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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
251/292

251.すみません、気分がかなり悪くて

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ すみません、

│ 気分がかなり悪くて、書くのをしばらく休んでました。

│ あと4時間くらいで、入院のために家を出発しないといけないのですが、

│ もしかしたら、

│ そのときまでに、全部書き切れないかもしれません。

│ そうなった場合、

│ 入院後に、

│ 病院内の、スマホの使える場所で、

│ 残りを書いて、投稿しようと思っています。

│ それと、

│ たくさんのコメント、ありがとうございます。

│ 時間に余裕がなく、まったく読めていませんが、

│ 必ずあとで読みます。

│ 病室でも読めるように、プリンターで紙に印刷しようと思ってます。

│ ただ、

│ その印刷のやり方が分からなくて、ちょっと困ってます。

│ 印刷ボタンを押しても、印刷できません。

│ お兄ちゃんが起きてきたら、このノートパソコンを返さないといけないのですが、

│ そのときに、訊いてみようと思います。

│ では、続きです。

│ ウサギ

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ あぁ、そっか、

│ リビングにあるパソコンを使えば、

│ 多分、印刷はできると思います。

│ 今、気付きました。

│ それと、

│ ヒグラシって、この時間にも鳴くんですね。

│ 初めて知りました。

│ では、今度こそ続きです。

│ あと少しだと思うので頑張るウサギ

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 「急に声をかけられた▼▼お祖母ちゃん、

│  息をひとつ吐くと、

│  顔を@@お祖母ちゃんのほうへ向けた。

│  “はい、なんでしょう”って、

│  落ち着いた声で返した。

│  @@お祖母ちゃんが尋ねた、

│  “あの、

│   ▼▼さんは、ご予定では こちらにはいつまで?”って。

│  “え?

│   あぁ、はい、

│   こちらの適当な宿で一泊し、明日の午後には戻ろうかと。

│   子供の世話もありますし、

│   急に出てきたものですから、家のことも色々残っておりまして”

│  “あら、そうですか。

│   明日の午後には・・・というのは、何か用事でも?”

│  “いえ、

│   用事と言う程のものは、特には・・・”

│  “そうですか。

│   なら、

│   返事は明日の朝とかでもよろしいのではなくて?

│   それとも、

│   今すぐにでないといけない特別な理由でも、何か おありですか?”

│  “・・・明日となると月曜でしょう。

│   迷惑なのでは・・・”

│  “いえ、こちらは大丈夫です。

│   主人・・・は出られないようですが、

│   わたしが対応します。

│   なら、

│   構いませんね?、それで”

│  少し間があって、

│  それから、

│  ▼▼お祖母ちゃん、

│  いつもと同じ、すました調子で答えたわ、

│  “・・・はい、結構です”って。

│  @@お祖母ちゃん、

│  それを聞くと小さく息を吐いてね、

│  それから、

│  向かい側の▼▼お祖母ちゃんに言った。

│  “それと、

│   妊娠したとは言え、

│   まだ週数は それほど進んでないわけでしょう?

│   11週の終わりまで、

│   まだ、一ヶ月近く猶予があるはずです。

│   なら、

│   今は、そう無理に結論を()く必要もないのではありませんか?

│   たとえ正しいことであっても、

│   それを理解し、受け入れるのには、

│   誰だって、少し時間のかかるものです。

│   勉強と一緒です。

│   そうでしょう”

│  “・・・”

│  “わたしとしては、

│   明日の朝と言わず、

│   1週間後でも、2週間後でも構わないと思ってます”

│  “・・・”

│  お祖父ちゃんも言った、

│  “私も、家内と同じ意見です”って。

│  ▼▼お祖母ちゃん、

│  少ししてから口を開いて、何かを言おうとしたみたいだけど、

│  また すぐに閉じた。

│  @@お祖母ちゃん、私たちのほうに座り直した。

│  そうして言った。

│  “いい?、ふたりとも。

│   昨日も ちょっと話したけどね、

│   ウチだって、堕ろしてくれないと困るのよ?

