254.台所から聞こえていた 洗い物の音が
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│ 台所から聞こえていた 洗い物の音が、
│ いつの間にか止まってました。
│ 寝ながらスマホで文字を打ち込んでいたワタシは、
│ 画面端の時間表示に目をやり、
│ そのまま少し操作を続けたあとで、そのスマホを充電スタンドに戻しました。
│ 足音が、台所からリビングに向かっていったので、
│ 体を起こし、
│ 座ったままで、ミニテーブルのほうに向き直しました。
│ りんごジュースのコップを手に取り、ちょっと飲もうとしたのですが、
│ 無理そうだったので、
│ コップをテーブルに戻しました。
│ 何回か深呼吸して、気を落ち着けたあと、
│ ワタシは、ゆっくり立ち上がりました。
│ リビングに面してるほうの 引き戸のところに行き、
│ その引き手に手をかけ、
│ 念のため、
│ このあと言うセリフを頭の中で復唱し、
│ 次いで、1回 大きく深呼吸し、
│ ちょっと間を置いて、
│ それから、
│ 戸を、
│ ガラガラガラ・・・と、開けていきました。
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│ すぐ近くに、
│ 座卓の手前で胡座をかいて座ってる、お父さんの後ろ姿がありました。
│ お父さんはパジャマに着替えていて、
│ 座卓の上で開いてるマンガ雑誌を、黙って読んでいました。
│ そのお父さんの向かい側、横に少しズレた位置には、
│ お母さんがこちら向きで座っていて、
│ コップに注いだ、氷入りの麦茶を啜ってました。
│ ワタシは、
│ 後ろを向き、静かに戸を閉めると、
│ 座卓の脇で、左右交互に風を送ってる扇風機の裏を通って、
│ お母さんの隣まで歩いていき、
│ そこに敷かれた座布団に座りました。
│ ワタシの正面でマンガ雑誌を読んでいたお父さんは、
│ その雑誌を閉じると、横を向き、
│ 自分の脇に置きました。
│ そうして、こちらに向き直すと、
│ 座卓の上にある、自分のコップに手を伸ばし、
│ 麦茶をちょっと飲み、息をひとつ吐いて、
│ そのコップを、
│ また、元の場所に置きました。
│ お母さんが、ワタシに尋ねました。
│ 「飲み物、
│ あなたは いいの? 持ってこようか?」
│ ワタシは、
│ 視線を座卓に落としたまま、首を小さく振りました。
│ 「ううん、
│ いい・・・」って返しました。
│ 続きます。
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