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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
252/293

252.「話し合いのあと

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 「話し合いのあと、

│  ▼▼お祖母ちゃん、これからすぐに九州に帰るって言うんで、

│  お父さんが空港まで送っていって、

│  夜の7時過ぎだったかな、

│  ウチの電話が鳴ったの。

│  お父さんだろうな、って思って、

│  すぐに階段を下りていったら、やっぱりそうだった。

│  弟に、

│  “△△さんからー”って言われて、受話器を渡された。

│  “もしもし・・・”

│  “あぁ、◎◎。

│   今、お袋を送り終えて、

│   これから帰るとこ。

│   で、明日はどうする?

│   病院、決まった?”

│  “うん、一応。

│   ・・・ご飯は? もう食べた?”

│  “いや、まだ”

│  “じゃあ、

│   これから一緒に、

│   どこか、食べに行かない?

│   明日のこととか、色々話したいし”

│  “あぁ・・・、

│   いや、今日はいいや。

│   もう遅いし、

│   それに、流石に ちょっと疲れた・・・。

│   今日は もう、ひとりでゆっくりしていたい・・・。

│   ゴメンな”

│  “・・・分かった。

│   じゃあ、

│   明日の朝、いつもと同じ時間に行くから”

│  “あぁ、

│   うん、分かった。

│   今日はお疲れ様”

│  “うん、

│   ▽▽もお疲れ様。

│   ありがとね”

│  “いや、

│   まぁ、当たり前のことだし・・・。

│   ◎◎のほうこそ、

│   今日は悪かったな”

│  “お母さんの悪口のこと?

│   ううん、

│   私、全然気にしてないから”

│  “いや、

│   悪かった、ゴメンな”

│  “ううん、

│   私、ホントに気にしてないから。

│   ぜんぜん平気”

│  “・・・分かった。

│   じゃあ、また明日な”

│  “うん、また明日ね。

│   おやすみー”

│  “おやすみー”

