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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
241/292

241.「《『それからは、少しの間

「《『それからは、

   少しの間、ふたりでリビングにいたわ。

   私としてはあまり家にいたくなくて、すぐに出掛けたかったんだけど、

   ただ、お父さんが、

   テレビの下にあったビデオデッキに興味を持っちゃってね、

   それを見てたの。

   そのビデオデッキね、

   お祖父ちゃんの一番上のお兄さんが新しいのを買ったから、

   それでウチに譲ってもらった、ちょっと型の古い機器で、

   買ったときは20万円近くもしたらしいの。

   お父さん、それを指差して、

   “あれ、ちょっと見てみたいんだけど・・・”って言ってね、

   で、

   “別に いいけど・・・”って返したら、

   ビデオの前に行って、腰を下ろして、

   色々ついてるスイッチとか、本体から延びてるリモコン・・・あぁ、

   そのリモコンってね、

   今ある普通のとは違って、本体とケーブルで繋がってたんだけど、

   そういった、

   本体についてるスイッチやらリモコンのボタンを入念に確かめていって、

   “ちょっと動かしてみたいんだけど・・・”って言って、

   取説(とりせつ)片手に、

   録画してあったテレビ番組のテープを入れて、再生して、

   色々操作して、

   (しま)いには、

   “懐中電灯ない?”って言って、

   なんか、

   上面にある取り出し口をパカッと開けて、テープを取り出してから、

   奥の方を一生懸命 覗き始めたわ。

   あれ、実はすごい面白い仕組みで・・・って言って、

   どうやって書き込んでるかを熱く語ってくれた。

   正直、よく分からなかったんだけど、

   うんうん、って分かってるフリして話を聞いてたわ。

   その後は、

   ふたりで2階に上がって、私の部屋を見せてあげた。

   漫画を何冊か貸して、

   お父さんが、

   “じゃあ、そろそろ行く?”って言ったから、

   “うん・・・”って返して、

   そうして、

   1階に戻って、お祖母ちゃんに声をかけて、

   家を出たわ。

   お祖父ちゃんはいなかった。

   どこかに出掛けたみたいだった。

   自転車を押して歩きつつ、

   私、

   念のため、お父さんに確かめてみた、

   “ねぇ、どこ行くの?”って。

   “あぁ、えっと、

    昨日のあの場所がいいかな、って思ってるんだけど・・・、

    オレは”って返ってきた。

   ホントはね、

   私、

   その日はもう、そういう話をしたくなかったの。

   この2日間 色々あって、少し疲れてたから、

   だから、明日にしたかった。

   でも、

   夕方か夜くらいに、

   お父さんのところに親からの電話がかかってくるんだろうな、って思ったら、

   話し合っておいた方が良さそうだな・・・って。

   それに、

   さっき、お父さんがウチから かけた電話で何を言われたか、

   かなり気になってた。

   不安だったし、確かめておきたかった。

   だから、

   ちょっと考えた末、

   やっぱり、話し合うしかないか・・・って思って、

   それで、

   “・・・分かった”って、お父さんに返した。

   ちょっと間があった。

   “・・・あれ?

    別の場所のが良かった?”って返ってきた。

   私、

   すぐに言った、

   “ううん、そうじゃないの。

    ただ、

    私、今日もバイトがあるから・・・”って。

   “あぁ、6時からだっけ?

    まぁ、でも、

    ・・・まだ4時前だし、大丈夫じゃない?”

   “うん、そうだね”って言ったら、

   お父さん、

   “・・・◎◎、オレのリュック頼む”って。

   “え?”

   “やっぱ乗っていこう、

    オレが漕ぐから”

   “・・・うん”

   私、渡されたリュックを背負ったあと、

   また自転車の荷台に座って、

   そうして、お父さんの背中に掴まった。

   “じゃあ、行くぞ?”って言われたから、

   “うん”って返した。

   なんとなく、懐かしさを感じた。

   ホッとしているような、心が安らいでるような、

   そんな、

   なんとも言えない、不思議な感覚だった。

   自転車を漕いでいるお父さんの背中に掴まりながら、

   どうしてだろう・・・って考えていて、

   それで、

   少しして、

   あぁ、そっか・・・って気付いたの、

   あのときと一緒だ・・・って。

   あのときも、

   電話を切る口実として私が適当についたウソを、

   お父さん、疑いもせずに信じて、

   心配してくれて、

   私が寒がらないよう、気を遣ってくれていて、

   今回だって、

   当たり前のように、私のために気を遣ってくれて・・・。

   お父さん、

   電話で話し始めたあの頃と何も変わってなくて、

   優しいままで・・・。

   私、胸が苦しくなって、

   それで、

   お父さんをギュッと強く抱き締めた。

   そしたら、

   すぐにお父さんが言った、

   “あぁ、

    スピード、ちょっと落とそうか?”って。

   私、

   “ううん、大丈夫・・・”って返した。

   お父さんの漕いでくれる自転車で、

   丘沿いの新しい道を進んでいきながら、

   私、思ったわ、

   私の体のことなのに、

   なんで、私以外の人たちの都合で決められちゃうんだろうって。

   選択肢が2つあって、

   私の意思で どちらでも選べるようなことを言ってるけど、

   でも、実際にはそうでなくて、

   選択肢はひとつだけで、

   私は、

   その、ひとつしかない選択肢を選ぶ以外なくて、

   ただ従うしかなくて、

   私の気持ちなんか少しも関係なくて・・・。

   なんかもう、何もかもがイヤになってね、

   だから、

   これが終わったら お金を貯めて、

   お父さんとふたりきりで、どこか遠くへ旅に行こう・・・って。

   北の方のどこかの高原に行って、

   夜は、満天の星を見ながらゆっくり温泉に()かりたいとか、

   海のきれいな南の島に行って、

   打ち寄せる波の音を聞きながら、

   ひと気のない静かな砂浜をふたりでのんびり歩きたい、とか、

   そんなことを考えてたわ』

  続きます》」

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