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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
231/292

231.「《『それから、どこかでひと休みしたいな・・・って

「《『それから、どこかでひと休みしたいな・・・って思ってね、

   ちょっとキョロキョロしながら歩いてたの。

   私、初めてだったから病院では緊張しっぱなしだったし、

   お父さんだって、

   前の日の夜もだいぶ遅かったみたいだし、

   そんな中、私の病院を探すためにあちこち駆けずり回ったわけだから、

   本人はひと言も言わなかったけれども、

   でも、きっと疲れてるんだろうな・・・って思って。

   でね、

   少しして横道を見たら、奥にちょうど良さそうな喫茶店があってね、

   確か、イタリアンカフェだったかな、

   それで私、

   お父さんの方を見て、ねぇ、って声をかけようとしたの。

   そしたら、

   同時にお父さんもこっちを見て、何か言おうとしたの。

   あ、同じこと考えてたんだ・・・って分かって、

   お互い、ちょっと笑ったわ。

   喫茶店では、

   軽く病院での話をして、

   あとは、他愛のないいつもの会話をしていた気がするわ。

   お客さん、何人かいたの。

   お店を出たあとはそのまま駅に戻って、

   そこで、夜に電話する約束をしてお父さんと別れたわ。

   お父さん、

   私の診察が無事に終わって気が抜けたみたいで、途中からときどき欠伸を噛み殺していたし、

   私も、ちょっと眠たくなっていた。

   バイトの時間まで、少し自分の部屋でゆっくりしていたかった。

   家に帰ると、

   庭でお祖父ちゃんが・・・あれ、雨だから庭じゃないか、

   部屋でパットの練習だったかしら。

   まぁ、

   とにかく、いつも通りゴルフの練習をしていて、

   弟は居間で友達と はしゃいでたわ。

   お祖母ちゃんの姿はどこにもなくて、

   保険証を元の場所に戻すときに弟に訊いてみたら、

   一度帰ってきたけど、すぐにまた買い物へ出掛けたみたいだった。

   で、

   “あぁ、あと、

    言うの忘れたー。ごめーん”って言われた。

   普段だったらムッとするところだけど、そのときはホッとしたわ。

   助かった・・・って。

   それでね、

   バイト行って、帰ってきて、

   居間でみんなとテレビを観つつ、考え事をしていたの。

   帰るときの、

   お父さんの、あの少しつらそうな表情を思い出してた。

   そしたら、しばらくして電話が鳴ったの。

   すぐに立ち上がって電話に出た。

   “もしもし、○○ですが”

   “あ、◎◎?”

   “うん、私。

    いま終わったの?”

   “いま・・・って言うか、さっき終わった。

    会社の人にまた送ってもらって帰るとこ。

    多分、2、3分くらい喋れると思う”

   “そうなんだ、お疲れ様”

   “おう。

    ◎◎も、今日は色々とお疲れ様。

    で、

    バイト、どうだった? 平気だった?”

   “うん、平気だった。

    土曜だったからちょっと忙しかったけど。

    そっちは?”

   “あぁ、

    実はオレさぁ、今日は寝坊で少し遅刻しちゃって・・・。

    会社の人には、

    テスト期間中に無理して来てもらってるわけだし、遅れたと言ってもほんの数分だから・・・って言われて、

    なんか、逆に慰められちゃったけど、

    でも、申し訳なかったなぁ・・・って”

   “そうなんだ・・・”

   “でさぁ、

    明日はどうする? 何時に会う?”

   “・・・”

   “あれ? どうした?”

   “・・・あのね、そのことなんだけどね、

    実は、さっき友達から電話があってね、

    明日、会って話せないか・・・って”

   “え? あぁ、そうなの?

    午前? 午後?”

   “あぁ、えっと・・・、

    午前だけど、

    もしかしたら、

    午後も、その、ダメかも・・・”

   “・・・少しの時間でも会えない?”

   “・・・えと、

    難しいと思う、多分・・・”

   私がそう答えると、ちょっと間があってね、

   お父さん、それから、

   “あのさ、

    オレ、なんか◎◎の気に(さわ)るようなことした?”って。

   私、正直に話すことにした。

   “・・・あのね、

    私、▽▽に無理させちゃってるなぁ・・・って思ったの。

    そっちは、まだテスト期間中でしょ?

