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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
197/292

197.台所に、再び沈黙が訪れ

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 台所に、再び沈黙が訪れ、

│ 聞こえてくる音が、外で鳴く虫の声だけになりました。

│ ワタシは下を向き、

│ テーブルの手前と膝上で握った自分の手を、ずっと見ていました。

│ お父さんの顔は、怖くて見れませんでした。

│ 少ししてから、

│ ワタシは、(つば)を飲み込みました。

│ ごくん・・・って喉が鳴って、

│ また、聞こえる音が虫の声だけになりました。

│ 重苦しい時間が流れました。

│ 「・・・びょ、病院にはもう行ったのか?」

│ お父さんが、

│ しばらくしてから、そう訊きました。

│ ワタシは、

│ 下を向いたまま、「うん・・・。」って返し、

│ 「今日、

│  お母さんと一緒に行ってきた・・・」って言いました。

│ すぐにお父さんが言いました。

│ 「母さんと?

│  おいおい、オレは何も(しら)されてないぞ。

│  どうして父さんだけ、のけ者――」

│ そのお父さんの言葉を遮り、お母さんが言いました。

│ 「私もね、

│  今日の午前中にね、ウサギに初めて聞かされたのよ、

│  妊娠してるかもしれない・・・って」

│ 「そ、そうなのか・・・」

│ 「そう。

│  でね、ちょっと確認してみたら、

│  この子、病院にはまだ行ってない・・・って言うじゃない。

│  だったら、

│  妊娠した・・・って、まだ決まったわけじゃないし、

│  すぐに病院に行って、先生に診てもらわないと・・・ってことで、

│  それでこの子に病院に連絡させて、

│  午後に、ふたりで行ってきたの」

│ 「なら、

│  行く前にひと言ぐらいオレにも・・・、」って口にしたお父さん、

│ そこで、ため息をひとつつきました。

│ そうして、

│ 「まぁ、

│  それを言われたところで、

│  会社にいるオレには、確かにどうしようもないか・・・」って続けて、

│ それから、

│ ワタシに訊きました。

│ 「ウサギ、

│  で、病院の先生に診てもらった結果は・・・、

│  あぁ、そうか、

│  妊娠してたんだな? そうだな?」

│ ワタシは、

│ 「うん・・・」って返しました。

│ 間がちょっとありました。

│ お父さんの声が聞こえてきました。

│ 「・・・おめでとう」

│ ワタシは、

│ また、

│ 「うん・・・」って返しました。

│ お父さんが尋ねました。

│ 「それで、

│  妊娠は、いま何週目ぐらいなんだ」

│ ワタシは答えました。

│ 「だいたい、

│  7週目くらい、かな・・・」

│ 「そうか・・・。

│  で、お前はどうしたいんだ。相手の・・・、」って口にしたお父さんは、

│ 「あぁ、そうか・・・、」って言って、

│ 少し笑って、

│ それから、更に続けました。

│ 「ごめんごめん、うっかりしてたよ。

│  妊娠してる、って突然言われちゃったもんだから、

│  父さん、驚いちゃってさ、

│  肝心なこと訊くの忘れてたよ。」

│ ワタシは、

│ 膝上の手を固く握り締めました。

│ お父さんが尋ねました。

│ 「それで、

│  相手の男はどんな人なんだ?

│  名前は?」

│ 「・・・」

│ 「ん? どうした?

│  名前は?」

│ 「・・・〇〇さん」

│ 「下の名前は?」

│ 「××」

│ 「そうか、××くんか。

│  それで、その××くんはどんな人なんだ?

│  高校の同級生か?」

│ 「あ、えっと、

│  ちょっと年上の人で、その・・・」

│ 「年上って、何歳だ?」

│ 「27」

│ 「27か・・・。

│  ちょっと離れすぎな気がするけど、

│  まぁ、でも、

│  今の時代だと、割と普通のことなのかな・・・」

│ 「・・・」

│ 「その年齢だと、

│  たぶん、大学生じゃないんだよな?

│  ・・・職業は?」

│ 「職業、って言うか、

│  普段は、その、色々なところでバイトしてて・・・」

│ 「・・・派遣か?」

│ 「うん・・・」

│ 「父さん、

│  派遣だからどうこうってことをあまり言うつもりもないけれど、

│  でも、

│  将来的には、何かしらの決まった職に就いてほしいな。

│  なるべく、だけどな。

│  そっちの方が、やっぱり親としても安心できるからな」

│ 「・・・」

│ 「で、

│  ウサギと××くんは、どうしようと思ってるんだ?」

│ 「・・・」

│ 「大丈夫だよ、怒ったりしないから」

│ 「・・・」

│ 「ほら、言ってみなさい。

│  どっちの答えだったとしても、

│  父さんも母さんも、

│  できるだけ、ウサギと××くんをサポートするから。

│  約束する。

│  だから、

│  ほら、言ってみなさい」

│ 「・・・いなくなったの、〇〇さん」

│ 「は?

│  ・・・えっと、」

│ そう言ったきり、お父さんは黙ってしまいました。

│ 台所は、

│ また、静まり返りました。

│ 外で鳴く虫たちの声だけになり、

│ 少ししてから、お父さんの声が聞こえてきました。

│ 「ごめんな、ウサギ。

│  父さん、

│  どうしても、悪い方に悪い方に考えちゃってさ・・・」

│ 「・・・」

│ 「××くんがいなくなった・・・って、

│  さっきウサギ、そう言ったよな?

│  それって、

│  いったい、どういうことだ?」

│ 「・・・」

│ 「連絡も無しに、

│  勝手にどこかへ消えた・・・ってことか?」

│ ワタシは、

│ 下向いたまま、小さく頷きました。

│ お父さん、すぐに訊きました。

│ 「いつだ?」

│ 「・・・多分、

│  一昨日(おととい)くらい、だと思う」って返しました。

│ 「多分?

│  なんで多分なんだ」

│ 「・・・えと、

│  一昨日(おととい)の夕方ね、

│  ワタシ、調子が悪くて家で寝てたんだけどね、

│  そしたら、

│  〇〇さんのアパートに友達が行って、様子――」

│ 「なんで急に友達が出てきた」

│ 「あ、えと・・・、

│  友達にはね、

│  もともと、ワタシの妊娠のことで色々と相談に乗ってもらっててね、

│  それで・・・」

│ 「・・・それで、

│  一昨日(おととい)の夕方、

│  お前の友達が××のアパートに行って、それからどうなったんだ」

│ 「・・・」

│ 「どうなったんだ!」

│ 「・・・えと、

│  呼び鈴を押しても反応がなくて、

│  だから、

│  外に回って、アパートの部屋を見上げてみたら、

│  前の日には窓にあったカーテンが、そのときには外されてて、

│  部屋の明かりも――」

│ 「引っ越して逃げたということか!」

│ 「え、えと、

│  その、・・・多分」

│ 「妊娠した途端、お前を捨――」

│ お父さんは、

│ そこで、思いっきりテーブルを叩きました。

│ 物凄い音がして、

│ シーンとして、

│ また、虫の鳴き声だけになって、

│ 少ししてから、コップの割れた音が聞こえました。

│ 台所に、お父さんの大声が響きました。

│ 「ふざけるな!!!」

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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