│   未婚での妊娠で、

│   しかも、その子を産んだとなると、

│   どうしても噂になるし、

│   さっきの▼▼さんの話でもあったけど、

│   こっちでも、やっぱり陰で色々言われてしまうわ。

│   一部の人たちから、

│   無言電話とかの、心ない嫌がらせだってされてしまうかもしれない。

│   主人の会社に伝わるようなことがあれば、

│   そんなの、すぐに広まってしまうだろうし、

│   親の方に何か問題があるんじゃないか・・・って、周りから変に勘繰られて、

│   仕事がやりにくくなってしまうかもしれないわ。

│   人事の人に、問題ありと見()されれば、

│   今のお給料だって下げられちゃうかもしれない。

│   ウチには、まだ●●がいるの。

│   これから、

│   お金が一段と必要になってくる時期なの。

│   万が一、お給料を下げられてしまうことがあれば、

│   ウチとしては、すごく困るの。

│   だから、

│   分かってちょうだい、

│   ふたりで考えるのもいいけど、なるべくなら堕ろしてほしい”

│  それ聞いてね、

│  私、なんにも言えなかったわ。

│  下向いたまま黙ってて、

│  そうしたら、

│  少しして、

│  “・・・あの”って、隣のお父さんが言ったの。

│  “何かしら”って、

│  @@お祖母ちゃんが訊いた。

│  お父さんが言った、

│  “あの、

│   さっきは、ありがとうございました”って。

│  “あぁ、

│   別にいいわ、それくらい”

│  ▼▼お祖母ちゃんの、

│  ふんっ・・・て声がした。

│  お父さん、

│  改めて言った。

│  “えっと・・・、

│   あの、それで・・・”

│  “・・・何?”

│  “いや、

│   えと、その・・・”

│  “・・・どうしたの?”

│  お父さん、

│  下を向いたまま、黙ってて、

│  でも、

│  少ししてから言った。

│  “・・・その、

│   もし産むことに決まったら、ですけど、

│   ◎◎は、

│   あぁ、◎◎さんは、

│   大学をやめないといけないわけですよね?

│   そうしたら、その分のお金が・・・”

│  @@お祖母ちゃん、息をひとつ吐いてね、

│  それから言ったわ。

│  “・・・そうね、

│   ●●の選択次第ではあるけど、

│   まぁ、でも、

│   あなたの言う通り、なんとかなるかもしれないわね。

│   ただ、

│   下がったお給料の影響って、●●が なんとかなったあとも残るし、

│   いつか、昇進のチャンスがあったときも、

│   問題のありそうな人物だから・・・って、見送られてしまうかもしれないわ。

│   その後のわたしたちの生活については、

│   あなた、どうなってもいいと考えてるの?”

│  “・・・。

│   いや、その・・・”

│  “・・・”

│  “・・・”

│  お父さん、

│  顔を下に向けたまま、何も言わなかった。

│  お祖父ちゃんが訊いた、

│  “ふたりとも、

│   いざとなれば、大学を辞めてもいいと考えているのか”って。

│  なんて答えたらいいか、迷っていたら、

│  お父さんが、

│  “・・・はい、考えてます”って答えた。

│  ▼▼お祖母ちゃん、すかさず割って入ったわ、

│  “はあ? 何勝手なことを言ってるのです。

│   そんなの許しませんよ! 取り消しなさい!”って。

│  お父さん、何も言い返さなかった。

│  黙ってた。

│  お祖父ちゃん、

│  少ししてから、私のほうを見て尋ねたわ、

│  “◎◎、お前もか?”って。

│  私、

│  ちょっと考えたあと、黙って頷いた。

│  お祖父ちゃん、ため息をついて、

│  また、お父さんのほうに顔を向けた。

│  そのまま尋ねたわ、

│  “・・・▽▽君は、

│   じゃあ、産むことに決まったら大学を辞めて働くつもりか”って。

│  お父さんが答えた。

│  “はい、

│   そのつもりでいます・・・”

│  “キミは昨日、私に言ってたじゃないか、

│   情報ナントカってところで勉強していて、

│   将来、そっちの道に進むことを考えている・・・と。

│   なら、それは諦めると言うことか”

│  “いや、その・・・、

│   そういう道に進むかどうかは、まだ決めてはいないのですが、

│   ただ、もし進むにしても、

│   勉強自体は、大学に通わなくともできると思っています”

│  “素直に大学に通ったほうが、

│   より高度なことを、たくさん学ばせてもらえるだろう。

│   それに、

│   キミの分野、

│   コンピュータとか、プログラミングとか、

│   そういうものだと言ったな?

│   だとしたら、

│   独学するにしても、

│   そのコンピュータを買うお金や、本を買うお金が必要になってくるんじゃないのか?