    今日ふたりで行ってきて、取り敢えず大丈夫そうなのは分かったし、

    あとは、金曜にならないとハッキリとしないわけだし、

    だったら、

    まだ、そんなに急ぐ必要もないかな・・・って。

    その・・・、

    診察のときにも言ったけど、

    どうするかを決めるのは、ハッキリ分かってからでも良いんじゃないかな・・・って”

   “・・・”

   “だからね、

    それまでは会うのを少し控えようかな、って思ったの。

    テスト期間中なのに、昨日今日と▽▽に無理をさせちゃったから、

    ちょっとそっとしておいてあげようかな、って。

    勉強の邪魔しちゃ悪いな、って思って”

   そしたら、お父さんが言ったわ。

   “・・・確かに、多少無理はしたよ。

    けど、それがなんなの?

    その、なんて言うか・・・、

    自分の大切な人が大変そうなとき、

    それをなんとかするために多少無理をしてでも頑張る、って、

    当たり前のことじゃないの?

    普通じゃないの?

    迷惑だなんてまったく思ってないし、

    こんなの少しも苦じゃないよ。

    なんともない。

    だいたい、

    元はと言えばオレの不用心のせいなんだし・・・。

    まぁ、でも、

    もしオレが頑張り過ぎてて、◎◎に心配をかけてしまったのなら、

    それについては謝るけれども”

   “・・・うん、謝って”

   “え?”

   “私、ちょっと心配した。

    頑張りすぎ・・・”

   “えっと・・・、

    じゃあ、ゴメン”

   “うん・・・”

   “でもさ、

    オレって◎◎のために頑張ったんだよな?

    なのに謝るって、おかしくない?”

   私、

   笑いながら自分の目元を指で拭いてね、

   “うん、そうだね”って返した。

   お父さんも、電話の向こうで笑ってたわ。

   “・・・じゃあ、分かった。

    ◎◎の言葉に甘えさせてもらって、

    金曜の結果が出るまでは、

    その、

    妊娠してるかもしれないことについては、あまり考えないようにしておく。

    まずは目の前の試験に集中する”

   “うん、頑張って”

   “でも、

    それとは別に、オレは◎◎には会いたいんだけど。

    その方がやる気が出るし。

    明日って本当に――”

   “ううん、()いてる。

    ゴメンね”

   それでね、

   お父さんと次の日も会う約束をして、受話器を置いたわ。

   そのまま2階に上がって、部屋に戻った。

   少し気を落ち着かせたあと、

   1階に下りていって、居間に戻った。

   みんなと一緒にテレビを観つつ、

   なんとなく、

   また、

   お父さんの、あのつらそうな表情を思い浮かべていたわ』

  続きます》」


「《『それからは、

   お父さんとは、

   あまり長い時間じゃなかったけど、毎日会っていたわ。

   最初に私の体調のことを少し訊かれて、

   それに答えて、

   あとは、

   お父さんの試験の話だとか、私の友達や知り合いの話だとか、

   そんな、普段どおりの話をしていた。

   生理は相変わらず来なくて、

   一応、基礎体温も測り続けてはいたけれど、

   そっちも、何日経ってもほとんど変わらなかった。

   一向に下がらなかった。

   ツワリの症状はないけれど・・・あぁ、いま思えば日中はちょっと眠たかったかな。

   まぁ、とにかく、

   ツワリらしい症状は、そのときは特に感じていなかったけれども、

   水曜だか木曜の頃には、

   もう、ほとんど受け入れてたわ。

   金曜になって、

   そのときの受診は月初めだったから、また保険証を持っていった。

   お祖母ちゃんには、

   確か、

   皮膚科に行ってくる、ってウソをついた。

   お父さんとは◇◇駅の改札を出たところで合流して、

   “じゃ、行こうか”って、歩き始めた。

   “今日も暑いねー”って言ったら、

   “うん。

    でも、今は空が少し曇ってるから多少はマシかな・・・”って返ってきて、

   “そうだねー。”って返して、

   私の体調のことで二言三言交わして、

   あとは、

   “この前来たときよりも人がちょっと多いね”とか、“うん、そうだな”とか、

   そんな短めのやり取りをして、

   会話はそれで途切れたわ。

   人通りの少ない静かな裏道を、ふたりで淡々と進んでいった。

   ビルに着くと、階段で2階に上がって、

   扉を開けて、病院の中に入ったわ。

   受付を済ませたあと、

   待合室でお父さんと一緒に座って待っていたら、名前を呼ばれた。

   再び調べてもらった。

   妊娠しています、って言われたわ』

  続きます》」

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