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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
238/292

238.「《『私、上体を軽く起こして

「《『私、上体を軽く起こして、

   俯いたまま、黙ってた。

   そしたら、

   少ししてからお祖父ちゃんが言ったわ、

   “なんで黙ってる”って。

   “・・・”

   “お前、

    電話でさっき、

    ツワリがどうだとか、自分の妊娠がどうだとか言ってたじゃないか。

    あれはなんだ。どういう意味だ”

   “・・・”

   “答えなさい”

   “・・・人の電話、

    勝手に外で聞いてたんだ?”

   “話をすり替えるな。

    妊娠しているのか、どうなんだ。

    答えなさい”

   “・・・”

   “◎◎”

   私、しぶしぶ答えたわ、

   “妊娠、してる・・・”って。

   お祖父ちゃんの、大きなため息が聞こえてきた。

   “お前、

    それがどういうことか、分かっているのか”って言われた。

   “・・・”

   “病院には行ったのか”

   “うん・・・”

   “・・・。

    どこの病院だ”

   “◇◇駅の、近くの病院・・・”

   “・・・。

    いつ行った”

   “先週の土曜と昨日・・・”

   “は?

    2回も行ってるって、お前、産むつもりなのか”

   “そうじゃなくて、

    その、1回目のときは妊娠してるかどうかハッキリとは分からなくて、

    だから、

    昨日、また行ってきて、

    それで・・・”

   “・・・妊娠してる、って言われたのか”

   “うん・・・”

   “・・・。

    なら、だいたい1ヶ月ちょっとか”

   “うん・・・”

   “相手は誰だ。△△君か?”

   “・・・うん”

   お祖父ちゃん、また ため息をついた。

   そうして訊いた、

   “・・・で?

    お前たちはどうする気だ”って。

   “・・・まだ、決まってない”

   “決まってないって、

    お前、産むかもしれないってことか。

    どうやって育てる気だ。

    △△君だって、まだ学生だろう。

    大学をやめて働くのか”

   “・・・”

   “まさか、

    ウチで面倒を見てもらう、ってつもりじゃないだろうな。

    とてもじゃないが、ウチにはそんな余裕ないからな。

    お前たちの世話だけで手一杯だからな”

   “・・・”

   “診察のお金は? どうしたんだ”

   “・・・。

    1回目は半分ずつ払って、2回目は・・・”って私が答えてるところでね、

   玄関のドアが開いたの。

   ただいまー、って弟の声がした。

   お祖父ちゃん、

   ため息ついてから私に尋ねたわ、

   “お前、

    今日、外出の予定は?”って。

   “・・・午後から出掛ける。

    あと、

    6時からはバイトがあって・・・”

   “午後から出掛けるって、なんの用だ”

   “・・・。

    ▽▽と会う約束し――”

   “キャンセルしなさい”

   “・・・”

   私、下向いたまま黙ってた。

   そしたらね、

   洗面所に行ってた弟が、リビングに入ってこようとして、

   でも、

   すぐに察して、引き返していって、

   で、

   2階に上がっていこうとした弟に、お祖父ちゃんが大きな声で尋ねたの、

   “おい、●●。

    お前、午後の予定は?”って。

   “ん? 午後の予定?

    友達ん()ー”

   “帰りは?”

   “うーん、

    たぶん6時半くらい”

   “分かった。”

    お祖父ちゃん、

    そう返したあとに、改めて私に念押ししたわ、

   “◎◎、

    いいな、午後の約束はキャンセルだからな”って。

   “・・・”

   “返事”

   “・・・はい”

   私がそう返すと、

   お祖父ちゃん、ため息ひとつついて部屋を出ていった。

   私、

   リビングでひとり、項垂(うなだ)れてた。

   少しすると、

   買い物に行ってたお祖母ちゃんが帰ってきたわ。

   お祖父ちゃんが、

   “@@、ちょっといいか”ってお祖母ちゃんに言って、

   台所でヒソヒソ話を始めた。

   “ええっ!”って、お祖母ちゃんの声が聞こえた。

   その後、またヒソヒソ話になって、

   “どこの病院?”とか、

   “わたし、そんなの聞いてない”とか、

   “だって、

    堕ろすと言ってもお金かかるでしょ。どうするのよ”とか、

   “わたしの実家とか あなたの実家にはどう説明・・・”とか、

   “会社の人に知られたら、今後の査定に・・・”とか、

   そういう会話がポツポツ耳に入ってきて、いたたまれなくなって、

   私、

   2階の自分の部屋に行くことにした。

   扇風機を回して、

   ひとり、勉強机に()()してたら、

   1階から、お祖父ちゃんに呼ばれたわ、

   “◎◎、電話。△△君から”って。

   私、

   ハッとして頭を起こすと、慌てて1階に下りてった。

   置いてあった受話器を取って、

   “もしもし・・・”って電話に出ると、

   お父さんの明るい声が聞こえてきた。

   “おお、◎◎。

    さっき言ってた足りなかったヤツ、会社の人が車で届けてくれてさ、

    お昼ゴハンのあと、延長で少しやることになった。

    悪いけど ちょっと頼む・・・って言われてさ。

    だから、

    終わるの多分2時くらいだな”

   “・・・”

   “ん?

