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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
215/292

215.「《『その次の日

「《『その次の日、

   6時半になるのを待ってから・・・じゃなかった、

   弟が珍しく長電話してたの。

   で、

   6時半を過ぎてもまだ楽しそうにケタケタ笑ってて、

   ちっとも終わりそうになくて、

   だから私、

   いつもの3点セットを持って、電話の部屋に向かったわ。

   ちょっと離れたところに立って、じぃっとプレッシャーをかけてたら、

   弟が、

   “あ、ごめん。

    お姉ちゃんが彼氏と電話したいんだって。じゃあねー”って余計なこと言って、

   受話器をガチャンと置いて、

   そのままテレビの部屋に走っていってね、

   私、ムッとしたから文句を言おうとしたんだけど、

   でも、

   ふぅ・・・って息をひとつ吐いて、

   早く電話をかけなきゃ・・・って思って、

   それで、

   持っていたものを畳に置いて、電話機も台から下ろして、

   そうして、

   クッションに座って受話器を取って、電話のダイヤルをジーコジーコと回し始めたの。

   最後の番号を回し終えて、受話器を耳に当てて部屋の時計を見上げると、

   6時40分を過ぎてたの。

   いつも通り呼び出し音の1回目でお父さんが出て、

   いつも通りのお決まりのやり取りをふたりで()わしたわ。

   “はい、△△です”

   “もしもし、

    私、○○◎◎と言いますが、

    ▽▽さんはいますか?”

   “あ、オレです。▽▽です”

   で、そのあと、

   私、電話が遅れたことを謝ろうとしたんだけどね、

   でも、お父さんに先に謝られたわ。

   “昨日は、

    えと、その、・・・ごめん”って。

   反射的に、

   “え、なんで?”って訊き返してから、

   あ・・・って気付いた。

   ため口に変えてくれたんだ、って。

   私、一気にご機嫌になったわ。

   嬉しくなっちゃった。

   でね、お父さんが言うにはね、

   昨日はずっと自分ばっかりが喋ってて、私に気を遣うのをすっかり忘れてて、

   それで、ゴメン・・・だって。

   私、聞いてて自然と笑みがこぼれてた。

   すぐに、電話の向こうにいるお父さんに言ったの。

   “ううん、いいの。

    私なんか、その前は2日続けて自分ばっかり喋ってたんだし、

    気にしないで。

    それよりも、

    私の方こそゴメンね、電話するのが遅れちゃって”

   “いや、

    10分くらいなら全然遅れたうちに入らないし、

    それに、6時半ちょうどに電話するとも言ってなかったし、

    別に・・・”

   “でも、ずっと待っててくれたんでしょ?

    電話のそばで、6時半から”

   “あ、いや、

    実はオレ、途中でトイレに行っ――”

   “正直に言って”

   “・・・”

   “お願い”

   “・・・た、確かに待ってたけど、

    別にそんなに苦にしてなかったと言うか、ちっとも怒ってないと言うか、

    まったく問題ないと言うか・・・”

   “遅れちゃってゴメンね”

   “・・・べ、別に全然気にする必要ないし、

    ただ ここに立ってただけだし。

    あ、あぁ、そうだ、

    実はオレ、◎◎さんに言われたから外国の曲を聴き始めてさ、

    それで昨日は・・・”って、

   お父さん、ひとりで勝手に喋り始めちゃったわ。

   照れちゃったみたい。

   その日はそのまま海外のロックバンドの話で盛り上がって、

   それから漫画の話になって、

   前の日の続きを喋って、

   お父さんのオススメ作品をいくつか教えてもらって、ノートにメモして、

   お返しに、お父さんでも気に入ってもらえそうな少女漫画を私も紹介して、

   そのあとは・・・どんな話をしたっけ・・・。

   多分、

   当時流行(はや)ってたテレビ番組とか映画とか、有名人の話とか、

   あとは、

   お父さんのバイト話とか友達の話とか、そんなところかしらね。

   とにかく、ふたりで色々と話をして、

   いつの間にか私、声を上げて笑うようになっていて、

   お父さんも電話の向こうで笑っていて、

   それが嬉しくて、

   時間があっという間に過ぎていって・・・。

   でね、

   電話の向こうから聞こえてきたのよ、

   ゴハンよー・・・って。

   お父さん、すぐに話を中断して私に言ったわ。

   “あ、ごめん。

    ゴハン、出来たみたい”

   “えー”

   “あ、

    いや、でも・・・”

   “ほんとぉ?”

