250.「《『“決まったわけじゃない・・・って
「《『“決まったわけじゃない・・・って、
あなた、何を寝ぼけたことを言ってるのです。
堕ろす以外ないでしょう。
他に何があると言うのです。
冗談はおよしなさい”
“いや、冗談とかじゃなくて、
その・・・、
まだ、ふたりでちゃんと話し合ってなくて・・・”
“はぁ?
話し合う・・・って、何をです”
“その、なんて言うか、
・・・堕ろすか、堕ろさないか、って、
要するに、そういう話を・・・”
“はぁ・・・、”って、
ため息ついた▼▼お祖母ちゃん、
“ホントもう、
あなたたちは いつもいつも・・・。”って愚痴を少し零したあと、
更に続けた。
“いいですか、
あなたは学生で、
しかも、結婚だって まだしてない身ですよ?
相手の女性を妊娠させてしまったこと自体、恥ずべき失態であり、
由々しき問題なのに、
それを、あろうことか産むかもしれないだなんて・・・。
あり得ないでしょう。
どうしたら そんな発想が出てくるのですか。
恥知らずにも程があります。
まったく、なに言ってるんだか・・・”
私、▼▼お祖母ちゃんに言った、
“結婚してないから堕ろせだなんて、
考えが少し、古いと思います。”って。
▼▼お祖母ちゃん、
顔をこっちに向けて、私を睨んだ。
私、構わず続けた、
“それに、
▽▽はいつも、私のために避妊してくれてました。
それで なっちゃったんだから、仕方ないと思います
▽▽は悪くないと思います”って。
▼▼お祖母ちゃん、
やれやれ・・・って表情して、ため息ついたわ。
そうして、
“悪くないことはないでしょう。
避妊したからと言って必ず避けられるものでもないことくらい、
十分に承知していたはずです。
▽▽、そうですね?”って言って、お父さんの方へ目を向けた。
“・・・”
お父さん、
下向いたまま、何も答えなかった。
“なら、
そうなった場合のことを考えた上、ことに及ぶべきでしょう。
違いますか?”
“・・・”
▼▼お祖母ちゃん、
少ししてから、私の方に顔を向けた。
“あなたもです。
どうしようと思っていたのですか?”って尋ねた。
“・・・”
私も、何も答えられなかった。
▼▼お祖母ちゃん、
少ししてから、再び ため息をついた。
それから言った。
“あなた、もう いい年でしょう。
ご自分の体に関わる大事な問題なのに、
なぜ、もう少し考えて慎重に行動できないのです。
理解に苦しみます。
考えが古いとか、ひと様のことを偉そうに批判する前に、
まずは、ご自身のことをしっかり見つめ直した方がよろしいと思います”
“・・・”
“▽▽、あなたもです。
これからは、
もう少し考えた上で行動なさい”
“・・・”
“それと、
今後 誰かと付き合う際は、もっと ちゃんとした人を選びなさい。
いいですね?”
お祖父ちゃん、すぐに割り込んだ、
“おい、あんた、
ちゃんとした、ってどういう意味だ”って。
▼▼お祖母ちゃん、
お祖父ちゃんの方に顔を向けた。
そうして、
“そのままの意味です。
常識人らしく、ちゃんと分別を心得――”って答えてるところで、
お父さんが言ったの、
“お袋”って。
▼▼お祖母ちゃん、
すぐに、お父さんの方に目を向けた。
“▽▽、なんですか?
今、ワタクシが喋ってます”
“お袋、悪いのはオレだ。
◎◎は、悪くない”
“・・・はいはい”
“それと、
・・・オレ、◎◎とは別れない。
別れる気、ない”
“・・・。
なら、少なくとも堕ろしなさい。
それが条件です”
“・・・”
“どうしたのです。
返事をなさい”
“・・・お袋、
その、
一日か二日でいいから、待ってほしい・・・”
“待ってほしい、って、
どうしてです。
何を待つのです”
“・・・返事。
まだ、
どうするか、決まってないから・・・”
▼▼お祖母ちゃん、
大きく ため息をついたわ。
そうして言った。
“・・・まだ決まってない、って、
だから、あなた、
さっきも言ったでしょう。
そんなの堕ろすに決まってます。
それ以外にありません。
まったく、同じことを何度も言わせないでちょうだい”
“・・・”
私、
“あの”って、割って入った。
▼▼お祖母ちゃん、
こっちをジロリと見て、
“・・・なんですか?”って訊いた。
私、▼▼お祖母ちゃんに言った。
“あの、
▽▽、本当は堕ろしたいんです。
ただ、
私が、もうちょっと考える時間がほしいってワガママ言ったから、
だから――”
“オレ、
そんなこと言ってない”って、
お父さん、私の言葉を途中で遮ったわ。
“え? ・・・でも”
“言ってない”
“・・・”
▼▼お祖母ちゃん、息を大きく吐いた。
そうして言った。
“・・・▽▽、
なら尋ねさせてもらいますが、
あなた、産んでもいい・・・と、
そう考えているわけですか。
結婚前にも関わらず女性に手を出し、妊娠させてしまい、
それを、
あまつさえ、恥ずかしげもなく産んでしまってもいい・・・と、
あなた、そう考えているわけですか”
お父さん、
少ししてから、言葉を返した。
“・・・その、
恥ずかしげもなく、ってのは、ちょっと違うけど、
でも、
オレ、そう考えてる。
・・・産んでもいい、って、
オレ、そう思ってる”
▼▼お祖母ちゃんが すぐに言った。
“バカおっしゃい!
何を血迷ったことを言ってるのです。
そんなことになったら、
あなた、周りに どう説明するつもりですか。
未婚のときにできた子でして・・・って、
正直に そう答えるつもりですか。
ふざけるのもいい加減にしなさい。
そんなの、噂が あっという間に広がってしまって、
そこら中で笑いものにされます。
道行く人に後ろ指をさされ、
恥ずかしくて表を歩けなくなってしまいます。
あなた、
ワタクシたちに、そういう思いをさせたいと言うのですか。
ご先祖様たちが代々守り抜いてきた 大切な一族の名を汚すことになっても構わないと、
あなた、そう思っているのですか”
“・・・”
“▽▽、
考える必要なんてありません。
明日にでも病院に行き、
即刻、堕ろしてもらいなさい。
産むなんて許しません。
いいですね?”
“・・・”
“▽▽、
返事をなさい”
“・・・まだ、決まってない”
“▽▽!
ワガママ言うんじゃありません!
産むのは許さないと言ってるでしょう。
どうして分からないのです。
堕ろすと言いなさい”
“・・・”
“▽▽!
堕ろすと言いなさい!
言うことをきかないのであれば、親子の縁を切りますよ。
勘当しますよ”
“・・・”
“▽▽!
分かってるんですか、勘当ですよ!”
“・・・”
そのときね、
@@お祖母ちゃんが言ったの、
“あの、
▼▼さん、ちょっといいかしら”って』
続きます》」




