表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Summer Echo  作者: イワオウギ
V
257/292

257.翌朝、2階でドアの

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 翌朝、

│ 2階でドアの開く音がし、誰かが階段を下りてきました。

│ その足音が漫画部屋の戸の向こうまで来て、止まって

│ 間があってから、

│ トントン・・・って、2回ノックされました。

│ お父さんの、

│ 「・・・ウサギ、入るからな?」って声がしました。

│ 少しすると、

│ 戸が、そうっと開けられました。

│ 「・・・おはよう。

│  あぁ、

│  そのままでいい。」

│ お父さんは、

│ 洗面器に向かって えずいてるワタシに、そう言いました。

│ そうして、

│ ワタシがちょっと落ち着いたタイミングを見計らって、

│ 「・・・少しは寝れたのか?」って訊きました。

│ ワタシは頷きました。

│ 「2時間か、3時間くらいは・・・、

│  多分・・・」って返しました。

│ 「そうか。

│  雨戸、開けようか?」

│ そう訊かれたワタシは首を振り、

│ すぐに、洗面器に向かって えずき始めました。

│ 少ししてから、

│ 戸が、静かに閉められました。

│ お母さんやお兄ちゃんも、1階に下りてきました。

│ そうして、

│ しばらく経ったあと、足音がこっちに近付いてきました。

│ 漫画部屋の戸が、

│ 控えめに、2回ノックされました。

│ お父さんの声が聞こえました。

│ 「・・・ウサギ、

│  じゃ、

│  父さん、仕事に行ってくるからな」

│ ワタシは、

│ 横になったまま、

│ 「うん、

│  行ってらっしゃい」って返しました。

│ 足音が離れていき、

│ 「・・・じゃ、行ってくる」って声がしました。

│ お母さんの、

│ 「行ってらっしゃい」って声のあと、

│ 玄関のドアの開く音がして、閉まった音がして、

│ 間があって、

│ 門の閉じられる音が聞こえました。

│ お兄ちゃんが出掛けたあと、

│ 少しすると、お母さんが部屋に入ってきて、

│ 雨戸を開けました。

│ 部屋の中に陽が差し込み、明るくなり、

│ 外で鳴くセミの声が、

│ 網戸を通して、(じか)に聞こえるようになりました。

│ レースのカーテンを窓に引いたお母さんは、

│ 一旦部屋を出ていき、

│ 洗面器と手ぬぐいタオルを持って、戻ってくると、

│ ワタシの体を、その手ぬぐいタオルで拭いてくれました。

│ そうして、

│ どうして急に産むことにしたのかを訊いて、

│ 特別養子縁組を使うことについて、ワタシに確認したあとで、

│ ゆうべの、お父さんとお母さんの話し合いの様子を、

│ ワタシの体を拭きながら、少し話してくれました。

│ お父さんは、

│ やっぱり、産むことには反対のようでした。

│ “いま通ってる高校とか大学の受験はどうするんだ。

│  なんで被害者であるウサギが、そこまで自分の人生を犠牲にしないといけない。

│  オレは絶対に認めんからな”

│ お母さんが、

│ “1年くらい、大したことないじゃない。

│  それに、ウサギ自身がそれを望んでるんだから”って言っても、

│ お父さんは、

│ まったく聞く耳を持たなかったようでした。

│ とにかく、

│ 産むのは絶対に認めない・・・ってことでした。

│ ワタシは、

│ 気になってたことを、お母さんに訊いてみることにしました。

│ 「お母さん、

│  パートって・・・」

│ お母さんが答えました。

│ 「あぁ、

│  ウサギを入院させなきゃいけないかも、って話になったときにね、

│  お父さんが言ったのよ、

│  “なんであんなヤツの子を産ませるために、

│   わざわざ金払って入院までさせなきゃならないんだ。

│   オレはイヤだ。

│   毎日苦労して稼いでるお金を、そんなことのために使いたくない。

│   一銭たりとも出したくない”って。

│  私が、

│  “ウサギのためでしょ?”って言っても、

│  “堕ろせばそれで終わる話じゃないか。

│   入院なんか必要ないだろ”って言って、少しも聞いてくれなくてね、

│  だから、

│  “だったら私がパートに出るわよ。

│   そのお金から出せば文句ないでしょ?”って言い返したの。

│  あぁ、大丈夫よ、

│  私がそう言ったら、

│  お父さんね、

│  パートに出なくていい、って。

│  ただ、

│  オレは、産むのを認めたわけじゃないからな、って」

│ 「・・・」

│ その後、

│ 体を拭いてくれるのが終わって、ワタシが服を着ているときでした。

│ お母さんが訊きました。

│ 「ウサギ、

│  もう一度確認するけど、

│  産みたい、ってのは本当のことよね?」

│ ワタシは、

│ ちょっと間を置いたあと、

│ 「・・・うん」って返しました。

│ 「そう、分かったわ。

│  でも、今は保留にしておきなさいね。

│  また気が変わるかもしれないから」

│ 「・・・うん」

│ 「それと、

│  エアコンは、

│  使うにしても、28℃くらいにしておきなさいね」

│ 病院には、

│ その日も、お母さんの運転する車で行きました。

│ 診察での先生との話のあと、入院を勧められ、

│ それで、

│ 次の日から、

│ ワタシは、街の大きな総合病院で入院することになりました。

│ 病室のベッドの上で、

│ ひとり、点滴を受けていると、

│ いつの間にかグッスリと眠ってしまってて、

│ 目が覚めたときには、

│ 体調も気分も、幾分マシになってました。

│ お母さんと一緒に家に帰ったワタシは、

│ 友達に、メッセージを送りました。

│ ゆうべは、ごく簡単にしか説明できなかったので、

│ 色々詳しく書きました。

│ 友達は、

│ 夏期講習のあと、すぐにウチに来てくれました。

│ ワタシは、

│ その友達に、ゆうべからの いきさつを改めて話しました。

│ 友達は、

│ ソファで麦茶を飲みつつ、ワタシの話を黙って聞いていて、

│ 終わったあとも、

│ 下を向いたまま、黙ってましたが、

│ やがて、

│ 鼻をすすって、目元を手で拭い、

│ そうして、

│ 少ししてから、

│ 「・・・私、

│  毎日あんたの病院に行くからね。会いに行くからね」って言ってくれました。

│ 続きます。

│ 次でラストです。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