

│ このときは・・・ですけど、

│ ワタシ、ちょっとイライラしてました。

│ いつになったら話すの? 早くしてほしい・・・って、そう思ってました。

│ しばらくすると、

│ お兄ちゃんが、隣のカメさんを肘でつつきました。

│ カメさん、

│ けど、下向いたまま黙っていて、

│ それで、

│ お兄ちゃんが、また、肘でカメさんをつつきました。

│ けれども、

│ カメさん、話そうとはしませんでした。

│ 口を噤んだままでした。

│ お兄ちゃんが言いました、

│ 『おい、カメ、

│  お前、話すんじゃなかったのかよ』って。

│ 少し間があってから、

│ カメさん、

│ 『えっと・・・』って口にして、

│ けど、

│ それで終わりで、

│ また、黙り込んでしまいました。

│ ワタシは、

│ もう、早く帰ってほしい・・・って思ってました。

│ かなり腹を立ててました。

│ なんなの、この人。

│ そっちが話したい・・・って言うから、

│ だから、

│ ワタシ、こうして無理をして会ってるのに、

│ さっきからずっと黙ってるじゃん。

│ 何、この失礼な人・・・って思って、

│ ため息ついて、

│ そうして、

│ ちょっとしてから、

│ ・・・あれ?、って思いました。

│ この感じ、どこかで・・・って思って、

│ それで、気が付いたんです、

│ お父さんとお母さんの 初めての電話のときと、似ていることに。

│ お兄ちゃん、

│ やがて、息をひとつ吐きました。

│ そうして、

│ 下に置いてある自分のリュックに目を向け、それを持って立ち上がると、

│ そのリュックを背負いながら言いました。

│ 『カメ、帰ろう。

│  あんまり長くなると、ウサギも大変だし』

│ 『・・・』

│ カメさん、

│ 少ししてから、立ち上がりました。

│ お兄ちゃんが、カメさんに言いました。

│ 『1階のラウンジで待っていてくれ。

│  オレ、

│  ウサギを病室に送っていくから』

│ 『・・・』

│ 下向いたまま、黙って立っていたカメさん、

│ やがて、ドアのほうを向き、

│ ゆっくり歩き出したのですが、

│ でも、

│ すぐに止まって、ワタシのほうに向き直しました。

│ 少し間があってから、

│ カメさん、

│ 『・・・あの、

│  ウサギさん、悪かった。

│  体、大変なのに、

│  わざわざ会ってくれて、

│  それなのに、僕・・・』って謝りました。

│ ワタシ、

│ カメさんに言いました。

│ 『あぁ、えっと・・・、

│  いえ、大丈夫です、

│  ワタシ、

│  ただ、ここに来て坐ってるだけだったし』

│ 『・・・ゴメン。

│  体、お大事に・・・』

│ そう言ったカメさん、

│ 再び扉のほうを向くと、そのまま歩き出しました。

│ ワタシ、

│ 『・・・あの』って、呼び止めました。

│ 『・・・』

│ 『緊張していたんですよね?』

│ 『・・・』

│ 『その・・・、

│  また明日、来てください』

│ 『・・・』

│ 足を止めていたカメさん、

│ けど、

│ やがて、黙ってまた歩き出すと、

│ 出入り口のドアを開けて、面会室を出ていきました。

│ その後、

│ ワタシは、病室までお兄ちゃんに送ってもらいました。

│ お兄ちゃん、帰るときに言いました、

│ 『今日はゴメンな。

│  アイツ、悪いヤツじゃないんだけど・・・』って。

│ ワタシは、

│ 『ううん、

│  気にしてないから』って返しました。

│ お兄ちゃんが帰ったあとは、

│ 自分のベッドで、

│ カメさんとの最後のやり取りを、ぼんやりと思い浮かべていました。

│ ちょっと変に思われたかも・・・って思いました。

│ そして、

│ また明日・・・って、つい言ってしまったけど、

│ 都合の良いときに・・・とか、

│ そっちのほうが良かったな・・・って、考えてました。

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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