表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Summer Echo  作者: イワオウギ
V
196/292

196.また、ベッドで横になっていると

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ また、ベッドで横になっていると、

│ 階段を上がってくる音が聞こえ、

│ 間があってから、

│ 部屋のドアがノックされました。

│ お母さんの声がしました。

│ 「ウサギ、入るわよー」

│ ワタシは、

│ 「あ、うん」って返事をしつつ、体を起こしました。

│ ドアが開き、

│ お盆を片手で抱え持ったお母さんが現れました。

│ 「どう? 少しは良くなった?」って訊きながら、部屋に入ってきました。

│ ワタシは、

│ 「うん、少しだけ・・・」って返しつつ、お母さんのほうに向き直し、

│ 足を床に下ろしました。

│ お母さんは、

│ ドアを閉めると勉強机のところに行き、持っているお盆を置きました。

│ ワタシを見て、

│ 「ウサギ、

│  食べられるかどうか分からないけど、

│  冷奴(ひややっこ)とオクラのおひたし。

│  知ってる?

│  ショウガってね、ツワリの症状を軽くする効果があるんですって。

│  それで少しマシになった人、多いんですって」って言いました。

│ 「あ、

│  うん、ありがと」って返しました。

│ 「りんごジュースもあるからね。

│  あぁ、それとも、

│  氷のほうが良かったかしら」

│ 「ううん、

│  りんごジュースでいい。

│  それに、

│  もし氷のほうが良さそうだったら、あとで自分で取りに行くし」

│ 「そう、分かったわ」

│ 「あの・・・」

│ ワタシは、

│ 戻ろうとしていたお母さんを呼び止めました。

│ お母さん、

│ すぐにこっちを振り返り、

│ 「ん? 何?」って訊きました。

│ ワタシは言いました。

│ 「お父さんは?」

│ 「お父さん?

│  あぁ、まだお風呂よ。

│  でも、

│  そろそろ出てくるんじゃないかしら」

│ 「・・・8時くらいでいいかな?」

│ 「そうねぇ、

│  それくらいの時間なら、ちょうどいいかもね」

│ 「・・・お父さん、怒ると思う?」

│ ワタシがそう訊くと、

│ 少し間があって、

│ 「・・・多分ね」って返ってきました。

│ ワタシは、

│ 大きなため息をつきました。

│ 「やっぱ、そうだよね・・・」って言ったあとで、

│ もう一度ため息をつきました。

│ お母さんが、

│ 少しして、ワタシの名前を呼びました。

│ 「・・・ウサギ」

│ 驚いたワタシは、

│ 「え? 何?」って言って、顔を上げました。

│ お母さん、ワタシを見て言いました。

│ 「いい?

│  あなたもお兄ちゃんも、

│  私にとっては、かけがえのない大切な子供なの。

│  世界で一番大事な宝物なの。

│  どんなことがあっても あなたたちのことを見捨てたりはしないわ、絶対に」

│ 「・・・」

│ 「お父さんだって(おんな)じよ。

│  あなたたちは、

│  世界で一番大事な、かけがえのない宝物なの。

│  だから、

│  あなたたちのことを絶対に見捨てない。

│  何があったとしても、

│  ちゃんとあなたたちのことを支えてくれるわ、絶対に。

│  それだけは、しっかりと心に留めておきなさい。

│  分かった?」

│ ワタシは、

│ 「・・・うん」って返しました。

│ お母さんが言いました。

│ 「さぁ、

│  お父さん、もうお風呂から出てきたみたいだし、

│  台所に戻らないと。

│  ご飯、無理して食べなくていいからね。

│  ダメそうだったら、ちゃんと残しておきなさいよ?

