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Summer Echo  作者: イワオウギ
20/289

20.「トイレは、まだ大丈夫?」

「トイレは、まだ大丈夫?」


列に並んで待っていた私は、隣の少年を見て尋ねた。


「へいきー」


少年は、

顔を横に向けたまま、ぶっきらぼうに答えた。

遠くにある何かを、じぃっと見ている。

私も、そちらに目を向ける。


少年は、

ちょっと離れたところの、駅の売店を眺めているようだ。

緑やオレンジ、水色の、

色とりどりの(のぼり)が何本も立てられており、

その幟には、

それぞれ大きな文字で、縦に、

《わさび》《やま柿》《水まんじゅう 一ニヶ入り》といった商品名が書かれている。

店内には、

お土産用のお菓子の、大きな箱が、

所狭しとあちこちに、高く積み上げられていた。

客はいない。

黒い三角巾を頭に巻いた女性店員が、

ひとり、こちらに背中を向け、

カウンターの上にある商品を、せっせと並べ直している。


「トイレには、1時間くらい行けないよ?」


一応、少年に念を押す。


「へいきー」


私は、顔を少年の方に向けた。

少年の横顔を、

しばらくの間、じぃっと見つめる。

少年は、

相変わらず、売店の方を熱心に眺めている。


やがて、

私は、息をひとつ吐くと、

通勤カバンを持つ手を、自分の胸元へと引き寄せた。

すぐさま顎を引き、カバンを見て、

空いてる方の手を、その外ポケットに挿し入れる。

ダム観光のパンフレットを指先で挟み、抜き出すと、

カバンを足元の床へと、

両膝を曲げつつ、ゆっくり下ろしていく。


ふたたび膝を伸ばした私は、

パンフレットを両手で持ち、開いた。

この先の経路を確かめる。


観光バスはムラドウまで。

その所要時間は約50分と、ここに書いてあるから、

到着は、

えーっと、だいたい12時30分になるのか。

で、その次に乗るのは・・・。


「あの・・・」


少年の声が、

ふいに、隣から聞こえてきた。


「ん?」


私は、

パンフレットから目を上げ、少年を見る。

少年は、顔を下に向けていた。

少し、モジモジしている。


「僕・・・、

 あの・・・、その・・・」


「・・・どうしたの?」


「やっぱ、トイレ行ってきていい?」

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