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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
217/292

217.「《『あれは確か・・・、

「《『あれは確か・・・、

   そうね、

   大学での生活にもだいぶ慣れて、仲の良い友達も何人か出来て、

   そうして、少し経った頃だった。

   今と同じ7月の下旬で、セミがうるさくて暑い時期だった。

   私、夜遅くにね、

   部屋で机に向かって、前期試験の提出用のレポートをせっせと書いていた。

   でね、

   一段落ついて時計を見てみたら、午前1時だか2時くらいになっててね、

   手は痛いし、頭もボーッとしてきてたし、

   残りは明日、大学の図書館でやるか・・・って思って、

   シャーペン置いたの。

   両手を上げて、うーん・・・って伸びをして、

   イスから立って、

   目を擦りつつ、1階に下りていって・・・。

   で、

   トイレを済ませて、洗面所に行ってね、

   それから、

   台所に寄ってお水をコップで1杯飲んで、ひと息ついてね、

   ふと思ったのよ、

   なんか、熱っぽいのがやけに長い気がするなぁ・・・って。

   いつからだっけ・・・って少し考えてみた。

   でも、よく分からなかった。

   それで私、

   そのときの今日の日付を思い浮かべて、

   まぁ、いいか、

   ここ最近、試験勉強でずっと寝不足で生活リズムも崩れてたから、

   多分、その影響でまた少し遅れてるんだろうな・・・って結論付けて、

   使ったコップを洗って、大あくびをしぃしぃ台所を(あと)にしたの。

   廊下をペタペタと歩きつつ、

   そういや前回は・・・って思い出そうとして、

   次の瞬間、ハッとした。

   血の気が、サー・・・っと引いていった。

   あれ? ちょっと待って。前にあった日って、確か・・・って。

   前回のときね、

   私、すごく不安だったのよ、

   ちゃんと来るよね、避妊してたし大丈夫だよね・・・って。

   そしたら来てくれて、

   良かった、やっぱり大丈夫なんだ・・・って、ホッと胸を撫で下ろして、

   それ以降はあまり気にしてなかったんだけど、

   でも、その来てくれた日って、

   予定日よりも結構前だったのよ。

   4、5日くらい前だったの。

   だから、

   少し遅れてるんじゃなかったの。

   だいぶ遅れてたの、

   既に、1週間くらい。

   焦ったわ。

   いつの間にか、廊下の真ん中で棒立ちになっていて、

   ただ、ハァハァと呼吸をしていたわ。

   心臓が、大きな音でドキドキと鳴り続けてて、

   頭もクラクラして、

   そのうち、

   少し、フラッときたから、

   取り敢えず、まずは落ち着こう・・・って思ってね、

   それで、

   壁に手をつきながら廊下の奥まで行って、

   そこの階段に腰を下ろしたの。

   で、

   ひと息ついて、確かめ始めたわ、

   ホントにその日で合ってるのかどうか、を。

   でもね、

   前回あったのって、梅雨の真っ最中だったの。

   お腹の痛みがいつもより酷くて、大変で、

   だから、

   色々なことをよく覚えていてね、

   何度も思い返し、何度確かめてみても、

   前回あった日って、やっぱりその日に間違いなかったの。

   やっぱり、

   もう、1週間くらい過ぎてたの。

   はぁ・・・って息をついた。

   どうしよう・・・って思った。

   勿論、

   いつものように、

   ストレスとか生活リズムの乱れで普通に遅れてるだけなのかも・・・という思いも、

   あるにはあったのよ?

   そう思い込んで、自分を安心させよう・・・ともしたの。

   でもね、

   そのときの私、できなかったわ。

   どうしても、

   そういう方へ そういう方へと、考えが行ってしまうの。

   ひょっとして、

   今、自分は妊娠してるんじゃないか・・・って。

   私、

   また、大きな ため息をついたわ。

   絶望でいっぱいだった。

   泣きそうだった。

   もう終わりだと思った。

   でね、

   なんで?、って。

   毎回ちゃんと避妊してたじゃん。

   100%じゃないことは分かってるけどさ、

   でも、なんで?

   私、そんなに悪いことした?

   お父さんだって、

   いつも気を付けて・・・って思ったところでね、

   あれ? そう言えば・・・って。

   なんかね、

   1回ね、ちょっと不自然なことがあったの。

   ふとお父さんの方を見ると、

   お父さん、下を見てモゾモゾと手を動かしていて、

   だから私、

   多分、念のために付け直しているんだろうな・・・って思って、

   そうして、そのときは特に気にしなかったの。

   けどね、

   あれって、もしかして・・・って。

   もしかして、

   こっそり外してたんじゃないか・・・って。

   私、

   いつの間にか真剣に考え込んじゃっていたわ。

   で、

   少ししてからハッと我に返って、

   違う違う、

   そんな人じゃない、そんなことする人じゃない、

   違う違う・・・って。

   お父さんね、

   今でもそうだけど、

   付き合い始めたばかりの頃なんて、

   私のこと、過剰なくらいに気を遣って大切にしてくれてね、

   私がお父さんのアパートから帰るとき、

   “今日はいいよ、ひとりで大丈夫”・・・って、私がいくら言っても、

   お父さん、

   いつも最寄りの駅の改札口まで、私の荷物を持って送ってくれたし、

   ふたりで道を歩いていて、向こうからガラの悪そうな人が近付いてきたときには、

   歩きながらさりげなくそちら側に場所を変わってくれて、

   そうして、私の手をそっと握ってくれたわ。

   そんな人がそういうことをするとは思えなかったし、考えたくもなかった。

   想像なんて、したくなかった。

   けど、さっきもそうだったけどね、

   やっぱり、

   どうしてもどうしても、そういう方へそういう方へと考えが行っちゃうの。

   お父さんのこと、疑いたくなんかなかったけど、

   でも、どうしても疑ってしまうの。

   深夜の薄暗い階段に腰を下ろしたまま、

   家の外でひっきりなしに鳴いてる虫たちの声を他所(よそ)に、

   ひとり、延々と考えていたわ。

   でね、

   しばらくしたらイヤになってきたのと、あとは疲れてきちゃってね、

   もう、いいや・・・って。

   もう夜も遅いし、

   明日レポートを提出したあとで、また改めてじっくり考えよう・・・って思って、

   それで私、

   立ち上がって、階段を上がっていって、

   自分の部屋へと帰ったの。

   寝支度を済ませ、

   お布団に寝転んで、薄いタオルケットをお腹にかけて、

   枕元にある扇風機のタイマーをグイっと回して、

   そうして上を向いて目を閉じたんだけどね、なかなか寝付けなかったわ。

   まだ悶々と考えていて、

   そんなとき、

   あ・・・って気付いたの。

   まだ気持ち悪くなってないじゃん・・・って。

   私、まだツワリになってないじゃん。

   だったら・・・って。

   勿論、

   これからそうなるかも・・・って考えも、ちゃんと頭の片隅にあったわ。

   でもね、

   それでもね、

   ほんのちょっとだけどね、

   私、安心できたのよ。

   ホッとして、

   そしたら、すぐに眠くなってきちゃった。

   明日の予定を思い浮かべつつ、段々と眠りに落ちていって、

   そのときにね、

   ふと頭を(よぎ)ったの、

   お父さんは、どうしよう・・・って。

   もう、言った方が良いのかな・・・って』

  続きます》」

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