   “え?

    えと、どういう・・・”

   “私、

    前、ウソつかれた”

   “・・・あ、

    こ、今度はホントだってば。

    だ、だって、

    ◎◎さんも聞こえたでしょ? ゴハンよー、って”

   “うん、聞こえてた。

    ゴメンね、

    ちょっと、からかってみただけ”

   “も、もう・・・、

    ◎◎さんも人が悪いなぁ”

   “ゴメンね。

    それに、

    あれは気を遣って言ってくれたんだもんね。

    ありがとね、

    私、嬉しかった”

   “えっと・・・、

    あ、はい・・・”

   そのとき、

   電話の向こうで、また声がした、

   ゴハンよー、聞こえなかったのー、って。

   私、慌ててお父さんに言ったわ。

   “長引かせちゃってゴメンね。

    じゃあ、

    明日も同じ時間に・・・あ、そっか。

    電話するの、明日から夜の9時に変えてもいい?”

   “え?

    別に構わないけど・・・”

   “あとね、

    できれば電話は、自分の部屋とかで待っていて欲しいの。

    そうしないと、

    早くかけなきゃ・・・って、プレッシャーになっちゃうし”

   “だったら、明日はオレの方から電話するよ。

    かけてもらってばかりだと悪いし・・・”

   “えーっと・・・、

    あ、

    ううん、いい。こっちがかける。

    間違って私のお父さんが電話に出ちゃうと、色々と面倒そうだし。

    じゃあ、

    また明日、夜の9時に。

    おやすみなさい”

   “あ、はい。

    おやすみなさい、また明日”

   ホントはね、

   お父さんから電話をかけてもらうのを断ったのは、別の理由があったの。

   ほら、

   私が怒ってお父さんからの電話を切っちゃった日に、

   義姉さんとちょっと喋った、って言ったでしょ?

   私たち、気の合うもの同士ですぐに仲良くなっちゃってね、

   それで、

   毎晩、夜の10時くらいに電話でお喋りするようになったの。

   でね、その3回目くらいのときに、

   私、義姉さんに言ったの、

   “電話代のこともあるし、明日はこっちからかけます”って。

   そうしたら、

   “あー・・・。

    いい、こっちからかけるよ。

    ▽▽と電話するときって、いつも◎◎ちゃんがかけてるんでしょ?。

    それに、

    ◎◎ちゃんがあたしにかけたとき、

    間違って▽▽が出ちゃうと色々と面倒なことになりそうだし。

    あと、言い忘れてたけど、

    ウチに電話するなら、9時以降の方がいいよ。

    多少は安くなるから”って言われて、

   で、

   義姉さんとの電話のときは、義姉さんに電話をかけてもらって、

   その代わり、

   お父さんとの電話はこっちがかけることにしたの。

   でね、

   そうやって毎晩お父さんや義姉さんと電話で話してたら、

   ある日、

   私のお母さ・・・ウサギのお祖母ちゃんに訊かれたの、

   “最近、

    △△さんって人から毎晩電話がかかってくるようになったけど、

    ◎◎の新しい友達?”って。

   “うん”って返したら、

   “あら、そうなの。

    かけてもらってばかりじゃ悪いから、

    たまにはこっちからもかけてあげなさいね”って。

   “大丈夫。

    9時からの電話はこっちからかけてるから”

   “あら、そうだったの、

    ならいいんだけど・・・。

    バイトの友達?”

   “ううん。

    えーっと・・・、少し前にたまたま知り合った人”

   “ご近所さん?”

   “ううん。

    ちょっと遠いところに住んでる”

   “あら、そうなの。

    どこら辺?”