│   コンピュータは少なくとも数万はかかりそうだし、

│   本だって、

│   特に、専門的な技術書になると1冊数千円だ。

│   子供を産んで育てるため、大学をやめて働くにしても、

│   まず、自分たちの生活のことで手一杯で、

│   とてもじゃないが、

│   そっちにお金を回す余裕なんて、ないんじゃないのか?

│   勉強の時間だって忙しくてなかなかとれないだろうし、

│   それに、そういう状況での勉強となると、

│   やっぱり、

│   ある程度、中途半端なものになってしまうんじゃないのか?

│   ホントにそれで、

│   ▽▽君の希望する方面の職にちゃんと就けるのか?

│   難しいんじゃないのか?”

│  “・・・その、

│   一応、アルバイトで そういうプログラミング関係の会社に入って、

│   アシスタントか何かとして働きながら色々勉強し、スキルも磨いていって、

│   そうして、

│   将来的には、

│   そこか、あるいは別の会社に正社員として登用してもらうことを考えてます”

│  お祖父ちゃん、ちょっと驚いたみたいだった。

│  私も驚いた。

│  お祖父ちゃん、少ししてから言った。

│  “・・・今はそういうアルバイトがあるのか”

│  お父さんが答えた。

│  “あります。

│   バイト情報の冊子によく載ってます”

│  “その、

│   私は、

│   コンピュータとかプログラミングとかの分野ついてはまったく分からないのだが、

│   そういうルートでの正社員としての登用というのは、割とあることなのか?

│   普通のことなのか?”

│  “普通かどうかは・・・ちょっと分かりません。

│   ただ、バイト冊子を見ると、

│   そう説明のある募集が、ときどき載ってます。

│   念のため、昨日も ちょっと確認してみたんですが、

│   何社か見付けました”

│  “そうか。

│   ・・・なら、産むことになったら、

│   キミは、そうしようと考えているわけだな?”

│  “いえ、

│   それは、まだ・・・。

│   ただ、

│   選択肢のひとつとしては、一応、考えています”

│  “・・・分かった。

│   だが、

│   私は、キミのその案にはあまり賛同する気にはなれない。

│   いくら そういった手段で目的の職に就くことができるとは言っても、

│   ちゃんと大学を卒業し、それからのほうがいい会社にだって入りやすいし、

│   より確実で、より安心なのは間違いないだろう。

│   アルバイトとして入ったが、いくら経っても社員としては登用してもらえず、

│   最終的に、契約期間満了でそこを去らざるを得なくなることだって、

│   十分に考えられる。

│   また次を探さなくちゃならない。

│   アシスタントとして働いた実績や、そこで得たスキルが評価され、

│   どこかの会社がすぐに採用してくれればいいが、

│   そうじゃなければ、再びアルバイトからだ。

│   そうしたら、

│   その間、貰える給料はずっとアルバイトのままで、

│   その給料で、

│   自分だけじゃなく、

│   ◎◎や、これから産まれてくる子供を養わないといけない。

│   もし、足りなければ、

│   ◎◎だって、

│   子供をどこかに預けた上で、働きに出ないといけなくなる。

│   できないことはない。

│   だが、どちらかと言えば厳しめの生活になってしまうだろうし、

│   多くのことを我慢しなくちゃいけなくなる。

│   キミや◎◎だけでなく、

│   産んだ子も、だ。

│   そういう生活を()いさせてもいいと言うのか?”

│  “・・・”

│  “・・・キミは色々考えているようだから、

│   多分、これも頭にあるんだろうが、

│   職種を問わず、

│   高卒として、直接どこかに就職することだって考えているのだろう。

│   だが、

│   私に言わせれば、

│   それこそ、大学を卒業してからでいいじゃないか。

│   あと4年だろう。

│   どうして、そこまで無理をし、

│   周りに迷惑をかけてまで、いま産まなければならない”

│  “・・・”

│  “・・・まぁ、分かった。

│   じゃあ、▽▽君は、

│   本当に産んでもいいと、そう考えてるわけだな?”

│  “・・・はい”

│  “そうか。

│   ・・・◎◎もか”

│  そう お祖父ちゃんに訊かれたけど、

│  私、

│  少しの間、そのまま黙ってた。

│  お祖父ちゃん、再び私に尋ねたわ、

│  “どうした、返事は?

