194.友達が、前日に観たテレビの
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│ 友達が、前日に観たテレビのバラエティ番組の話をしていました。
│ 「でね、
│ 動物園に着いたら、
│ “あなたの、実は今まで隠してたすごい特技って何?”ってお題が出されてね、
│ 芸人さんたちが自分の答えをフリップに書き始めたの」
│ ワタシは、
│ 「うんうん、それで?」って先を促しました。
│ 友達は話を続けました。
│ 「端っこの席に座ってた人が、
│ “はいっ、出来ました!”って言って手を挙げてね、
│ MCの人、
│ その芸人さんを当てて、こう言ったの。
│ “お前だけ、まだ0ポイントのままなんだけどさ、
│ それ、本当に大丈夫なの?”
│ “大丈夫ですって。
│ オレ、自信あります。
│ これ、絶対に正解ですから!”
│ “ほんとぉ?”
│ “はい!
│ 信じてください、お願いします!”
│ “じゃあ・・・、
│ あなたの、実は今まで隠してたすごい特技って何?”
│ でね、その当てられた芸人さんが、
│ “はい!
│ 今までみんなに隠してたオレの特技はこれです!”って言ってね、
│ 持ってたフリップをひっくり返したんだけど、
│ そこにね、
│ 大きくこう書いてあったの、・・・ラクダって」
│ ワタシは、
│ 口元を手で押さえ、笑いを堪えながら言いました。
│ 「ラクダって特技じゃないじゃん。
│ ただの動物の名前じゃん。おかしー」
│ 「でしょでしょ?
│ でね、
│ 他の芸人さんたちが色々文句を言い始めたの。
│ “特技がラクダって、
│ 技の要素がどこにあるんだよ。教えてくれよ”
│ “と言うか、
│ クイズの正解以前に、そもそも日本語として不正解だろ”
│ “どうせただのラクダのモノマネだろ? 素直にそう書けばいいじゃねーか。
│ 前に出て、ちょっとやってみろよ”
│ “そうだそうだ、やってみろ”」
│ 「うんうん、それでー?」
│ 「でね、
│ MCの人が、持っているピコピコハンマーで前を指して言ったの。
│ “・・・やってみて”
│ 芸人さん、
│ “はいっ、分かりました!
│ オレの特技、見ていてくださいよぉ?
│ ホントすごいですから”って、
│ 前に出て、4つ足で歩き始めたんだけどね、
│ なんか、ちょっと変なの。
│ 左手と左足を一緒に前に出して、次は右手と右足を一緒に前に出して・・・って、
│ ちょっと踊ってるみたいに歩いてたの。
│ 他の芸人さんたちが、また騒ぎ始めてさ。
│ “なんだなんだ、その変な歩き方は”
│ “卒業式のときのオレの歩き方じゃねーか”
│ “ふざけてないでちゃんと歩けよー”
│ で、
│ ラクダをしていた芸人さんが言い返したの。
│ “お前ら、知らねーのか!
│ ラクダはな、こうやって歩くんだよ!”
│ すぐにMCの人が、隣にいる飼育員さんに確認したの、
│ “そうなんですか?”って。
│ そしたら、飼育員さんが、
│ “はい、そうです。
│ ラクダだけじゃなくて、
│ ゾウやキリンなどの大型の動物は、だいたいこの歩き方です。
│ 側対歩って言います”って説明してくれて、
│ みんなが、“おおー”ってなって、
│ ラクダ中の芸人さんは、
│ “ほらな!
│ だからオレの特技って言ったろ?
│ これ、完っ全に正解ですよね? ね? ね?”って。
│ でね、
│ MCの人、その芸人さんに言ったの。
│ “鳴いてみて”
│ “え?”
│ “鳴いてみて。
│ 自分の特技なんだから、できて当たり前でしょ?”
│ “・・・ヒ、ヒヒーン”
│ “飼育員さん、
│ これ、合ってます?”
│ そうしたら、
│ 隣の飼育員さん、笑いを一生懸命に堪えててさ、
│ “ま、間違ってます、
│ それ、馬です・・・”って」
│ 友達は、
│ 最後の方はほとんど笑い声になってましたが、どうにかそう言いました。
│ ワタシも口元を手で押さえて、一緒になって笑いました。
│ 友達が、
│ ちょっとしてから目尻の涙を指で拭いて、
│ 「あー、おっかしー」って言って、
│ ベッドの上のスマホを拾って、画面を見ました。
│ そうして、
│ スマホを元の場所に置くと、再び話を始めました。
│ 「でね、
│ その続きがまた面白くてさぁ・・・」
│ ワタシは、窓の外に目を向けました。
│ 空が少し暗くなってきていました。
│ すぐに、部屋の壁掛け時計を振り返りました。
│ 7時ちょっと前でした。
│ ワタシは、
│ 友達の方を向いて言いました。
│ 「ねぇ、
│ そろそろ帰った方が・・・」
│ 「ん?
│ 私、まだ大丈夫だけど」
│ 「でも・・・」
│ ワタシがそう言うと、
│ 友達が、
│ 少し間を置いてから、
│ 「・・・お父さんって、
│ いつも、何時に帰ってくるの?」って訊きました。
│ 「だいたい7時くらいだけど・・・」
│ 「なら、
│ 私、もう少しここにいる」
│ 「えと、あのね・・・」
│ 「ん?」
│ 「ワタシ、大丈夫だから。言えるから。
│ お母さんもいるし・・・」
│ 「・・・」
│ 「ありがとね」
│ 「・・・」
│ 友達は、
│ ワタシの顔をじっと見ていましたが、
│ やがて、
│ 息をひとつ吐くと横を向き、ベッドの上のスマホを拾いました。
│ そして、
│ 「ん、分かった。じゃ、帰る」って言って、
│ バッグを持って立ち上がりました。
│ ふたりで部屋を出て、階段を下りて、
│ 玄関に行きました。
│ 友達が、
│ 自分の靴を履きながら、
│ 「終わったら必ず連絡してよ?
│ 遅くなってもいいから」って言って、立ち上がりました。
│ ワタシは、
│ 友達のバッグを渡しつつ、
│ 「うん、分かった。
│ 連絡する」って言いました。
│ 「明日も、また来るから」
│ 「うん、ありがと」
│ 「私、
│ 何があっても、あんたの味方だからね」
│ 「うん」
│ 「頑張って。応援してる」
│ 「うん。
│ ワタシ、頑張る・・・」
│ 続きます。
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