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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
194/292

194.友達が、前日に観たテレビの

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 友達が、前日に観たテレビのバラエティ番組の話をしていました。

│ 「でね、

│  動物園に着いたら、

│  “あなたの、実は今まで隠してたすごい特技って何?”ってお題が出されてね、

│ 芸人さんたちが自分の答えをフリップに書き始めたの」

│ ワタシは、

│ 「うんうん、それで?」って先を促しました。

│ 友達は話を続けました。

│ 「端っこの席に座ってた人が、

│  “はいっ、出来ました!”って言って手を挙げてね、

│  MCの人、

│  その芸人さんを当てて、こう言ったの。

│  “お前だけ、まだ0ポイントのままなんだけどさ、

│   それ、本当に大丈夫なの?”

│  “大丈夫ですって。

│   オレ、自信あります。

│   これ、絶対に正解ですから!”

│  “ほんとぉ?”

│  “はい!

│   信じてください、お願いします!”

│  “じゃあ・・・、

│   あなたの、実は今まで隠してたすごい特技って何?”

│  でね、その当てられた芸人さんが、

│  “はい!

│   今までみんなに隠してたオレの特技はこれです!”って言ってね、

│  持ってたフリップをひっくり返したんだけど、

│  そこにね、

│  大きくこう書いてあったの、・・・ラクダって」

│ ワタシは、

│ 口元を手で押さえ、笑いを(こら)えながら言いました。

│ 「ラクダって特技じゃないじゃん。

│  ただの動物の名前じゃん。おかしー」

│ 「でしょでしょ?

│  でね、

│  他の芸人さんたちが色々文句を言い始めたの。

│  “特技がラクダって、

│   技の要素がどこにあるんだよ。教えてくれよ”

│  “と言うか、

│   クイズの正解以前に、そもそも日本語として不正解だろ”

│  “どうせただのラクダのモノマネだろ? 素直にそう書けばいいじゃねーか。

│   前に出て、ちょっとやってみろよ”

│  “そうだそうだ、やってみろ”」

│ 「うんうん、それでー?」

│ 「でね、

│  MCの人が、持っているピコピコハンマーで前を指して言ったの。

│  “・・・やってみて”

│  芸人さん、

│  “はいっ、分かりました!

│   オレの特技、見ていてくださいよぉ?

│   ホントすごいですから”って、

│  前に出て、4つ足で歩き始めたんだけどね、

│  なんか、ちょっと変なの。

│  左手と左足を一緒に前に出して、次は右手と右足を一緒に前に出して・・・って、

│  ちょっと踊ってるみたいに歩いてたの。

│  他の芸人さんたちが、また騒ぎ始めてさ。

│  “なんだなんだ、その変な歩き方は”

│  “卒業式のときのオレの歩き方じゃねーか”

│  “ふざけてないでちゃんと歩けよー”

│  で、

│  ラクダをしていた芸人さんが言い返したの。

│  “お前ら、知らねーのか!

│   ラクダはな、こうやって歩くんだよ!”

│  すぐにMCの人が、隣にいる飼育員さんに確認したの、

│  “そうなんですか?”って。

│  そしたら、飼育員さんが、

│  “はい、そうです。

│   ラクダだけじゃなくて、

│   ゾウやキリンなどの大型の動物は、だいたいこの歩き方です。

│   側対歩(そくたいほ)って言います”って説明してくれて、

│  みんなが、“おおー”ってなって、

│  ラクダ中の芸人さんは、

│  “ほらな!

│   だからオレの特技って言ったろ?

│   これ、完っ全に正解ですよね? ね? ね?”って。

│  でね、

│  MCの人、その芸人さんに言ったの。

│  “鳴いてみて”

│  “え?”

│  “鳴いてみて。

│   自分の特技なんだから、できて当たり前でしょ?”

│  “・・・ヒ、ヒヒーン”

│  “飼育員さん、

│   これ、合ってます?”

│  そうしたら、

│  隣の飼育員さん、笑いを一生懸命に(こら)えててさ、

│  “ま、間違ってます、

│   それ、馬です・・・”って」

│ 友達は、

│ 最後の方はほとんど笑い声になってましたが、どうにかそう言いました。

│ ワタシも口元を手で押さえて、一緒になって笑いました。

│ 友達が、

│ ちょっとしてから目尻の涙を指で拭いて、

│ 「あー、おっかしー」って言って、

│ ベッドの上のスマホを拾って、画面を見ました。

│ そうして、

│ スマホを元の場所に置くと、再び話を始めました。

│ 「でね、

│  その続きがまた面白くてさぁ・・・」

│ ワタシは、窓の外に目を向けました。

│ 空が少し暗くなってきていました。

│ すぐに、部屋の壁掛け時計を振り返りました。

│ 7時ちょっと前でした。

│ ワタシは、

│ 友達の方を向いて言いました。

│ 「ねぇ、

│  そろそろ帰った方が・・・」

│ 「ん?

│  私、まだ大丈夫だけど」

│ 「でも・・・」

│ ワタシがそう言うと、

│ 友達が、

│ 少し間を置いてから、

│ 「・・・お父さんって、

│  いつも、何時に帰ってくるの?」って訊きました。

│ 「だいたい7時くらいだけど・・・」

│ 「なら、

│  私、もう少しここにいる」

│ 「えと、あのね・・・」

│ 「ん?」

│ 「ワタシ、大丈夫だから。言えるから。

│  お母さんもいるし・・・」

│ 「・・・」

│ 「ありがとね」

│ 「・・・」

│ 友達は、

│ ワタシの顔をじっと見ていましたが、

│ やがて、

│ 息をひとつ吐くと横を向き、ベッドの上のスマホを拾いました。

│ そして、

│ 「ん、分かった。じゃ、帰る」って言って、

│ バッグを持って立ち上がりました。

│ ふたりで部屋を出て、階段を下りて、

│ 玄関に行きました。

│ 友達が、

│ 自分の靴を履きながら、

│ 「終わったら必ず連絡してよ?

│  遅くなってもいいから」って言って、立ち上がりました。

│ ワタシは、

│ 友達のバッグを渡しつつ、

│ 「うん、分かった。

│  連絡する」って言いました。

│ 「明日も、また来るから」

│ 「うん、ありがと」

│ 「私、

│  何があっても、あんたの味方だからね」

│ 「うん」

│ 「頑張って。応援してる」

│ 「うん。

│  ワタシ、頑張る・・・」

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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