│   ◎◎もか”って。

│  私、

│  少ししてから、黙って頷いた。

│  祖父ちゃん、

│  “分かった・・・”って言って、

│  ため息ついた。

│  @@お祖母ちゃんが、私たちに訊いた、

│  “ふたりは、

│   結婚については どう考えてるの?”って。

│  お父さんが答えた。

│  “しようと考えています。

│   あぁ、その、

│   産むことに決まっ――”

│  “お待ちなさい!”

│  ▼▼お祖母ちゃん、急に割り込んできてね、

│  で、こう続けたわ、

│  “そんな みっともない結婚、許すわけがないでしょう!

│   式なんて挙げようものなら、

│   親族一同の前で、ワタクシたちは大恥を晒すことになります!

│   ふざけるのもいい加減にしなさい!”って。

│  お父さんが言った。

│  “お袋、

│   オレ、ふざけてなんかいない。

│   産むことが決まったら、

│   オレ、

│   ◎◎と結婚する、絶対に”

│  “そんなの、このワタクシが許しません。

│   一族の恥です。

│   こっちこそ絶対に認めるわけにはいきません、何があってもです”

│  “・・・じゃあ、認めてくれなくていいよ。

│   勝手に結婚する”

│  “は?

│   あなた、まだ未成年でしょう。

│   親の同意がなければ結婚はできませんよ?

│   分かってますか?”

│  “分かってるよ。

│   だから、

│   認めてくれないなら、2年後に結婚する。

│   それなら問題ないだろ”

│  “はあ?

│   なら、

│   その間、産んだ子はどうするのです。

│   未婚の親の子として育てるつもりですか”

│  “2年・・・いや、1年ちょっとか、

│   まぁ、それくらいだろ?

│   我慢するよ”

│  “我慢するとか、

│   そういう問題ではないでしょう!

│   馬鹿も休み休み言いなさい!

│   あぁ、もう・・・、

│   あなた、

│   本当に どうしてしまったのです・・・。

│   いくらなんでも、こんな聞き分けのない子じゃなかった、

│   こんな反抗的な子じゃなかったはずです。

│   都会の悪い空気に当てられ、変わってしまうんじゃないかと心配していたら、

│   案の定・・・。

│   どうして こうなってしまったのです。

│   やっぱり、

│   何を言われても、上京なんて許すんじゃなかった。

│   止めるんだった。

│   完全に失敗だった。

│   あぁ・・・”

│  “・・・”

│  “今回のことだって、

│   どうせ、そこの女にしつこく誘われ、

│   魔が差し、

│   つい やってしまったのでしょう。

│   なんて嘆かわしい”

│  “は?

│   ちょっ、お袋、

│   何言ってるんだよ。

│   そんなわけないだろ。

│   ◎◎は そんなことしない”

│  “いいえ、

│   そうに決まってます。

│   でなければ、いくら奥手のあなたでも、

│   あんな、見たところパッとしない・・・”って、

│  まぁ、詳しくは話さないけど、

│  ▼▼お祖母ちゃん、私の悪口を言ったのよ。

│  お父さん、

│  少しの間、下向いて黙っててね、

│  で、

│  急に顔を上げて、口を開け、

│  何か言うかと思ったら、

│  代わりに、ΩΩお祖父ちゃんの怒鳴り声が聞こえてきたの。

│  “おい、あんた! いい加減にしろよ!

│   黙って聞いてりゃ、人様の娘のことを・・・”って言って、

│  また、▼▼お祖母ちゃんとケンカし出しちゃったのよ。

│  お互いに悪口の応酬で、

│  やれ みすぼらしい家だの、やれ言葉遣いがなってないだの言い合ってて、

│  それでね、

│  少ししたら、見るに見かねた@@お祖母ちゃんが、

│  “まぁまぁ、

│   ちょっと落ち着きましょう? ね?”ってお祖父ちゃんを(なだ)め始めて、

│  だから私も、

│  “ぜんぜん気にしてないから・・・”って、

│  一緒になってお祖父ちゃんを宥めることにして・・・。

│  でね、

│  少し遅れて、お父さんもケンカを止めようと思ったらしくて、

│  ▼▼お祖母ちゃんに、

│  “分かった、分かったから。

│   オレが悪かった、

│   だから、

│   一旦、ちょっと落ち着こうよ? な?”って声をかけたんだけどね、

│  そしたら、

│  ▼▼お祖母ちゃんが、お父さんに向かって言ったの、

│  “だいたい、あなたもあなたです!