│  翌朝、お父さんのアパートに行ったあと、

│  決まった病院のことを話して、

│  その決まった病院に診察と検査の予約を入れるため、

│  また、外の公衆電話から電話したの。

│  予約は取れたんだけど、当日じゃなかったから、

│  その日はふたりで映画館に行ったり、街をぷらぷら歩いたりして、

│  ゆっくり過ごして、

│  で、

│  予約の当日、

│  お父さんとふたりで病院に行って、診察や検査を再びしてもらって、

│  中絶手術を申し込んだの。

│  今度は、感じの良いお医者さんでね、

│  手術の手順とか、色々丁寧に説明してもらえて、

│  費用も、確か、10万ちょっとだったわ。

│  なんなの、あのふざけた金額は・・・って、

│  今でもちょっと思ってる。

│  手術の前夜、

│  準備のために病院に行って、

│  自分以外誰もいない、静かで暗い病室で過ごしてるときは、

│  ここ2週間くらいの、妊娠が分かってからのことは、

│  なるべく考えないようにしてたんだけどね、

│  でも、

│  ふっと、義姉さんのことが頭を(よぎ)ってしまって、

│  次いで、色々な感情が湧いてきてしまって、

│  私、

│  病室の天井を見上げながら、ひとりで涙してた。

│  で、

│  あぁ、そうそう、

│  何しろ20年以上も昔のことなんで、

│  もしかしたら、あまり参考にならないかもしれないけどね、

│  まず、その準備っていうのは・・・、」って、

│ ワタシのお母さん、

│ 手術のことを色々話してくれました。

│ 「・・・でね、

│  手術を終えた私は、

│  自分の荷物を持って、お父さんのいる待合室に戻ったわ。

│  隣に腰掛けると、

│  お父さんに、

│  “大丈夫か?”って訊かれたから、

│  私、

│  “うん・・・”って返した。

│  その後は、

│  お父さんと私の間で、

│  この妊娠の件について話すことは、ほとんどなかったわ。

│  一週間後と二週間後くらいの術後検診のとき、

│  お父さん、両方とも ついてきてくれたんだけど、

│  そのときにちょっと話したくらいで、

│  あとは全然なかった」

│ お母さん、そこまで話してから、

│ ふぅ・・・って、息をひとつ吐きました。

│ そうして、

│ 「・・・まぁ、

│  だいぶ長くなってしまったけど、こんなところかな、

│  私が堕ろしたときの話は」って言いました。

│ ワタシ、

│ 「うん、

│  ・・・ありがと」って、お礼を言いました。

│ 「何か、訊きたいことある?」

│ ワタシ、ちょっと考えて、

│ それから お母さんに訊きました、

│ 「・・・その、

│  堕ろしたこと、どう思ってる?」って。

│ 「あぁ、

│  後悔してるかどうか、ってこと?」

│ 「・・・うん」

│ 「してないわ」

│  だって、あなたとお兄ちゃんがいるもの。

│  あのとき堕ろしてなかったら、ふたりとも産まれてなかったわ。

│  あなたと、こうしてお話できなかった」

│ 「・・・」

│ 「あぁ、でも、

│  後悔っていうほどのものでもないんだけど、

│  堕ろして、二日か三日 経ったときかな、

│  バイトに行ってきたのよ。

│  手術が終わったあと、

│  お医者さんに、

│  “バイトは少しの間 休んだ方がいいのか”って訊いてみたらね、

│  “いえ、

│   まだ初期ですので、そこまで気にしないでも大丈夫です。

│   体の異常をどこかに感じていたり、

│   あるいは何か不安だったりしたら、休まれたほうがよろしいですが、

│   そうじゃない限りは、特に問題ありません”って言われて、

│  じゃあ、休むのやめよう・・・って。

│  働いてる間、余計なこと考えずに済むし・・・って。

│  でね、その帰りのことなんだけど、

│  ひとりで道を歩いてて、

│  私、

│  なんか、気分がサッパリしていると言うか、

│  心が軽くなっていると言うか、

│  そういう風に感じられたの。

│  色々あったけど全部終わって、肩の荷が下りたからかな・・・とか、

│  ひょっとしたらツワリがあったのかも・・・とか、少し思って、

│  で、

│  お腹減ったなぁ、早く帰って晩ご飯を・・・って考えたときにね、

│  なんとなく、違和感があったの、

│  お腹の辺りに。

│  手応えがないと言うか、やたら静かと言うか、

│  物足りないと言うか。

│  あぁ、そっか・・・って思ったわ。

│  自分が意識していないときも、考えていないときも、

│  私、

│  知らず知らずのうちに、ずっと気にしていたんだな・・・って。

│  その瞬間、

│  物寂しさが込み上げてきて、

│  それで、

│  あぁ、これか・・・って思ったわ。

│  そんなことあるわけないし、

│  いくらなんでも大袈裟だろう・・・って思ってたんだけどね、

│  確かにね、

│  お腹がちょっと、軽くなってるような気がしたの。

│  涙が出たわ。

│  歩くのが少しつらかった。

│  でも、

│  仕方ないことだった・・・って割り切ってそのまま歩いてたら、

│  すぐに気にならなくなって、

│  その日は、そうして家に帰って、

│  それからは、

│  もう、このことでそんなに気にすることはなかったわ。

│  後悔したりとか、悔やんだりとか、

│  そういうのって、

│  私の場合、特になかった。

│  ドライなのかもしれないけど」