│  いいわね?」

│ 「うん・・・」

│ お母さん、

│ ワタシの返事を聞くと、部屋を出ていきました。

│ ドアを閉め、

│ 階段を下りていきました。

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 夜の8時になりました。

│ ベッドに腰掛け、時計を見上げていたワタシは、

│ 下を向き、息をひとつ吐きました。

│ そうして、

│ 少ししてから立ち上がると、

│ 部屋の出入り口のほうへ歩いていき、ドアを開け、

│ それから、

│ 机の上にあったお盆を持って、部屋を出て、

│ 1階に下りていきました。

│ 台所に入ると、

│ エプロン姿のお母さんはシンクで洗い物をしていて、

│ パジャマ姿のお父さんは、

│ テーブルのイスに座り、新聞を広げて読んでいました。

│ ワタシは、

│ 持っていたお盆をテーブルに置きました。

│ 食器棚の抽斗(ひきだし)を開け、ラップを出すと、

│ お父さんが、新聞を畳みながら言いました。

│ 「お。下りてきたのか。

│  体、大丈夫なのか」

│ ワタシは、

│ 「あ、

│  うん、大丈夫・・・」って返しました。

│ 顔をこっちに向けたお母さんが、すぐに戻して、

│ 食器を洗いながら言いました。

│ 「あら、

│  ちょっとは食べられたのね」

│ 「うん・・・、

│  お豆腐だけ、ちょっと・・・」

│ 「ジュースは、

│  半分くらい飲めたのね」

│ 「うん、

│  なんとか・・・」

│ 「そう」

│ ワタシは、

│ 息を止め、冷蔵庫を開けると、

│ お盆の上の小皿とコップを中に入れて、冷蔵庫を閉めました。

│ 箸とスプーンを洗い桶に入れ、

│ お盆とラップを戻し、

│ テーブルのイスをズズズッ・・・と引いて、お父さんの正面に座りました。

│ お父さんが、コップの麦茶をひと口飲み、

│ そのコップを置いたあとで、ワタシに言いました。

│ 「・・・なんか、

│  あんまり大丈夫そうに見えないんだが、

│  ホントに大丈夫なのか。

│  別に、無理して今日話さなくてもいいんじゃないか?」

│ 「・・・」

│ ワタシが、

│ 下を向いたまま、黙っていると、

│ お父さんが息をひとつ吐き、

│ そうして言いました。

│ 「・・・で、

│  父さんに話ってなんだ?

│  長くなる、って、さっき上で言ってたけど」

│ 「・・・」

│ 「ん? どうした?」

│ 「・・・」

│ そのままワタシが黙っていると、

│ 洗い物を終えたお母さんが、ワタシの隣のイスを引き、

│ そこに腰掛けました。

│ お父さんが言いました。

│ 「な、なんだよ、ふたりして。

│  そんな神妙な顔して、急にどうしたんだ・・・」

│ 「・・・」

│ 「い、言っとくけどな、

│  父さん、別にやましいことなんてひとつも無いからな。

│  ホントだからな」

│ 「・・・」

│ 「あ。

│  あぁ、あれか。もしかして、あれだろ?

│  紹介してくれるんだろ?、付き合ってる彼氏を。

│  父さん、

│  お前が勉強さえしっかりしてくれるのなら、

│  受験中とか、そういうの一切気にしないから、

│  だから――」

│ 「あの・・・」

│ 「ん?」

│ 「あのね・・・、

│  そうじゃないの・・・。

│  その、なんて言うか・・・」

│ 「・・・もしかして」

│ 「・・・」

│ 「もしかして、イジメか?

│  イジメなのか?

│  クラスメートか誰かから酷いイジメを受けてて、

│  それで精神的に参っ――」

│ 「違うの! そうじゃないの!」

│ 大声を出し、お父さんの言葉を遮ると、

│ お父さんは、

│ 少ししてから、

│ 落ち着いた声で、ワタシに尋ねました。

│ 「・・・違う?」

│ ワタシは、

│ 下を向いたまま、黙って頷きました。

│ お父さんが言いました。

│ 「じゃあ、なんだって言うんだ。

│  そんなあらたまった顔して、いったい何を言おうとしてるんだ、

│  ウサギは」

│ 「・・・」

│ 「・・・」

│ ちょっとしてから、

│ コップの浮いた、微かな音が聞こえました。

│ ゴクゴクという音がして、

│ ふぅ・・・って、息をついた音がして、

│ それから、

│ コップがテーブルに置かれた音がしました。

│ 外では、

│ 夏の虫たちが、リーンリーンと鳴いてました。

│ たくさん鳴いてました。

│ お父さんもお母さんもワタシも、黙ってました。

│ 沈黙が続きました。

│ しばらくして、

│ ワタシは、気を落ち着けるために呼吸を少し繰り返しました。

│ その後、口を小さく開け、

│ 何回も躊躇(ためら)ったあとで、ようやく声に出しました。

│ 「あ、あの・・・、

│  お父さん、あのね・・・」

│ 「・・・うん」

│ 「・・・」

│ 「どうした?

│  言ってごらん? 大丈夫だから」

│ 「あのね、

│  ワタシね・・・、」

│ そう口にしたワタシは、

│ 膝上の自分の手をギュッと握って、息をひとつ吐いて、

│ その後、

│ 大きく息を吸って、止めて、

│ そうして、

│ 続きの言葉を、思い切って言いました。

│ 「ワタシ、

│  そ、その、

│  に、妊娠してるの・・・」

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