│   なんなんですか! こんな・・・”、

│  あぁ、要するにね、

│  胸が小さくて、

│  お乳も ろくに期待できなさそうな しょうもない女をなんでわざわざ選んだんだ、

│  ミルク代がかかってしょうがないじゃない・・・とか、

│  まぁ、そんな感じのことを言ったの。

│  溜めれる量については、確かに大きいほうがいいのかもしれないけど、

│  でも、

│  出る量については むしろ乳腺の多さのほうだから、そこまで関係ないのにね。

│  現に私、

│  あなたもお兄ちゃんも、

│  基本的に、自分のお乳だけで なんとか育て上げたし。

│  で、

│  ▼▼お祖母ちゃん、そうして また私の悪口を言っちゃったもんだから、

│  お祖父ちゃんが、

│  “おい、あんた!

│   いくらなんでも――”って文句を言おうとしたんだけどね、

│  そのとき、

│  机を思いっきり叩いた、物凄い音がしたのよ。

│  部屋の中が、

│  一瞬、シーン・・・となって、

│  そこにね、

│  お父さんの大きな声が響いたの、

│  “ふざけるな!!!”って。

│  ゆうべ、

│  あなたのときも、

│  お父さん、物凄い剣幕で怒ったでしょ?

│  あれと同じよ。

│  あんな感じだった」

│ 「・・・」

│ 「私、もうビックリしちゃってね、

│  隣のお父さんをボーッと見てたら、

│  お父さん、机に手をついて、

│  そのまま立ち上がろうと腰を浮かせたもんだから、

│  私、瞬間、

│  まずい、って思って、

│  慌ててお父さんの手を掴んだんだけど、

│  無言で振り払われちゃったわ。

│  お父さん、

│  ツカツカ歩いて、▼▼お祖母ちゃんの前で立ち止まった。

│  ▼▼お祖母ちゃん、

│  お父さんを見上げ、澄ました顔で訊いたわ、

│  “▽▽、なんですか”って。

│  “お袋、

│   いくら親とは言え、

│   言っていいことと悪いことがある”

│  “・・・だから、なんなのです。

│   何が言いたいのです”

│  “さっきの言葉を取り消せ。

│   それと、◎◎に謝れ”

│  “さっきの言葉?

│   何を言――”

│  “◎◎を侮辱しただろ!”

│  “・・・侮辱?

│   何を勘違いしてるのです、

│   ワタクシ、侮辱など ひと言たりとも申してません。

│   事実を述べたまでです”

│  “ふざけるな!

│   今すぐ取り消せ!”

│  “なんですか! あなた!

│   母親に向かって その態度は!

│   女性に対し、力で威圧し、

│   無理に言うことをきかせようと言うのですか!

│   なんて恥知らずな。

│   ワタクシ、

│   あなたをそんな野蛮な男に育てたつもりはありません。

│   ▽▽、下がりなさい”

│  “・・・”

│  “下がりなさい!”

│  “・・・”

│  お父さん、

│  でも、後ろに下がらなかった。

│  ▼▼お祖母ちゃんを睨みつけたまま、動かなかった。

│  お祖父ちゃんが言った、

│  “・・・▽▽君、下がりなさい。

│   ここは私たちの家だ。

│   キミに、何か ことを起こされると、

│   こっちが迷惑だ。

│   下がりなさい”って。

│  “・・・”

│  お父さん、

│  間を置いてから、ひとつ大きく深呼吸した。

│  そうして、黙ってこっちを振り向くと、

│  また、ツカツカ歩いて戻ってきた。

│  私の隣でドカッと腰を下ろし、あぐらをかいて、

│  そのまま項垂(うなだ)れた。

│  お祖父ちゃんが、▼▼お祖母ちゃんに言った。

│  “▼▼さん、

│   あなたの謝罪の言葉はもういらないが、

│   しかし、訂正だけはしてくれんか。

│   あなたにとっては事実なのかもしれんが、

│   こっちにとってはそうではない。

│   侮辱以外の何ものでもない。

│   訂正だけはしてほしい。

│   ・・・◎◎、それでいいか?”