    ・・・あ、

    車の音、うるさい?”

   “そうじゃなくて・・・。

    えと、あの、

    さっき、電話に出たとき、

    その、

    ・・・何か言われた? お父さんに”

   “え? ◎◎の親父さんに?

    いや、

    言われた・・・っていうか、

    なんか、何も言わずに黙って代わられたけど・・・”

   “・・・あのね”

   “・・・うん、どうした?”

   “あの、バレたの。

    さっきの電話、聞かれてて・・・”

   “さっきのって・・・えっ、

    あれ、聞かれてたの?”

   “うん・・・”

   “誰に?”

   “お父さん。

    今日、有休で休みだったみたいで、

    あのとき、ちょうど外で草むしりしてて・・・”

   “ちょ、ちょっと待って。

    えっと・・・、

    じゃあ、

    ◎◎が妊娠してるって、もう親にバレてるってこと?”

   “うん・・・。

    ゴメンね・・・”

   私がそう謝ると、

   お父さん、少しの間 黙っててね、

   でね、

   はぁ・・・って息をついたあと、私に言ったわ、

   “・・・いや、◎◎は謝らなくていい。

    元々はオレのせいで、

    オレが迷惑をかけてる側だし”って。

   “でも、私がもっと気を付け――”

   “いや、◎◎は悪くない。

    それに、

    どうせ いつか言わなきゃいけないことだ。

    多少 早くなっただけで、大して変わらないよ。

    そんなことより、

    聞かれてた・・・って、どれくらいなの? 全部?

    と言うか、

    今も聞かれてる?”

   “えっとね、

    台所で、多分・・・。

    あと、

    今、●●がゲームしてる。

    それと、

    最初からだと思う・・・”

   “なら、全部か・・・。

    何か言われた?”

   “まだ、特には何も・・・。

    お父さんに色々訊かれてる途中で●●が帰ってきたから・・・。

    あぁ、

    でも、ちょっと言われた”

   “なんて?”

   “お前たちは、まだ学生だろう。

    どうする気だ。

    ウチには、これ以上の面倒を見る余裕なんてないからな・・・って。

    あ、そうそう、

    あと、

    ▽▽との午後の約束、キャンセルしなさい・・・って、

    お父さんが・・・。

    だからね、

    今日は会えないと思う”

   “・・・”

   “・・・あの、

    今日の約束、お父さんがキャンセルしなさい・・・って”

   私がもう一度言ったら、

   お父さん、

   少しして、息をひとつ吐いた。

   そうして私に訊いた、

   “えと、

    キャンセルしなさい・・・ってのは、なんで?”って。

   私、答えた。

   “多分だけど、

    色々訊かれて、色々言われるんだと思う・・・。

    さっき、

    ●●に午後の予定、訊いてたから・・・”

   間が少しあった。

   お父さん、私に言った。

   “じゃあ、

    ちょっと◎◎の親父さんと電話・・・あ、いや、

    えっと・・・、

    なら、

    バイトが終わったらさ、

    オレ、◎◎の家に直行するから。

    オレも一緒に説明する。

    だからさ、

    ◎◎の親に、そう伝えておいてくれない?

    それまでちょっと、話を聞くこととかは待っててもらってさ”

   “・・・、”

   私、

   返事をなかなか返せなかった。

   受話器を固く握り締めてね、

   少しの間、

   鼻をすすりながら、目を拭ってて、

   そうして、

   ちょっと落ち着いてきてから、

   お父さんに言った。

   “・・・うん、ありがと。

    えと、

    駅には何時に行けばいい?

