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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
222/292

222.「《『家に帰った私は

「《『家に帰った私は、

   “ただいまー”って言って、2階に上がっていった。

   部屋に戻るとバッグを置いて、

   出入り口のドアを閉めに行ってから、机のイスに腰掛けた。

   扇風機の風に吹かれつつ、

   その、買ってきたばかりの本を開いて読み始めたの。

   まずは、

   自分が妊娠してるかどうかを確かめたかった。

   私が若い頃には、

   今みたいな、誰でも手軽に使うことのできる妊娠検査薬なんて無かったわ。

   少なくとも、

   そこら辺の薬局で一般の人が普通に手に入れられるようなものは無くて、

   だから、

   当時は、妊娠してるかどうかを自分で確かめるには、

   本を読んだり、あるいは誰かに訊いて情報を集め、

   そうして得た情報を元に、自分で推測するしかなかったの。

   書いてある内容は、本を買うときに軽くチェックしていたはずなんだけど、

   全然覚えていなかった。

   人目をすごく気にしていて、緊張していて、

   それで、少しも頭に入ってなかったの。

   また最初から、1ページずつ読んでいったわ。

   妊娠したときの、体に現れる変化のことは、

   イラスト付きで解説されてる、男女の体の構造についての話のあとに載っていた。

   中学とか高校で習ったはずなんだけどね、すっかり忘れていたわ。

   主な体の変化は、

   やっぱり、定期的に来ていた生理がピタッと止まること・・・だった。

   これが一番ハッキリしていて分かりやすく、

   予定日を10日ほど過ぎても来ない場合、妊娠を疑った方が良い・・・って書かれてた。

   本には、その他にも色々な例が挙げられてて、

   ずっと体が熱っぽいまま・・・とか、眠気が強くなる・・・とか、

   あとは勿論、

   朝とかに吐き気に襲われるようになる・・・ってのもあって、

   それ以外では、

   トイレが近くなる・・・とか、

   足がつる(・・)、腰が痛くなる・・・なんてのもあったかな。

   そのときの私が当てはまるのは、

   体がずっと熱っぽいのと、疲れやすいのと、

   あとは、

   (つば)が多くなる、だった。

   唾については、

   言われてみれば少し多いような・・・って程度だったけど。

   でね、本には、

   そのすぐあとに、こう書かれていたわ。

   “ただし、これらの症状のいくつかが見られたとしても、

    本当に妊娠してるかどうかは、まだ分からない。

    医療施設に(おもむ)き、医者に実際に診てもらう必要がある”って。

   思わず、ため息が出た。

   でもね、

   少しだけ元気も出たの。

   “予定日を10日間ほど過ぎても来ない場合”って書かれていた。

   だから、

   まだ2、3日ほど猶予があるんだ・・・って。

   まだ大丈夫なんだ・・・って。

   ちょっとホッとした私は、

   そこで本を閉じて、机の抽斗を開けたんだけど、

   少し考えて、その開けた抽斗をまた閉じたわ。

   そこにしまうのはやめて、

   本棚の大学のテキストの横に、こっそりと並べておいた。

   そうして部屋の絨毯に寝転がって、

   扇風機の風に当たりつつ、外で鳴いてるセミの声を聞いて、

   ただ、ボーッと天井を見上げていたんだけどね、

   ちょっとすると起き上がって、本棚のところへ行ったわ。

   あの本を手に取ると、部屋に寝転んで、

   さっきの続きをまた読み始めた。

   心がくすぐったいような、不思議な感覚だった』

  続きます》」

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