244.「《『“え・・・。でも、さっき・・・
「《『“え・・・。
でも、さっき・・・”
“ごめん、
ウソついた・・・”
“・・・”
“ごめんね・・・”
私がもう一度謝るとね、
お父さん、ひとつ息を吐いて、
それから、
“・・・いつ、電話したの?”って尋ねた。
私、
“昨日の夜・・・”って答えた。
“・・・”
“あの・・・、
あのね、最初から そのつもりだったわけじゃないの。
▽▽のお姉さんとは、
3月の頃は毎日のように電話で喋ってたんだけどね、
ここ2、3ヶ月くらい、まったく喋ってなくて・・・。
でね、
昨日、ここで▽▽と話してたときに、
お姉さんのことが、ふっと頭を過ったの。
そういや最近どうしてるんだろ、
久し振りに声が聞きたいな・・・って思ってね、
それで、
昨日の夜、お姉さんのところに電話したの。
初めは、
その・・・、妊娠の件は伏せた上で軽く近況を伝えて、
あとは、友達に教えてもらったバンドの話とかしてたんだけど、
途中でね、
ちょっと、お姉さんに色々と訊きたくなっちゃったの・・・。
相談できそうな人、他に思い付かなかったし、
お姉さんなら・・・って思って、
だから、私・・・”
お父さん、
もう一度、息をひとつ吐いたわ。
それから、
“分かった。
で、
どんなこと話したの?、姉貴と”って訊いた。
“あ、うん。
えっと・・・、
まずは私が妊娠してることを言ってね・・・あ、
▽▽がいつも避妊してくれてたことは、ちゃんとお姉さんに伝えたよ?
ただ、
ちょっと運が悪かったみたいで、たまたま・・・って。
あぁ、その・・・、
だからね、
そこら辺のことは、そんなに詳しくは言ってないの。
ただ、運が悪かった・・・って、
私、それだけしか言ってないから・・・”
“・・・分かった。
それで?”
“うん、
それでね、
まずは、
▽▽の両親はどういう反応をすると思いますか・・・って訊いたの。
そしたら、
妊娠のことを知ったら、ふたりともカンカンになって怒ると思う・・・って。
出産は絶対に反対されるし、
それでも産みたい、ってなったら、
その、もしかしたらの話だけれどね、
・・・勘当する、って言われるかもしれない、って。
あとね、
私たち、別れさせられるかもしれない・・・って”
“・・・”
“・・・でね、
その後は、大学生の出産について話してくれて、
あとは、
その・・・、
お姉さんの友達に堕ろした人がいたみたいで、
だから、
お姉さん、その人の話をしてくれて、
私に色々と教えてくれて・・・。
・・・。
あ、
それでね、
堕ろすときの手術ってね、
多分だけど、親の同意書が必要なんだって。
未成年だと要るみたい”
“・・・同意書? 同意書って何?”
“私も詳しくは知らない。
でも、
お姉さんとの電話のあとで思い出したんだけどね、
手術って、
中絶じゃなくても、ある程度のものになると親の同意書って必要でしょ?、
あぁ、未成年の場合は・・・だけど。
多分、それみたいなものだと思う。
あとは、
親に内緒で手術して堕ろしちゃって、
後々、その親が知って、
この子は未成年なのに、なんで親である私たちの許可なく勝手に手術したんだ、って、
文句を言われないようにするのもあると思う”
“・・・オレの親のも必要なのかな?”
“あー、
それはちょっと分からない。聞いてない”
“・・・分かった。
じゃあ、診察のときに訊いてみよう。
必要って言われたら、
電話で頼んで送ってもらわないと・・・”
“・・・。
うん、そうだね・・・”
“で、
姉貴と話したのって、それくらい?
それで終わり?”
“えーと・・・、
あと、お金の話をちょっとしてもらったけど、
でも、
それくらいだったと思う”
“分かった”
“あの・・・”
“何?”
“ごめんね・・・”
“・・・姉貴に勝手に相談したこと?
それとも、
さっきオレにウソついたこと?”
“えっと・・・、
その、どっちも・・・”
“相談した方は謝らなくていいよ。
◎◎は ひとりでそれだけ悩んでた・・・ってことだろ?
だったら、
オレがもっと気を遣うべきだった。
ウソついたことも、
まぁ、いいよ。
オレ、あのとき全然 余裕なかったからさ、
言われてたらちょっと混乱してしまって、
多分、冷静でいられなかったと思う。
むしろ、言わないでくれて助かったよ”
“うん・・・、ありがとね”
“・・・で、
姉貴、
オレのこと、なんか言ってた? 怒ってた?”
“あぁ、えっと、
・・・うん、
妊娠した・・・って伝えたときはね、ちょっと怒ってる感じだった。
でもね、
避妊はしてくれてた・・・って伝えたら、
分かった・・・って。
だから、
大丈夫だと思う。
特に怒ってはいないと思う”
“ん”
“あとね、
▽▽のお姉さん、電話の最後の方で言ってたよ、
姉のあたしが言うのもなんだけど、アイツ、馬鹿みたいにイイ奴だから、
だから・・・、
あぁ、えっと・・・、
だから、
多分、大丈夫って・・・”
私がそう言うと、
お父さん、大きな ため息をついて、
ボヤいてたわ、
“馬鹿みたいに、ってなんだよ、
馬鹿みたいに、って。まったく・・・”って。
“・・・”
“そうか。
まぁ、だいたい分かった”
お父さん、
そう言いながら、置いてあった自分の缶ジュースに手を伸ばし、
ゴクゴク飲んでいってね、
最後に、
はぁ・・・って、満足そうに息をひとつ吐いた。
私、下を向いたまま黙ってたんだけど、
でも、
少ししてから声をかけた、
“・・・あの”って。
“ん?”って、返ってきた。
私、お父さんに言った。
“あのね、
えと・・・、妊娠のことなんだけどね、
これから話し合わなきゃいけないのは分かってるんだけどね、
でも、
その・・・、
できれば、
ホント、できれば・・・なんだけどね、
少し、待ってほしいの・・・。
自分がどう思っているのか、
ちゃんと考えてみたいの・・・。
私、
今までずっと、考えないようにしてたから・・・”
“・・・”』
続きます》」




