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Summer Echo  作者: イワオウギ
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 2.トミヤマでの私の役目は

トミヤマでの私の役目は、

客先での、とあるシステムの導入作業だった。


元々は、先輩がひとりで行なう予定だった。

ところが、

その先輩に、急な用事が入ってしまった。

都内の会社に、どうしても戻らなければならなくなった。

システムの導入作業は、

まだ、だいぶ残っている。

代わりの者を、すぐに手配しなければ・・・。

それで急遽、私に白羽の矢が立った・・・というわけだった。



仕事の引き継ぎを先輩と行なっているとき、

さりげなく、

その、突然入った急用について尋ねてみたが、

「まぁ、ちょっとね・・・」

と、誤魔化(ごまか)されてしまった。

普段あまり目にしないような、ちょっと暗い表情だった。

それ以上は聞かないことにした。



先輩から引き継いだ作業は、ごく単純なものだった。

基本的には、同じ作業の()り返しだった。

先方のオフィス内で、いつもの紺色の作業着を羽織り、

マニュアル片手に、

朝から夕方まで、ひとりでせっせと行なった。


これが意外と大変だった。

導入とセットアップ、その動作確認に、

1台あたり、20分くらいの時間がかかってしまうことと、

あとは、とにかく台数が多かった。

100台近くあった。

長時間、

ひとりで同じことをずっと繰り返していると、段々と気が滅入(めい)ってきた。

私は、

ときどきイスから立ち上がり、適度に体を動かしつつ、

1台1台、こなしていく。




予定していた作業は、

途中、ちょっとしたトラブルに見舞われたが、

3日目の夜、何とか無事に終わらせることができた。

4日目の朝早くも客先へ出向き、

念のため、トラブルのあったものを点検し、

正常に動作していることを確認すると、

私は先方の責任者に作業完了の報告をし、建物を出た。


外は、思ったよりも明るくなっていた。

ちょっと眩しかった。

目を細めた私は、

建物の脇の、影になっている場所へ移動する。

そして、

ズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、

都内の会社に電話をかけた。

先輩が出た。

「待って。こっちからかけ直す」


すぐに電話が切られ、

数秒後、持っているスマートフォンがブルブルと震え出した。

画面の受話器を指でタップした私は、そのスマートフォンを耳に当てる。

「もしもし」


「助かったよ、お疲れ様」

電話の先輩の声は、

徹夜のためか、ちょっと(かす)れていた。

でも、その口調は、

ゆうべのときと比べて、だいぶ明るくなっていた。

ようやく進展があったのかもしれない。


私は、

そのまま先輩に作業完了の報告をしたあと、電話を上司に代わってもらった。

スマートフォンを耳に当てたまま、待っていると、

やがて、上司の元気な声が聞こえてきた。

私の背筋が思わず伸びる。


「おう、お疲れ。

 そろそろホームシックにかかっただろ?」


「え?。

 あ、はい、少し寂しいです」


「そうだろ。

 ほっかほかの仕事をたっぷり用意して待ってるぞ」


「あ、いや、

 やっぱり寂しくないです・・・」


「そんな悲しいこと言うなよ。

 仕事の方も、お前に会いたがっているぞ」


私は、思わず苦笑いしてしまった。

上司は勤務中は厳しいのだが、

それが終わった後は、いつもこんな調子だった。

相変わらずだな・・・と思いつつ、

上司にも、作業が無事に完了したことを告げた。


「・・・はい、分かりました。

 じゃあ、このまま家に帰って良いのですね?」


「そう。会社には戻らなくて良いから」


「分かりました」


「仕事が恋しかったら、会社に帰ってきても良いんだぞ?」


私は、再び苦笑いした。

「遠慮します」


「何だよ、冷たいヤツだなぁ。

 あぁ、そうだ、

 明日からは土日で休みだし、

 せっかくだから、ついでに帰りに何か観ていけよ」


「え?。あ、はい。

 ・・・請求内容は研修費で良いですか?」


「あぁ、構わないよ。

 ただし、

 そのときは、みんなの前で研修内容をじっくりと報告してもらうからな」

覚悟しておけよ、と笑って返されてしまった。

私が冗談を言っても、

いつも最後は、結局こうやってやり込められてしまう。

かなわない。


上司とは、

そのあと、二言三言()わして、

私は通話を終わらせた。

ふぅ・・・と、息を吐き、

スマートフォンをズボンのポケットに入れた。


さて、ホテルに戻ろう。

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