253.夜7時になりました
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
│
│ 夜7時になりました。
│ それからしばらくすると、
│ 外の門の開く音がして、
│ 閉じた音がして、
│ ちょっと間が置あってから、
│ 玄関のドアの開く音がしました。
│ 「ただいま」って、お父さんの声がしました。
│ お母さんの、
│ 「おかえりなさい」って声がしました。
│ 「ウサギは?
│ 少しは良くなったのか?」
│ 「そのことなんだけど、
│ ウサギには、
│ 今日から、漫画部屋を寝室として使ってもらうことにして、
│ だから、
│ 今、そこで寝ているのよ」
│ 「え?
│ ・・・あぁ、トイレに通うためか。」って、お父さんの声がしたあと、
│ こっちに歩いてくる足音がして、
│ 部屋の戸が、
│ トントン・・・って、2回ノックされました。
│ 「ウサギ、入るぞ?」
│ お父さんにそう言われたワタシは、
│ 「あ、はい」って返しつつ、上体を起こしました。
│ 戸が静かに、半分くらい開いて、
│ カバンを手に提げた、白いワイシャツ姿のお父さんが現れました。
│ 「お父さん、おかえり・・・」
│ ワタシがそう言うと、
│ お父さん、
│ 布団の上のワタシを見て、
│ 「あぁ、ただいま。
│ どうだ?、体の調子は」って訊きました。
│ 「えっと、
│ その、あんまり・・・」
│ 「・・・ん?
│ ご飯、今日も食べられないままか・・・」
│ お父さん、
│ 布団の脇の、ミニテーブルのほうを見て、
│ そう言いました。
│ ワタシは、
│ 「うん・・・」って返しました。
│ お父さん、
│ ため息をつきました。
│ そうして、
│ 「・・・分かった。
│ じゃあ、
│ 父さん、お風呂に入ってくるからな」って言いました。
│ 「うん」って、ワタシが返すと、
│ お父さん、
│ 開けていた戸を、ゆっくりと閉めました。
│ ワタシも、
│ 起こしていた体を、また戻しました。
│ その後、
│ お父さんの足音が、階段を上がっていき、
│ 少しすると、また下りてきて、
│ その足音が、台所のほうに行きました。
│ ふたりで何かを話してる声がして、
│ やがて、
│ 「え!
│ 貰ってこなかったのか?」って、お父さんの声が聞こえました。
│ 再び、ふたりで何かを話し合ってる声が続いて、
│ それが止まって、
│ 足音が、お風呂場のほうへ向かっていきました。
│ ちょっとして、
│ 足音が近付いてきて、部屋の戸がノックされました。
│ 「ウサギ、お母さんだけどー」って声がしました。
│ 「あ、
│ うん、いいよー」って返したワタシは、体を起こしました。
│ お母さんが戸を開け、
│ 「あぁ、
│ 起きなくていいわよ、そのまま寝てなさい」って言いました。
│ ワタシは、
│ 「あ、
│ うん、分かった・・・」って返しつつ、体を寝かせました。
│ 部屋に入ってきたお母さん、
│ 後ろ手で戸を閉め、ワタシに言いました。
│ 「・・・お父さん、
│ 今、お風呂に入ってる」
│ 「うん、聞こえてる」って返すと、
│ お母さん、
│ ワタシの近くにきて、しゃがみました。
│ 少し声を落として、
│ 「どうする?
│ 自分で言う?」って尋ねました。
│ 「えっと・・・、」って口にしたワタシは、
│ 言おうかどうか、ちょっと迷いました。
│ でも、
│ 色々と説明しなきゃいけない気がしたので、
│ それで、
│ 「あ、
│ ううん、自分で言う・・・」って返しました。
│ 「そう、分かったわ。
│ 一応、お父さんには、
│ ツワリはストレスで悪化することもあるから・・・って、釘を刺しておいたから」
│ 「・・・うん」
│ 「お父さんには、どこで話すつもり?
│ この部屋に来てもらう?」
│ 「あぁ、
│ じゃあ、台所・・・じゃなくて、
│ えーと、
│ ・・・リビングで」
│ 「リビングね、分かったわ。
│ 時間は? また8時くらい?」
│ 「えっと・・・、
│ うん、
│ 多分、それくらい・・・」
│ ワタシがそう答えると、
│ お母さん、
│ 「分かったわ。
│ 私も、一緒にいるからね」って言いました。
│ 「・・・うん、
│ ありがと」って返しました。
│ 「さてと、
│ じゃあ、そろそろ戻るわね。
│ 冷奴とかは、もう下げちゃっていい?
│ 食べられそうもないでしょ」
│ 「あ、えと・・・、
│ うん、下げちゃっていいよ・・・」
│ 「そう、
│ じゃあ、また冷蔵庫に入れとくからね」
│ 「うん」
│ お母さんは、
│ ミニテーブルの上のお盆から、りんごジュースのコップとかを下ろすと、
│ そのお盆を持って、立ち上がり、
│ 部屋を出ていきました。
│ 戸が閉められたあと、
│ ワタシは、
│ 枕元に置いてある充電スタンドに目を向け、スマホを手に取りました。
│ 寝ながらメッセージをいくつか確認したあと、
│ 久し振りにネットで動画を観たりして、
│ その途中で、上体を起こしました。
│ りんごジュースを飲みつつ、そのままネットをして、
│ 少しすると、
│ スマホを充電スタンドに戻して、
│ また、横になりました。
│ 緊張は、ほとんどしていませんでした。
│ どちらかと言えば、少しスッキリとした気分でした。
│ あとちょっとで、
│ 一応、一段落が着きそう・・・って思ってました。
│ 続きます。
└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