│  訊かれた私、頷いた。

│  ▼▼お祖母ちゃんが言った、

│  “・・・分かりました。

│   先程の◎◎さんへの発言、取り消すことにいたします”って。

│  お祖父ちゃん、

│  息をひとつ吐いたあと、▼▼お祖母ちゃんに言った。

│  “・・・それと、

│   ウチの◎◎と▽▽君の結婚の件ですが、

│   ふたりが、

│   もし、妊娠した子をどうしても堕ろさないと言うのなら、

│   もし、こっちの反対を押し切り、どうしても出産すると言い張るなら、

│   私たちは、その結婚を認めるつもりでいます。

│   ふたりを結婚させるつもりでいます”

│  “は?

│   何を勝手なことを言ってるのです。

│   ワタクシたちは認めませんよ。

│   そんな結婚、絶対にさせるわけにはいきません”

│  “・・・その、

│   どういう手段をもってさせないのか、よく分かりませんが、

│   しかしそれが、

│   未成年の結婚は親の同意が必要なことを念頭に、もしおっしゃっているのなら、

│   その同意は、両方の親からのものでなくていいはずです。

│   結婚は、片方の親の同意だけで十分だったはずです”

│  “は?

│   そんなわけないでしょう。

│   片方の親が同意せず、反対していて、

│   それで、どうして結婚が認められるのです”

│  “どうしてかは知りません。

│   ただ、法的には、

│   確か、そうなっていたと記憶しています”

│  ▼▼お祖母ちゃん、

│  少しの間、黙ってた。

│  そうして言った、

│  “・・・あなた方は、

│   では、このふたりを結婚させると言うのですか。

│   ワタクシたちからの これだけの反対を押し切って、

│   周りの迷惑も顧みず強引に出産しようとする、この上なく身勝手極まりないふたりの結婚を、

│   では、

│   あなた方は、許すと言うのですか”って。

│  お祖父ちゃんが答えた。

│  “仕方ないでしょう。

│   未成年で、しかも未婚となると、

│   その産まれた子は、

│   法の上では、

│   未成年である母親の、その親権者の子として扱われます。

│   要するに、

│   ◎◎と▽▽君のケースで言えば、

│   私と@@が、その産まれた子の親にさせられてしまいます。

│   生物学的には、

│   その産まれた子の親は、確かに、◎◎と▽▽君です。

│   ただ、

│   法的には、私と@@が親になってしまいます。

│   ◎◎が産んだにも関わらず、

│   戸籍上は、◎◎の妹か弟にされます。

│   そんなことになったら、

│   それこそ、

│   周りには、いい笑い話にされてしまいます。

│   出産すると言ってどうしても聞かないのであれば、

│   ふたりの結婚は認めざるを得ないと、

│   私たちは、そう思っています。

│   そうして、

│   産んだ子は、ふたりの子として、

│   自分たちの責任で、しっかり育ててもらおうと思っています”

│  “・・・”

│  ▼▼お祖母ちゃん、

│  顔を下に向け、

│  少ししてから、息を短く吐き捨てた。

│  お祖父ちゃん、

│  私たちのほうを向いて言った。

│  “・・・そういうわけで、

│   一応、どうしても産みたい・・・と言うのなら、

│   私たちは、結婚を認めるつもりだ。

│   結婚しさえすれば、

│   未成年であっても、法的には成人として認められ、

│   アルバイトをするときの雇用契約や、アパートなんかの賃貸契約も、

│   親の同意なしに、自分たちだけで結べるようになる。

│   色々なことがやりやすくなる。

│   ただ、そうは言っても、

│   私たちは・・・と言うか、私たちも・・・か、

│   まぁ、とにかく、

│   ふたりの今回の出産には、断固反対だ。

│   その立場に変わりはない。

│   ハッキリ言って迷惑だ。

│   見送って欲しい、そう思ってる。

│   さっきも話したが、

│   別に、今じゃなくてもいいだろう。

│   大学を出て、

│   働くようになってからでいいだろう。

│   なんでわざわざ、

│   今、そんなに無理して産む必要がある”

│  “・・・”

│  私とお父さんが黙ってたら、

│  間を置いて、@@お祖母ちゃんが言った。

│  “・・・大学を出れば、それなりにいい会社にも入りやすくなって、

│   比較的、余裕のある暮らしを送れるようになるわ。

│   子供を塾や習い事に通わせたり、

│   色々なものを買ってやって、色々なところに連れていってあげられるし、

│   それに、

│   二人目以降の子を持つことだって、ある程度考えやすくなる。

│   ふたりにとっても、

│   そっちのほうがいいんじゃないかしら”

