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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
223/292

223.「《『確か、夜の9時過ぎだったわ

「《『確か、夜の9時過ぎだったわ。

   遅めの時間だった。

   そのときの私はお風呂上がりで、

   自分の部屋で寝転がって、ラジオを流しつつ、

   また、あの本を眺めてたんだけどね、

   ちょっとして、下で電話が鳴ってるのが聞こえたの。

   こんな時間にウチにかけてくるのは、その頃は私の友達だけだった。

   高校の同級生とか、大学の知り合いとか、

   あとは、バイト仲間とか。

   たぶん私だろうな・・・って思ったから、本を閉じて立ち上がったわ。

   ドアを開けて部屋を出たら、電話の音はいつの間にか止まってて、

   で、

   1階に下りていく途中で私のお父・・・ウサギのお祖父ちゃんが、

   大きな声で私を呼んだの。

   「おーい、◎◎。

    △△君から。置いとくぞー」って。

   ドキッ、とした。

   「はーい」って返しつつ、急いで電話台のところに行って、

   で、

   変に意識しちゃってドキドキしてたから、いったん深呼吸して気を落ち着かせて、

   そうして、それから、

   台に置かれていた受話器を手に取って、お父さんからの電話に出たの。

   “もしもし”

   “あ、◎◎?”

   “うん。

    こんな時間に珍しいね。どうしたの?”

   “――、――”

   “ゴメン、

    車の音がうるさくて聞こえなかった”

   “・・・これならどう? 聞こえる?

    あー、あー”

   “うん、なんとか。少しマシになった。

    外からかけてるの?”

   “そう。

    頼まれてたバイトの応援、さっき終わってさ、

    近くの電話ボックスから、今かけてる。

    で、なんだっけ?”

   “こんな時間に珍しいね、って。

    あと、お疲れ様”

   “あぁ、サンキュー。

    いや、ちょっと気になってさ・・・”

   “え、何が?”

   “◎◎、

    オレに何か話したいことがあるんじゃないの?”

   え・・・ってなった。

   私、完全に思考停止状態になっちゃってね、

   受話器を固く握りしめたまま、黙っていたら、

   少し間があってから、

   電話の向こうのお父さん、また話し出したの。

   “・・・◎◎さぁ、

    最近、ちょっと元気なかったじゃん。

    夏バテのせいかなぁ、って思ってたんだけど、

    さっきバイトしてる最中に、

    そう言えばお昼のときに何か話したそうにしていたな・・・って、ふと思い出してさ、

    で、

    ひょっとしたら悩んでることがあって、それで元気がなかったんじゃないか・・・って。

    オレがテスト期間中だから、

    だから◎◎は、

    今は我慢して、何も話さないようにしているんじゃないか・・・って”

   “・・・。

    えっと、その・・・”

   “やっぱそうなの? 何かあるの?”

   私、少し迷った。

   でも、

   “うん・・・”って返した。

   お父さん、続けて訊いた、

   “何?”って。

   私、また少し迷ってから、

   “ううん、

    ▽▽のテストが終わってからでいい・・・”って答えた。

   ため息が聞こえた。

   お父さん、私に尋ねた、

   “オレに気を遣ってるわけ?”って。

   私、

   なんて答えたら良いか、分からなかった。

   そのまま黙っていたら、

   お父さん、私に言ったの、

   “じゃあ、いま話してくれ”って。

   “え?”

   “オレに気を遣ってるんだったら、いま話してくれ。

    じゃないと、

    オレは、お前のことが気になってテストに集中できない。

    元気のないお前を放っておいて勉強を頑張るなんて、オレにはできない”

   “・・・でも、

    もしかすると、テスト勉強どころじゃなくなっ――”

   “そんなのどうでもいいだろ。

    落ちたら落ちたで、またあとで取り直せばいい。

    それだけだ。

    お前の方が大切だ”

   “・・・”

   “話してくれ”

   “・・・その、

    電話だと、ちょっと・・・”

   “なら、

    今から・・・は、流石にもう遅いか。

    じゃあ、

    明日、大学のいつもの場所で。

    時間は・・・、お昼休みよりも3コマ目のあとの方が良いかな。

    落ち着いて喋れるし。

    どこか良い場所を見付けて、そこで話そう。

    そっちは来られる? 平気か?”

   “うん、たぶん平気・・・。

    それと、あの、

    話す場所は、できれば周りに人のいないところが・・・。

    他の人には、その、あまり聞かれたくないし・・・”

   “じゃあ、オレの部屋にしよう。

    そこなら――”

   “えっと、

    そこも、ちょっと・・・。

    もしかすると、隣の人に・・・”

   “大丈夫だって。

    小さめの声で話せば全然・・・あ”

   “え、どうしたの?”

   “ごめん、もう切れる。

    じゃ、明日の2時半にいつもの場所。おやすみ”

   ガチャン、と電話が切られたから、

   私も、持っていた受話器を静かに置いたわ。

   そのまま少し、ただボーッとしてたんだけど、

   あ、戻らなきゃ・・・って気が付いて、

   それでその部屋を後にした。

   階段を上ってる途中、

   さっきのお父さんの言葉を思い出して、幸せな気持ちになって、

   でも、

   明日のことを考えた途端、不安になってしまって、

   怖くなって・・・。

   そんな、

   幸せな気持ちと不安な気持ちでゴチャゴチャの、よく分からない状態で部屋に向かっていたら、

   そのうち、何故だか勝手に涙が出てきちゃってね・・・。

   目元を手で拭いつつ、

   足元をよく見て、1段1段慎重に上っていって、

   そうして、

   また、2階の自分の部屋へと戻ったの』

  続きます》」

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