200.夜の10時51分になりました
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│ 夜の10時51分になりました。
│ ベッドに寝転び、壁掛け時計を見上げていたワタシは、
│ 体を起こしました。
│ 勉強机のところに行き、
│ イスを引いて腰掛け、
│ 机の上にある充電スタンドから、スマホを外しました。
│ 《終わったー、一応だけど》ってメッセージを打ち、友達に送ると、
│ 一瞬で既読になりました。
│ スタンプが2コ、返ってきました。
│ 《お嬢様、お疲れ様でございました》スタンプと、
│ 目をウルウルさせている《良かった》スタンプでした。
│ ちょっと笑いました。
│ 何から説明しようか、迷っていると、
│ 友達からのメッセージが来ました。
│ 《かなり遅かったけど、やっぱ揉めたの?》
│ ワタシは、
│ 少し考えたあと、
│ 《揉めたー。
│ でも、遅くなったのは他に理由があって》って返しました。
│ 《他に理由? 何かあった?》って、すぐに友達から来て、
│ 続けて、
│ 《あ、
│ 私、遅かったのを責めてるわけじゃないよ。
│ ちょっと気になっただけ》って送られてきました。
│ ワタシは、
│ また少し笑ったあとで、友達にメッセージを返しました。
│ 《ワタシ、
│ 話の途中で気分が悪くなって、
│ それで、急いでトイレに駆け込んだの。
│ 長い時間、ひとりでそこで戻してて・・・》
│ 《えー。
│ 長い時間って、どれくらい?》
│ 《30分くらいかな。
│ もしかしたら、もっと長かったかも。
│ で、
│ ちょっと落ち着いてきて台所に戻ったら、
│ お母さんに、
│ 今日はもうお風呂に入って休みなさい・・・って言われて、
│ それで、お風呂に入ろうと思ったんだけどね、
│ 浴室の匂いを嗅いだ途端、うっ・・・てなって》
│ 《あちゃー》
│ 《でね、
│ お風呂に入るのを諦めて部屋に戻ったら、お母さんが来てね、
│ 体、拭いてあげるわ・・・って言ってくれて、
│ 持ってきた手拭いタオルで、ワタシの体を拭いてくれたの。
│ ワタシ、
│ 拭いてもらってる最中に、段々と申し訳ない気持ちになってきちゃって、
│ 自然と泣けてきちゃって・・・》
│ 《別に、あんたが悪いわけじゃないじゃん。
│ 仕方ないよ・・・》
│ 《お母さんも、そう言ってくれたんだけどね、
│ でも、すごく迷惑かけちゃってるなぁ・・・って。
│ で、
│ 体を拭いてもらったら、少し気分もスッキリしたから、
│ それで、
│ 今まで横になって休んでたの。
│ 連絡遅れてゴメンね》
│ 《ううん、
│ 私、そんなの全然気にしてないけどさ、
│ でも、
│ そっかー、大変だったんだ。
│ で、
│ 妊娠のこと、お父さんに伝えたんでしょ?
│ どうなったの?
│ なんか、
│ 揉めた・・・って、さっき言ってたけど》
│ 《うん、揉めたー。
│ ワタシが妊娠したことについては、
│ お父さん、怒らなかったんだけどね、
│ でも、
│ 彼がいなくなって消えたことを話した途端、すごくキレちゃって、
│ テーブルを思いっきり叩いて、
│ “ふざけるな!”って大声で怒鳴って・・・。
│ ワタシ、
│ あんなお父さん、初めて見た。
│ 怖かった》
│ 《そりゃー、普通そうなるよ。
│ で、言ったわけ?》
│ 《言えるわけないじゃん》
│ 《そっかー》
│ 《お父さんには、
│ “堕ろしなさい”って言われた。
│ “明日、病院に行ったとき、
│ 先生に言って、同意書を貰ってきなさい”って》
│ 《お母さんは?》
│ 《お母さんは、
│ “ワタシが産みたいって言ったら産ませる”って言ってた。
│ “当然でしょ?”って》
│ 《もしかして、
│ お父さんとお母さんで修羅場になった、とか?》
│ 《なったなった。
│ で、
│ その途中なの、ワタシの気分が悪くなったのは。
│ すぐにトイレに駆け込んで、ずっと戻してて、
│ それで終了になったの》
│ 《そっかー。お疲れさまー》
│ 《うん。
│ 今日は色々な事があってさ、
│ ワタシ、もう疲れちゃったよ・・・》
│ 《うんうん。
│ 今日は早めに寝て、ゆっくり休んでよ、
│ 明日の第2ラウンドに備えて》
│ 《ちょっとぉ、
│ 最後に気が滅入ること書かないでよ・・・。
│ ワタシを励ましてくれるんじゃなかったの?》
│ 《あはは、ごめんごめん。
│ じゃあ、
│ 明日のカキコは、休み? だよね?》
│ 《うん。
│ 病院に行って、
│ また点滴受けないといけないし・・・》
│ 《終わるの何時?》
│ 《予約の時間が11時だから、
│ 終わるの、2時過ぎくらいかな》
│ 《じゃあ、
│ 明日はカキコが終わったら、チョクであんたの家に行くから》
│ 《うん。
│ ワタシ、待ってる》
│ 《あれ?
│ なんか、今日は やけに素直じゃん。
│ どした?
│ そんなに私が恋しくなった?》
│ 《最初はね、
│ “そんなに無理しなくてもいいよ”って書いて、送ろうとしたの。
│ でも、
│ 逆の立場だったら、ワタシも絶対会いに行くだろうな・・・って思って、
│ で、消しちゃった》
│ 《あ、来てくれるんだ》
│ 《当たり前でしょ》
│ 《そっか。サンキュ。
│ あぁ、それと、
│ ひとつ、訊くのを忘れてたんだけどさ、
│ 歯磨き、って平気?
│ ツワリのせいで気持ち悪くなってしまって、なかなかできない、って人の記事、
│ ネットで読んだけど》
│ 《うん、
│ 実はかなりしんどい・・・》
│ 《なんかね、
│ そういうときは、
│ 歯磨き粉を匂いの少ないものに変えてみたり、
│ もしくは、
│ 歯磨き粉を使わないで、水だけで磨いたりすると良いかもしれないんだって。
│ あとは、
│ 使う歯ブラシを小さくしてみたり、
│ それでもダメなときは、
│ マウスウォッシュ液で簡単に済ませる人もいるみたい。
│ 明日、
│ 学校からの帰りにドラッグストアに寄って、買ってきてあげる》
│ 《ありがと。
│ でも、大丈夫。
│ 今日、ワタシが点滴を受けてる間に、
│ お母さんが買ってきてくれたから。
│ もしかして、
│ 勉強時間を削って、他にも色々と調べてくれてたりするの?》
│ 《勉強時間は削ってないよ。
│ もともと観るつもりだったドラマの時間に調べてたから》
│ 《でも、
│ 録画したのを、あとで観るつもりなんでしょ?》
│ 《大丈夫 大丈夫。
│ 睡眠時間のほうを削るから》
│ 《あ、お肌に響くよ?》
│ 《じゃあ、
│ 学校に行くときの電車の中で観る。問題なーし》
│ 《そっかー、分かった。
│ 今日はありがとね。ちょっと元気出た》
│ 《じゃあ、また明日ね》
│ 《うん、また明日》
│ 続きます。
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