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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
205/292

205.おー、ホントだー

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 「おー、ホントだー。

│  涼しー。生き返るー」

│ 漫画部屋に入るなり、友達はそう言いました。

│ ワタシは、

│ 部屋の外で戸を開けたまま、

│ 「奥のソファ使って。

│  ワタシ、何か飲み物を持ってくるから」って言いました。

│ すぐ、こっちを振り向いた友達は、

│ 「え?

│  あぁ、えーっと、

│  ・・・じゃ、お願いするでござる」って言いました。

│ ちょっと笑ったワタシは、

│ 「うん、

│  行ってくるでござる」って返して、そのまま戸を閉めました。

│ 台所に行きました。

│ コップに氷を入れ、冷たい麦茶を注ぐと、

│ そのコップを持って、漫画部屋に戻りました。

│ 「サンキュー。

│  ちょっと待って、すぐ終わらせる」

│ ソファに腰掛けていた友達は、

│ 手元のスマホに目を向けたまま、素早く操作しながら、

│ そう言いました。

│ ワタシは、

│ 「じゃ、

│  ここのテーブルに置いとくね」って言って、

│ 麦茶のコップを、ソファの横にあるリビングテーブルの上に置きました。

│ そうして、

│ 布団の脇にあるミニテーブルのところに行って、りんごジュースのコップを拾い上げ、

│ それを持って、ミシン台のところに行き、

│ そこの丸イスに、友達のほうを向いて腰掛けました。

│ りんごジュースを飲みつつ、待っていると、

│ 友達が、

│ 少ししてから顔を上げ、横を向きました。

│ スマホをテーブルに置き、その手で麦茶のコップを掴むと、

│ ゴクゴクと、一気に半分くらい飲みました。

│ コップを下ろし、

│ はぁ・・・って息をついた友達は、

│ ワタシの顔を見て、真剣な様子で尋ねました。

│ 「で、

│  今日、どうだったわけ?」

│ ワタシは、

│ 「うん、あのね・・・」って言って、友達に話し始めました。

│ ツワリの症状が酷くなっていて、

│ 戻してしまう頻度も、前日の夜から増えていること。

│ それを診察のときに先生に伝えたら、

│ 改善しないようなら、近いうちに入院する必要があります、って言われたこと。

│ ワタシが病室で、ひとり点滴を受けているとき、

│ お昼休み中の先生が、ワタシの忘れ物を届けてくれたこと。

│ いつから命があるのか、

│ いつから人になるのか、訊いてみたこと。

│ 先生の好物は、シュークリームなこと。

│ 募金するかしないか・・・を、

│ 先生は、そのときの気持ちの強さで判断していること。

│ ワタシの、産むかどうかの問題についても、

│ 同じように、

│ 気持ちの強さで判断したら良いんじゃないか・・・って言われたこと。

│ 気持ちの強さが、

│ 出産や育児に関わる、様々な我慢を乗り越える上での、

│ 大きな原動力になること。

│ ただ、

│ その、大きな原動力となる気持ち・・・っていうのは、

│ 多分、基本的には本能なので、

│ 自分の意思では、なかなかコントロールできないこと。

│ 仕方ない部分もあると思うので、

│ 産まないことを選択したとしても、自分を責め過ぎないで欲しいこと。

│ 超音波検査の際、妊婦さんに心臓音の波形を見せるか見せないか・・・、

│ 医者として20年近く働いてる今でも、迷う場面があること。

│ 現に、

│ ワタシの検査のときも、少し葛藤があったこと。

│ でも、見せてしまったこと。

│ それで、

│ 不用意に悩ませてしまったかもしれない・・・って、先生に謝られたこと。

│ そうして、それから、

│ 特別養子縁組の子が幸せかどうか・・・を、ワタシが先生に尋ねたことを話すと、

│ 友達がワタシに訊きました。

│ 「特別養子縁組、って何? どんなの?」

│ 「え?

│  ・・・あぁ、そっか、」って言ったワタシは、

│ 「ごめん、

│  その話、飛ばしちゃったみたい」って言いつつ、コップを後ろの机に置き、

│ イスから立ち上がりました。

│ ミニテーブルのところに行って、ポシェットを拾い上げ、

│ 折り畳まれたパンフレットを取り出すと、

│ ポシェットを置いて、

│ ソファの友達のところに行きました。

│ そして、

│ 手を出している友達に、そのパンフレットを渡すと、

│ また、ミシン台のところに戻って、

│ 丸イスに腰掛けつつ言いました。

│ 「特別養子縁組・・・ってのはね、

│  色々な事情で、自分の家では子供が育てられないときのための制度なんだって」

│ 友達は、

│ 渡したパンフレットを開いて、

│ それを、じぃっと読んでいましたが、

│ やがて顔を上げ、

│ すぐ横の、テーブルのほうを見ると、

│ 置いてある自分のスマホを手に取って、指で操作し始めました。

│ ワタシは、

│ 「どうしたの?、急に」って、尋ねました。

│ 友達が答えました。

│ 「この、特別養子縁組の人たちの実際の様子を知りたいな・・・って思ってさ。

│  どんな感じなのか、それを知りたいな・・・って」

│ ワタシは、ゆっくり顔を俯けました。

│ 「あぁ・・・。

│  その、えっとね・・・」って言いました。

│ 友達が、

│ ちょっと間を置いてから、ワタシに訊きました。

│ 「・・・ん? どうした?」

│ ワタシは、

│ 下を向いたまま、息をひとつ吐きました。

│ そうして言いました。

│ 「・・・えとね、

│  そういうのは、もういいの」

│ 「え? どういうこと?」

│ 「ワタシ、

│  もう、産まないことに決めたから・・・」

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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