│  お父さん、

│  少ししてから口を開いたわ。

│  “・・・その、なんて言うか、

│   違うんです、

│   いま産んでしまうと、余裕のある生活が送れなくなってしまう・・・とか、

│   大学卒業してからなら、子を多く持つこともそれほど難しくないかも・・・とか、

│   そう言われれば確かにそうなんですけど、

│   でも・・・”

│  そしたらね、

│  ▼▼お祖母ちゃんが、急に割り込んできて言ったの。

│  “何をゴチャゴチャと言っているのです。

│   避妊していたということは、

│   もともと産むつもりのなかった子でしょう。

│   望んでない妊娠で出来てしまった、望んでない子のはずです。

│   そんな子、どうだっていいでしょう。

│   さっきから馬鹿のひとつ覚えみたいに、

│   考えたい、考えたい・・・って、

│   いったい、何を考える必要があるのですか。

│   さっさと堕ろせばいいだけでしょう。

│   いい加減、子供みたいにダダを()ねるのは およしなさい。

│   時間のムダです。

│   堕ろすと言いなさい”

│  お父さん、

│  少しの間 黙っててね、

│  それから、話し始めたわ。

│  “・・・妊娠は、

│   お袋の言う通り、確かにオレは望んでなかった。

│   けど、

│   それって、

│   今は望んでなかった・・・って意味なんだ。

│   もっとあとの、別の機会だったら、

│   オレ、

│   多分、喜んで受け入れてたんだ。

│   望んでなかったのは、あくまでタイミングのことで、

│   だから、

│   出来てしまった子のことについては、望んでなかったわけじゃないんだ。

│   いらない子なんかじゃなくて、

│   だからこそ、ちゃんと考えたいんだ”

│  ▼▼お祖母ちゃんが言った。

│  “いらない子でしょう!

│   未婚で身籠った子なんて、恥以外の何ものでもありません!

│   堕ろしなさい!”

│  “違う! いらない子なんかじゃない!

│   そんなんじゃない・・・”

│  ▼▼お祖母ちゃん、

│  不満そうに、息をひとつ吐いた。

│  そうして言ったの、

│  “どうしてあなたは、そう強情を張るのです。

│   あんな娘の子でしょう。

│   どうせ大したことないに決まってます。

│   産む価値などありません”って。

│  お父さん、

│  拳を振り上げたかと思うと、また力いっぱいに机を叩いた。

│  物凄い音がした。

│  お祖父ちゃんが慌てて声をかけた、

│  “▽▽君! 落ち着きなさい!”って。

│  お父さん、拳を叩きつけたまま、

│  下向いて、じっとしていてね、

│  少ししてから言った、

│  “・・・お袋、

│   オレ、決めた。この子を産む”って。

│  “・・・は?”

│  “この子を産む”

│  “あなた、何を言ってるのです。

│   冗談はおよしなさい。

│   そんなの、許すわけないでしょう。

│   勘当しますよ”

│  “・・・いい、それでも”

│  “は?”

│  “勘当になってもいい。

│   この子を産む”

│  ▼▼お祖母ちゃん、

│  私たちと同じく、呆気にとられてしまって、

│  でも、すぐに気を取り直して言ったわ、

│  “・・・▽▽! ふざけるのはやめなさい!

│   今の発言、撤回なさい!”って。

│  お父さんが言った、

│  “いや、

│   オレ、撤回しない。

│   勘当されてもいいから、この子を産む”って。

│  “なんてことを言うのです!

│   実の親との縁よりも、

│   そんな未婚で出来た子なんかを選ぶと言うのですか!

│   なんて恩知らずな親不孝者でしょう”

│  “恩知らずでも親不孝者でもなんでもいい!

│   絶対 産む。もう決めた”

│  “いい加減になさい!

│   だから、

│   なんで その身籠ってる子にそれほどまでに(こだわ)るのです。

│   執着するのです。

│   別に、今回じゃなくてもいいでしょう。

│   今回は諦め、

│   代わりに、また次の機会に作ればいいだけでしょう。

│   どうしてそれが分からないのです”

│  “代わりとか、次とか、

│   そんなの一切存在しない!

│   この子は、今ここにしかいない!

│   ひとりしかいない!