    私、迎えに行く”

   “あー、

    正確な時間はちょっと・・・。

    まぁ、でも、

    ここからだと・・・だいたい2時半か、電車にもよるけど。

    乗るときに また電話するよ。

    多分、2時ちょっと過ぎ”

   “うん、分かった。

    待ってる”

   “うん。

    じゃあ、親に伝えてといてくれ”

   “うん。

    ▽▽も、バイト頑張って”

   “ん。

    じゃあ、またな”

   “うん。またね”

   電話を切った私は、1度 深呼吸して気を落ち着けてね、

   そうして台所に向かったわ。

   台所では、

   お祖父ちゃんは新聞を広げて読んでいて、

   お祖母ちゃんはお昼ゴハンを作ってた。

   ふたりとも無言だった。

   多分、聞いてたんだろうな・・・って思った。

   私、

   台所の入口で、ふたりに言ったわ。

   “・・・あの、

    ▽▽、

    バイトが終わったらウチに来る、って・・・”

   お祖父ちゃん、

   新聞を広げたまま、こっちを見ないで訊いた、

   “何時だ?”って。

   “えっと、

    正確な時間は分からない、って言ってて、

    でも、

    3時ちょっと前くらいだと思う・・・。

    オレも一緒に説明する、って・・・”

   “・・・分かった”

   その後、

   私は2階の自分の部屋に戻ったわ。

   少しホッとしたせいか、なんだか眠くなっちゃって、

   扇風機の風に当たりつつ、横になって休んでた。

   でね、

   お昼ゴハンを、ちょっと遅めにひとりで食べて、

   部屋に戻って時計を見上げて待ってると、電話のベルが聞こえたの。

   私、

   すぐに1階に下りていって、電話に出たわ。

   お父さんからだった。

   “あ、◎◎。

    今 駅に着いてさ、これから電車に乗る。

    多分、2時半過ぎ。

    それと・・・、

    あー、

    ま、いっか。

    じゃ”

   なんか、

   お父さん、ちょっと急いでたみたいで、

   一方的に話されて電話を切られた。

   私、受話器を置くと、

   すぐ2階に行って、支度して、

   そのまま家を出たわ。

   乗ってきた自転車を駐輪場に置いて、駅の改札口の前で待ってると、

   10分くらいして、

   奥に見えてた階段を、たくさんの人が下りてきてね、

   その中に、

   お父さんの、真っ黒に日焼けした顔があった。

   いつものリュックを背負って、階段を下りてきて、

   それで、

   こっちを見て小さく手を上げたから、

   私も少し笑って、小さく手を上げた返したわ。

   お父さん、

   そのまま改札を抜けて、私のところまで来て言った、

   “お待たせ。

    ◎◎、大丈夫か?”って。

   私、

   顔を下に向けて、目元を手で拭いながら黙って頷いた。

   ホントは抱き付きたかったんだけど、

   周りの目があるから我慢してて・・・。

   そしたらね、

   お父さん、

   普段だったら人前ではそんなこと絶対にしないのにね、

   そのときだけ、私の頭を撫でてくれたの。

   私、我慢できなくなっちゃって、

   すぐにお父さんに抱き付いた。

   そのままお父さんの胸で泣いていて、

   でね、

   少しして、お父さんの様子がちょっとおかしいことに気付いたの。

   あ、って思ってね、

   私、お父さんの胸からゆっくり離れたわ。

   鼻をすすって、

   息をひとつ吐いたあと、

   “ゴメンね。

    私、つい・・・”って謝った。

   “え?

    あ、あぁ、

    別にオレは大丈夫だけど・・・”って返ってきた。

   それから、

   駅前にある植え込みの、座れそうなところにふたりで腰掛けてね、

   ひと息ついて、気を落ち着けてから、

   その後、

   自転車を置いた、駅の駐輪場に向かったわ。

   お父さんには、またペダルを漕ぐ役をやってもらうことにして、

   私は、

   お父さんの大きなリュックを背負って、自転車の荷台に座って、

   で、

   後ろからお父さんの背中に掴まった。

   “じゃあ、行くぞ”

   “うん”って言って、出発した。

   途中、

   交差点の赤信号で止まっているときに、

   お父さん、私に尋ねたわ、

   “えっとさぁ、

    ◎◎の両親さぁ、どんな感じ?

    怒ってる?”って。

   私が、

   “あー、

    ・・・うん、ちょっと怒ってるかも”って返したら、

   お父さん、ため息ついて、

   “やっぱ、

    菓子折り、買っといた方が良かったかなぁ・・・”って言った。

   信号が青になって、また走り出した。

   お父さん、

   暑い中、呼吸をハァハァさせてペダルを漕いでたわ。

   私、お父さんに声をかけた、

   “ねぇ、▽▽”って。

   “ん?”

   “私、

    さっき、駅の改札口のところで▽▽に抱き付いちゃったでしょ”

   “うん”

   “あのときさぁ、

    ▽▽も、私のこと抱き締めようとしてくれてたんでしょ?”

   “・・・”

   “私、気付いてるから。

    嬉しかったから”

   “・・・ん”って、ちょっと遅れて返ってきたわ』

  続きます》」

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