   “どこら辺って言うか、M県の人”

   その瞬間、

   お祖母ちゃんの表情が固まってね、

   “ちょ、ちょっと、

    あなた、

    M県って、まさか九州の人じゃないわよね?”って訊かれたから、

   “ううん、九州の人だよ”って答えたら、

   私、すごい剣幕で怒られちゃったわ、

   “あなた、

    いったい今までいくらかかったと思ってるの!”って。

   知らなかったんだから仕方ないじゃない。

   結局、お父さんとの電話は、

   私がバイト代を少し入れる・・・って条件で、1日10分までに落ち着いたわ。

   でね、話を戻すけど、

   お父さんと打ち解けてきて、ため口で毎晩話すようになって、

   何日か経ったとき、

   不意に、

   あ、そうだ。何か手作りのプレゼントをあげよう・・・って思ったの。

   お父さん、春からこっちの大学に通うことになっていたでしょ?

   話の感じからして、住むところはまだ決まっていないようだったし、

   下宿先を探しに一度こっちに来るはずだから、そのときに渡そう・・・って。

   何にしようかな・・・と考えて、

   ちょっとベタだけど、手編みのマフラーにすることにしたわ。

   帽子とか手袋、靴下も考えてみたんだけど、

   何しろ、その頃の私、

   お父さんの身長や体格がまったく分からなかったし、

   訊いたら訊いたで勘付かれそうだったし、

   だから、マフラーに落ち着いたの。

   ベタにはベタなりの理由があるんだなぁ・・・って思った。

   で、

   いつこっちに来る予定なのかをお父さんから聞いて、

   それから編む気でいたの。

   でね、

   こっちに来る日をお父さんが教えてくれるのを、

   私、ずっと待ってたんだけどね、

   お父さんたら、いつまで経っても言ってこないの。

   下宿先を探しにそっちに行くから一緒に手伝って欲しい・・・って、

   お父さんから言ってもらいたくて、

   それで私、訊かないで待ってたんだけど、

   ある日、ついに我慢できなくなって こっちから話題を振ってみることにしたの。

   “ねぇ、

    下宿先を探しに一度こっちに来るんでしょ?”って。

   そしたら、

   “あ、そうそう。

    実は ずっと言おう言おうと思ってて・・・”って返ってきた。

   “いつ来るの?”

   “あ、

    えと・・・あ、明後日”

   “え・・・”

   “明日の朝に家を出てミヤノサキまで行って、

    そこでお昼に夜行列車に乗り換えて、そのままそっちに・・・”

   “そ、それで、

    こっちには何時に着くの?”

   “えーっと、

    ##大学前の駅に着くのは・・・”

   “そっちじゃなくて夜行列車の方。

    こっちは路線がたくさんあって複雑なの。

    初めてだと絶対迷うと思うから、私が・・・”って口にして、

   あ、しまった・・・って。

   でも、もう あとの祭りだった。

   仕方なく、

   “私が一緒についていって案内してあげる・・・”って続けて、

   心の中で、

   はぁ・・・って、大きなため息ついた。

   “あ、ありがとう。

    実は、◎◎さんに探すのを手伝って欲しいなぁ・・・ってずっと思ってて。

    良かった”

   “・・・それで、

    こっちに何時に来るの?”って私が訊いたら、

   電話の向こうから、

   朝の10時10分だか15分だか、確かそのくらいの時刻が返ってきて、

   で、

   待ち合わせ場所とお互いの目印を決めて、

   “じゃあ、また明日・・・じゃなくて、また明後日。

    待ってるから。おやすみなさい”って、

   受話器を置いて、電話機を台に戻したあと、

   私、ドタドタと台所に走っていったわ。

   “お母さーん。

    私、大急ぎでマフラー編まなきゃいけないんだけど、

    あとで やり方教えてー”って』

  続きます。

  あと、

  ワタシのお母さんがワタシに話してくれた、お父さんとの馴れ()めの話は、

  別にここまで詳しく書かなくても大丈夫なのでカットしても良いのですが、

  気になる人が結構いらっしゃるようなので、このままあと少しだけ続けます》」

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