│ 「・・・ワタシ、

│  お母さんのことドライって思ったこと、一度もない」

│ 「あら、そう。ありがと。

│  友達には、

│  ◎◎ちゃんって、意外とサバサバしてるよねー・・・って、よく言われるんだけど」

│ 「・・・その、

│  引きずったり、

│  たまに思い出したりすることも、なかった?」

│ 「引きずりはしなかったけど、

│  ただ、

│  たまに思い出すことはあったわ、ふとしたタイミングでときどきね。

│  でも、いつもほんのちょっとよ。

│  すぐに忘れてしまってたわ」

│ 「・・・堕ろしたこと、

│  他の人に知られちゃったり、色々言われたりとかは?」

│ 「んー、特にはなかったと思う。

│  それに、

│  今となっては、もう気にしてないし、

│  特に隠してもいないわ。

│  あぁ、それでね、

│  黙ってて申し訳ないんだけど、

│  実はあなたのこと、義姉さんに言って相談したの。

│  それもあって、思い出話を長々と喋ったの。

│  義姉さん、あなたのことをすごく心配してて、

│  力になってくれる・・・って」

│ 「・・・。

│  えと・・・、

│  うん、分かった・・・」

│ 「・・・ダメだった?」

│ 「ううん、

│  そうじゃないんだけど・・・。

│  あ、

│  堕ろしたあと、

│  何か困ったこととか、そういうのは・・・」

│ 「特には・・・なかったかな、

│  多分だけど」

│ 「・・・ありがと」

│ 「・・・ウサギ」

│ 「何?」

│ 「産んだときのことは訊かなくていいの?」

│ 「え? あぁ、

│  そっちは、

│  ちょっと調べれば、すぐにたくさん出てくるし・・・」

│ 「・・・そう」

│ 「うん・・・」

│ ワタシがそう返すと、

│ お母さん、息をひとつ吐きました。

│ そうして言いました。

│ 「・・・ウサギ、

│  お父さんね、あなたのことが大好きなのよ。

│  あなたのことが可愛くて仕方ないの。

│  あなたに嫌われたくなくて、

│  だからお父さん、

│  お兄ちゃんに対しては すぐに怖い顔して怒るくせに、

│  あなたのこととなると、ちっとも怒ろうとしないの。

│  まぁ、

│  それくらい、いいじゃないか・・・って、すぐに許そうとするの。

│  だから、

│  あなたを叱る役目は、いっつも私。

│  いつだったか、あなたがまだ小さかった頃、

│  まだ、こっちに引っ越してきていない時期の話だけど、

│  お父さんの運転する車に乗って、

│  祭りを見に、遠くに出掛けたことがあったでしょ?

│  そしたら、

│  お兄ちゃん、私とお父さんを驚かせようとして、

│  私たちがちょっと目を離したすきに、あなたを(そそのか)して隠れちゃって・・・。

│  お兄ちゃんは10分くらいで出てきたんだけど、

│  あなたったら、

│  ひとりで神社の境内を出て、そのまま遠くに行っちゃったもんだから、

│  探しても探してもなかなか見付からなくて、

│  お父さん、

│  お兄ちゃんのこと、大声で叱りつけて大泣きさせて・・・。

│  で、

│  そしたら あなた、

│  1時間くらいしたら、自分の足で戻ってきたでしょ?

│  誇らしげな顔して、

│  “ただいまー。ちょっと探検してきたー”って。

│  お父さん、

│  二度と勝手にどこかに行かないように、うんと叱りつけてやる・・・って、

│  そう言ってたくせにね、

│  いざ、あなたが戻ってきたら、

│  ひと言も叱ろうとしないの。

│  あなたを抱き締めて、

│  “良かった、良かった。

│   もう勝手にどこかに行くんじゃないぞ、分かったな?”って言って、

│  それで終わり。

│  仕方ないから、私が叱ったわ。

│  覚えてるでしょ?」

│ 「・・・うん、覚えてる」

│ 「だからね、

│  お父さん、そのウサギの彼氏のことを余計に許せなくて、

│  だから、あんなこと言ってるの、

│  考える必要なんてない、堕ろせ・・・って。

│  そんなの、

│  お腹の中の子は関係ないのにね」

│ 「・・・」

│ 「ウサギ、いい?

│  お父さんのことは気にしないでいいからね。

│  あなたの思うようにしなさい。

│  あなたの本当に望んでることをしなさい。

│  これはあなたの問題なの。

│  あなたが決めるの。

│  どちらの選択をしようとも、

│  私も義姉さんもあなたを支持するし、応援する。

│  何があってもあなたの味方。絶対に。

│  分かった?」

│  ワタシは、

│  ちょっと間を置いてから、

│ 「・・・うん」って返しました。

│ 「じゃあ、そろそろ・・・、

│  あら! もうこんな時間じゃない。」

│ 部屋の壁掛け時計を見上げたお母さん、そう声を上げると、

│ 「お父さん、帰ってきちゃう。

│  すぐに支度しないと」って言いつつ、ミシン台の上のお盆を持って立ち上がり、

│ そのまま慌てて部屋を出ていって、後ろ手に戸を閉めました。

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2024/1/3

既に宣言してる内容ですが、

この先、ウサギさんのパートを全体的に手直しする必要があるため、

次話の投稿まで、かなりの間が空くと思います。

申し訳ない。

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