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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
268/292

268.その2、3分後くらいに

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ その2、3分後くらいに、病室のドアがノックされました。

│ お母さんの声が聞こえました。

│ 『ウサギ、

│  お母さんとお父さんだけど』

│ 『あ、

│  うん、どうぞ』って返事をしたワタシは、

│ ベッドテーブルの上の、自分のスマホに手を伸ばしました。

│ ドアの()く音がしました。

│ お母さん、

│ 『おはよう。

│  今日の調子は どう?』って尋ねながら、ワタシのところに来ました。

│ ワタシは、

│ 『あ、おはよう。

│  調子は、

│  うん、あんまり変わらないかな・・・』って口にして、

│ スマホをベッドテーブルの上に戻しました。

│ そのまま、お母さんと少しお喋りをしていると、

│ ドアを閉めたお父さんが、

│ 前日と同じように、

│ 壁際からイスを2脚持ってきて、片方をお母さんの脇に置きました。

│ お母さん、

│ ワタシと話を続けながら、そのイスに腰掛けました。

│ お父さんも、

│ 自分のイスをお母さんの隣に置き、そこに腰掛けました。

│ 『それで、

│  1日待ってほしい・・・って、昨日は言ってたけど、

│  どうするか、決まった?』

│ お喋りが一段落し、

│ お母さん、ワタシにそう尋ねました。

│ ワタシは下を向き、小さく頷きました。

│ 『うん、

│  決まった・・・』って、お母さんに返しました。

│ 『どうすることにしたの?』

│ 『・・・その、

│  やっぱりね、産むことにした』

│ 『12週目に入ったら、

│  健康上の問題とか、何か特別な理由がない限り堕ろせなくなっちゃうけど、

│  ホントにいいの?

│  後戻りできなくなるわよ?』

│ ワタシは、

│ 自分の気持ちをもう一度確かめました。

│ そして、

│ 『・・・うん、

│  ワタシ、産む』って、改めて返しました。

│ 『妊娠悪阻だって、

│  まだ、治まりそうにないんでしょ?

│  ホントにちゃんと頑張れるの?』

│ 『・・・。

│  うん、頑張る・・・』

│ お母さん、

│ 少ししてから、

│ 『・・・そう、分かったわ。』って言って、

│ 次いで、

│ 隣に坐ってるお父さんに、

│ 『あなたも良い?、それで』って確認しました。

│ ワタシ、

│ 下向いたまま、両手をぎゅっと握りました。

│ 沈黙が続き、

│ でも、

│ やがて、

│ お父さんの、息をひとつ吐いた音がし、

│ それから、

│ 『・・・なら、

│  学校の先生にも伝えなきゃな』って、お父さんの明るい声が聞こえてきました。

│ その瞬間、心からホッとして、

│ 良かった・・・って思って、

│ そしたら、

│ 自然と、目から涙が溢れてきました。

│ 両手で顔を押さえたワタシは、

│ 泣きながら、

│ ちょっと(かす)れた声で

│ 『・・・うん』って返しました。

│ ワタシの気が落ち着いてきたのを見計らい、

│ お母さんが、

│ 『高校はどうするつもり?』って、ワタシに尋ねました。

│ ワタシは、

│ 目元をタオルで押さえつつ、

│ 『多分、辞めると思う』って返しました。

│ 『休学じゃなくて?』

│ 『うん・・・』

│ 『そう。

│  ちょっともったいない気もするけど、

│  まぁ、でも、

│  クラスでひとりだけ(とし)が違う中、毎日学校行って授業を受けるのも、

│  結構、しんどそうだもんね。

│  噂も立って、

│  周りからは、どうしてもそういう目で見られちゃうだろうし』

│ 『・・・』

│ 『なら、

│  今の学校を辞めたあとは、

│  通信制の高校か、定時制の高校に編入かしらね。

│  通信制の高校だったら、

│  普段の課題提出さえ こなせばいいから、学校にはほとんど行かずに済むし、

│  定時制の高校の場合は、

│  こっちは普段からちゃんと登校して授業を受ける必要があるけれども、

│  でも、

│  あなたのいま通っている全日制の高校に比べれば、色んな事情の人がいるわ。

│  年齢の違う人も結構いるから、

│  登校しなきゃいけないと言っても、多分、わりと通いやすいはずよ。

│  あなたの場合、高校2年までの単位は認められるはずだから、

│  出産したあとは、通信制か定時制の高校で1年間頑張ることにして、

│  それで、しっかりと高校を卒業して、

│  あとは、

│  1年遅れの大学受験で合格できれば、

│  晴れて、普通の大学生・・・って感じかしらね』

│ お母さんの話を、

│ 顔を俯けたまま、黙って聞いていたワタシは、

│ 少しして、口を開きました。

│ 『・・・えと、あの、

│  もしかしたらね、

│  ワタシ、大学に行かないかも。

│  あと、

│  高校への編入?も、しないかも・・・』

│ お父さん、すぐに言いました、

│ 『は? どういうことだ。

│  お前、大学に行きたいんじゃなかったのか』って。

│ 『えっと、

│  その・・・』

│ 『なら、

│  産んだらすぐに働き出す、ってことか、

│  高卒でもなく、中卒として』

│ 『・・・』

│ 『父さん、その考えを否定するつもりはないが、

│  ただ、

│  分かってるのか、

│  そうすると、

│  高卒の人たちと比べ、選べる仕事がかなり限られてしまうんだぞ?