│   また次の――”

│  私、そこでね、

│  お父さんの膝に手を置いたの。

│  お父さん、

│  え・・・ってビックリした顔で、すぐにこっちを振り返った。

│  私、

│  もう一度、自分の中の気持ちを確かめたあと、

│  目の前のお父さんに言ったわ、

│  “私、今回は諦める”って。

│  “・・・”

│  お父さん、

│  私の顔を見たまま、固まっていて、

│  だから私、

│  少ししてから、改めて言った、

│  “私、今回は堕ろす。

│   ・・・中絶する”って」

│ 「・・・」

│ 「私ね、

│  お父さんやお祖父ちゃんたちの話し合いを聞いていてね、

│  やっぱり無理だな・・・って思ったの。

│  いくらなんでも周りの人への影響が大きすぎるし、困らせすぎだし、

│  それに、

│  産んだあとの生活を考えると、

│  うすうす分かっていたことだけれど、

│  やっぱり、

│  せっかく大学に入ったんだから、ちゃんと卒業したほうがいいな・・・って。

│  もったいないな・・・って。

│  だからね、私の中で、

│  途中で、もう、堕ろすことは決めていたのよ。

│  妊娠した子のことについて、

│  じゃあ、自分はどう思っているのか・・・って、

│  お父さんたちのやり取りの合間にも少し考えていて、

│  結局、よく分からないままだったんだけど、

│  それも、

│  なんかもう、そのときはどうでもよくなっちゃってて・・・。

│  で、

│  @@お祖母ちゃんのおかげで、

│  次の日の朝、もう一度 集まって、

│  返事はそのとき改めて・・・ってなってたでしょ?

│  だから、この話し合いのあとで、

│  堕ろすって決めたことをお父さんに伝えよう・・・って考えてたの。

│  そしたら、話が変な流れになって、

│  お父さんが、

│  “この子を産む”って言い出しちゃったでしょ?

│  私、

│  早く言わなきゃ・・・って思いながら、そのやり取りを聞いていて、

│  そうしたら、

│  お父さん、

│  “代わりとか、次とか、

│   そんなの一切存在しない!

│   この子は、今ここにしかいない!”って言って・・・。

│  なんかね、

│  多分、

│  私、それ聞いて満足しちゃったんだろうね、

│  いつの間にか、お父さんの膝の上に手を載せていたわ。

│  体が勝手に動いてしまったような、

│  そんな、よく分からない不思議な感じだった。

│  それでね、

│  念のため、自分の中の気持ちをもう一度確かめたあと、

│  お父さんに言ったのよ、

│  “私、今回は諦める”って」

│ 「・・・」

│ 「お父さん、

│  私が、改めて“中絶する”って言ったあと、

│  ちょっと間を置いて、

│  “でも・・・”って言った。

│  私、首を振ってお父さんに言った、

│  “ううん、

│   私、もう決めた。もういい”って。

│  お父さん、

│  そのまま私を見てたんだけど、

│  少しすると、

│  ゆっくり前に向き直って、静かに下を向いた。

│  ▼▼お祖母ちゃんが お父さんに訊いた、

│  “▽▽、

│   あなた、どうするの?”って。

│  “・・・”

│  “▽▽、どうするの?

│   そっちの子は、堕ろすって言ってるけど”

│  “・・・”

│  “▽▽、答えなさい!”

│  “・・・”

│  “▽▽!”

│  “・・・堕ろし、ます”

│  お父さんの その言葉を聞いた▼▼お祖母ちゃん、

│  はぁ・・・って、安堵の息をついた。

│  そうして、そのまま、

│  “まったく・・・”って、小さく(こぼ)したわ。

│  お祖父ちゃんが私に訊いた、

│  “◎◎、ホントにそれでいいんだな?

│   堕ろしていいんだな?”って。

│  私、何も言わずに頷いた。

│  @@お祖母ちゃんが、お父さんに言ったわ、

│  “その、こっちとしてはそう言ってくれて助かるんだけど、

│   でも、ホントにいいの?

│   一応、結論は、

│   別に今日じゃなくても、明日の朝でもいいと思うけど・・・”

│  お父さん、

│  下を向いたまま、黙ってて、

│  でも、

│  ちょっとしてから、@@お祖母ちゃんに言ったわ、

│  “いえ、いいです・・・。

│   堕ろします・・・”って」

│ 続きます。

│ ワタシのお母さんの昔話は、

│ 多分、次でラストです。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今年もよろしく

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