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Summer Echo  作者: イワオウギ
26/289

26.「猫は飼ったことあるの?」

「猫は飼ったことあるの?」


息を大きく吸い込んだ私は、

そのまま、

やや大きめの声で、少年に尋ねた。


「・・・え?」


少年は、ハッと顔を上げ、

驚いた表情をして、私を見つめた。


「猫は飼ったことあるの?」


もう一度尋ねると、


「えーと・・・、」


少年は下を向き、考え込み、

すぐに、また、

私を見上げて、答えた。


「昔、ちょっと飼ってた」


「どんな猫?」


「えーと・・・、どんな猫って?」


「毛の色とか」


「確か・・・、白」


「肉球の色は?」


「え?、肉球?」


少年は声を高くし、

キョトンとした顔を私に向けた。


「そう、肉球」


「うーん、何色だっけ・・・」


少年は、また下を向き、

考え込んだ。


「ピンク?」


「うーん、覚えてないけど多分」


下を向いたままの少年は、

自信なさげに、そう答えた。


「ウチの猫も、

 最初はピンクの肉球だったんだけど、いつの間にか黒くなってた」


「え?」


猫を外に出すようになったから・・・、と説明しようとしたところで、

少年が、急に笑いだした。

私の方に顔を向け、


「何で突然、色が変わるわけ?」


と、

笑いを(こら)えつつ、尋ねる。

その顔を見た瞬間、

私の中に、ちょっとしたイタズラ心が芽生えた。


「進化したんだよ、多分」


少年は、すぐに吹き出した。


「猫が進化するなんて聞いたことないよー」


そう言って前かがみになると、

大声で笑い始める。


「え?、そっちの白猫だって進化したでしょ?」


私は、

澄ました顔のまま、少年に尋ねる。


「進化なんてしてないよー」


()()な、こっそりしてたでしょ?」


「してないよー」


「えー、色変わってたでしょ?」


「変わってないよー」


「よくよく思い出してみてよ。

 ひとつだけ、

 多分、こっそりと色が変わってたから」


「も、もうやめてー。苦しー」


少年は笑いながら、シートの背に体を預け、

足を交互にバタバタさせた。


「大変そうだね」


「だ、だって・・・変なこと・・・言う人、隣・・・いる・・・」


少年は、

激しく何度も呼吸しつつ、

ときどき、思わず笑い出しそうになるのを必死に抑え込みつつ、

途切れ途切れに、どうにか答えた。


「私、すごく真面目だけど」


「どこがー」


「だってすごく真面目(まじめ)な学問なんだよ、猫進化論って言って・・・」


少年は吹き出し、また笑い出した。

途中、私の方を向き、

何か言い返そうとしたみたいだが、

すぐに咳き込んでしまい、それは言葉にならない。



そのとき、

前のシートに座る男性が、こちらを振り返った。

不機嫌そうな表情で私を(にら)む。


私は、頭を軽く下げた。

男性は、そのまま私をしばらく睨んだあと、

また元通り、前を向いた。


私は、隣の少年の方に顔を向けた。

少年は、

口を大きく開いたまま、バスの天井を見上げていた。

一生懸命に、呼吸を繰り返している。


「ちょっと外を見てごらん」


声をかけると、

少年は、すぐに笑顔をこちらに向けた。


「なにー?、また変なことー?」


やや大きめな声を出し、ニコニコと私に尋ねる。


「い、いや、そうじゃなくて・・・」


前のシートに座る男性の方を、横目でチラリと確認しつつ、

慌てて、そう返した。

窓の外を指差す。


「ほら、外見て、外。

 さっきまでと景色が全然違ってるでしょ?」

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