│  学歴不問の人材募集は、そんなには無いからな。

│  それに、

│  給与面での待遇だって、

│  本人の頑張り次第でなんとかなることもあるとは言っても、

│  基本的には、

│  高卒の人たちと比べれば、どうしても多少見劣りしてしまうし、

│  何かの資格を取得する際も、

│  高卒以上でないと認めてくれないケースだって結構ある。

│  お前の場合、

│  高校卒業まで、たった1年を頑張るだけじゃないか。

│  そこまで大変というわけでもない。

│  高校は、

│  できれば、卒業しておきなさい』

│ 『・・・』

│ ワタシが、

│ 下向いたまま、黙っていると、

│ お母さん、

│ ちょっとしてから、ワタシに尋ねました、

│ 『・・・もしかして、高卒認定試験?

│  それを受けて、

│  看護師とかの、何かの専門学校に進みたい・・・ってこと?』って。

│ お父さんが、お母さんに言いました。

│ 『いや、

│  そうだとしても、やっぱり高校は卒業させておいたほうが・・・。

│  高認に受かったとしても、

│  仕事の応募資格の欄に、

│  《高校卒業か、あるいは同程度の学力》みたいなことが書かれていれば問題ないが、

│  単に、《高校卒業》としか書かれていない場合、

│  念のため、担当の人に確認する必要がある。

│  もしかしたら、

│  その募集している仕事では、高認はダメかもしれない。

│  選んだ専門学校がどうしても合わなかったり、

│  何らかの都合で辞めざるを得なくなったときのことを考えたら、

│  高校は、

│  一応、卒業させておいたほうがいいんじゃないか?』

│ 『でも、

│  人材募集のときに、

│  高認を高卒と同等扱いしていない企業は、そんなに多くなかったはずよ。

│  だから、別に――』

│ そのお母さんたちの話に、ワタシは慌てて割り込みました。

│ 『あの、

│  大学に行かないかも、って言ったのは、

│  そういう話じゃなくて・・・』

│ お父さんとお母さん、

│ ふたりとも顔をこちらへ向けました。

│ そうして、

│ ちょっと間があってから、お父さんが言いました。

│ 『そういう話じゃない、って、

│  まさか・・・』

│ ワタシは、口を開きました。

│ 『えっと・・・、

│  あぁ、

│  どこかの高校への編入については、

│  念のため、やっぱりしたほうが良いのかな・・・って、さっき思ったんだけど、

│  大学に行かないかも・・・って言ったのは、

│  その、

│  ・・・多分、これで合ってると思うんだけどね、

│  ワタシ、

│  その、

│  結婚を前提にお付き合いしてほしい・・・って、ある人から言われて、

│  で、

│  お腹の中のこの子も一緒に・・・って』

│ 病室が、シーンと静まり返って、

│ 少ししてから、お父さんの声が響きました。

│ 『・・・は?

│  お付き合いしてほしい・・・って言われた、って、

│  いや、

│  お前、ずっとここで入院――』

│ そのお父さんの言葉を途中で遮り、

│ お母さんがワタシに尋ねました、

│ 『その人って、

│  以前からの友達とか、知り合いとか、

│  そういう関係の人?』

│ ワタシ、首を振りました。

│ 『ううん。

│  その人と初めて会ったのは、

│  7月の終わりくらいの、ホントにごく最近で・・・、

│  あぁ、

│  それでね、

│  お父さんとお母さんに、これからその人と会ってほしいの』

│ お父さんが、

│ 『は? これから?』って、声を上げました。

│ ワタシ、

│ 『うん』って頷きました。

│ 『これから、って、

│  この病室でか』

│ そう尋ねたお父さんに、

│ ワタシ、

│ もう一度、

│ 『うん・・・。』って頷きました。

│ 『その人ね、

│  今、そこのラウンジで待っていて・・・』

│ お父さんとお母さん、

│ 少しして、互いに顔を見合わせました。

│ ふたりで何かをちょっと話し、

│ やがて、お母さんが頷くと、

│ お父さん、

│ 顔を再びこちらに戻し、ワタシに言いました。

│ 『・・・まぁ、

│  お前が会ってほしいと言うなら会うけど、

│  ただ、

│  どういうことなんだ、父さんにはさっぱり分からん。

│  だいいち、誰なんだ、

│  その、

│  結婚を前提に、お前に交際を申し込んだ人間は』

│ ワタシ、答えました。

│ 『えっと、

│  カメさん、って人。

│  お兄ちゃんの大学の友達でね、同じ研究室に所属してる人・・・』

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2024/4/26

通信制の高校は、

最近だと、授業をオンラインで行なっているところもあるようです。


それと、

「高等学校卒業程度認定試験合格者の企業等における扱いに関する調査」で検索すると出てくる、文部科学省の2016年の調査資料によれば、

高認は、

平成22年において、

①「高卒と同等である」が25.9%、

②「高卒として認めていない」が1.3%、

③「高認の合格者が受けにきたことがなく、決めていない」が44.9%。

この③の「決めていない」企業が、

①と②の、高認の取り扱いを既に決めている企業と同じ割合で、

高卒と同等と認めるかどうかを決めるとするならば、

企業全体において、

同等と認めない企業は、だいたい2%程度だろうと推定できます。

本文中で、

就職活動において、

高認と高卒は区別されることもある・・・というような内容を書きましたが、

個人的には、

そこまで気にしなくてもいいのかな・・・と思ってます。


あと、

中卒の人は、高卒の人と比べて給与面で多少見劣りする・・・と書いてますが、

ネットでちょっと調べた感じだと、

その差は、

平均では・・・ですが、10%程度らしいです。

そこまで差があるわけではないです。


本当は、

各資料について、

各自で検索して探してもらうのではなく、直接アドレスを載せたかったのですが、

外部サイトのアドレスを載せていいのか分からなかったので、こうしています。

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