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Summer Echo  作者: イワオウギ
V
189/292

189.検査が一旦終わり

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 検査が一旦終わり、

│ 診察室には、ワタシとお母さんだけになりました。

│ イスに座って、

│ ここ1ヶ月の、ワタシと彼の間にあったことをお母さんに話してると、

│ 後ろで、トントン・・・ってノックの音がしました。

│ 返事をして振り向くと、廊下側のドアがガラガラッと開きました。

│ さっきの看護師さんが立っていて、

│ 「準備が整いましたので、こちらの内診室にお越しください。

│  手荷物は、大事なもの以外はカゴに置いたままで大丈夫です。

│  あとで、また戻ってきますので」って言いました。

│ ワタシは、

│ 「は、はい、

│  分かりました」って返事しながら立ち上がり、

│ 看護師さんの方へ向かおうとしたのですが、

│ カゴが載ってる台を蹴っ飛ばしてしまい、

│ あ・・・って思った瞬間、

│ 足がもつれ、床に手をついてしまいました。

│ 「す、すみません」って、慌てて立ち上がり、

│ カゴの載ってる台を元の場所に戻しました。

│ かなりパニクってて、

│ あれ? ワタシ、何するんだっけ・・・って、必死に考えていると、

│ お母さんの声が聞こえてきました。

│ 「ほら、内診室に行きましょ。

│  手術とかじゃなくて、単に先生に診てもらうだけなんだから、

│  そんなに心配しないでも大丈夫よ。

│  昔、私が診てもらったときも、

│  別に、なんともなかったわ。

│  大丈夫よ。

│  ほら、行きましょ」

│ ワタシは、

│ 息をひとつ吐いて頷き、顔を上げました。

│ 廊下で待ってくれている看護師さんの方へ、

│ お母さんと一緒に歩き出しました。

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

│ 次いで、最後の超音波検査が始まりました。

│ ワタシは、

│ 近くの壁に据え付けられている、大きなモニターを見ていました。

│ 画面には、

│ 左端に、

│ 色々な英単語と数字が、縦にズラズラッと表示されていて、

│ 左端以外の、残りの広い場所には、

│ ワタシのお腹の中の白黒映像が、大きく映し出されていました。

│ カーテンの向こうにいる先生が、明るい声で言いました。

│ 「あ、いたよー」

│ 画面中央に、

│ そら豆みたいな形の、黒いものが映っていました。

│ そして、

│ そのそら豆の少し(くぼ)んだ部分の、すぐ内側に、

│ 薄っすらと白い、小さな丸いものと小さな(まゆ)みたいな何かが、

│ 仲良く並んでくっ付いてました。

│ 「あの、そら豆みたいな黒いのですか?」

│ ワタシがそう訊くと、

│ 先生が答えてくれました。

│ 「それは胎嚢(たいのう)って言ってね、羊水の入ってる袋だよ。

│  超音波の映像だと、

│  液体は黒く、固体は白く映るんだ。

│  だから、

│  あなたの赤ちゃんは、こっちの小さいの」

│ そら豆みたいな形の胎嚢の近くに、矢印のカーソルが現れました。

│ そうして、

│ 胎嚢の、

│ 少し凹んだ内側に仲良く並んでくっ付いてた、2つの小さい白いものに、

│ 矢印のカーソルは近付いていき、

│ その2つのうちの、繭みたいな方の周りをクルクルと回りました。

│ ワタシは、

│ 「えと、その隣にある丸いものは・・・」って訊きました。

│ すぐに先生が答えてくれました。

│ 「あぁ、

│  それは卵黄嚢(らんおうのう)って言ってね、赤ちゃんのお弁当みたいなものだよ。

│  赤ちゃんは、最初のうちはここから栄養を貰うんだ」

│ お母さんが尋ねました。

│ 「先生、

│  赤ちゃんは、今どれくらいの大きさなんですか?」

│ 「あ、ちょっと待ってくださいねー。

│  まずは、

│  赤ちゃんの心臓の音を確かめますので」

│ ワタシは驚き、

│ 「え。

│  心臓って、もう動いてるんですか?」って訊きました。

│ 先生が答えました。

│ 「この感じだと動いてるよー。

│  ちょっと待っててねー。今、モニターに出すから」

│ そう言われ、壁のモニターを見ていると、

│ 画面が左右に2分割になり、

│ 今まで映っていた お腹の中の白黒映像は、左半分に表示されるようになりました。

│ 反対側の右半分は真っ暗でしたが、

│ でも、よく見ると、

│ 下の方に、薄っすらと横線が引かれていました。

│ そして、

│ さっきの矢印カーソルが、

│ 画面の左半分に映っている、繭みたいな赤ちゃんの下へ移動し、

│ 十字マークがそこに現れ、

│ 矢印カーソルが、今度はそのまま画面の上の方へと移動し始めると、

│ 残されている十字マークから伸びた点線の先っぽが、その矢印を追っていき、

│ そうして、

│ まっすぐ点線が、赤ちゃんを(また)ぐようにして現れました。

│ 先生の声が聞こえてきました。

│ 「お、動いてる動いてる。

│  ほら、モニターの右半分を見てごらん。

│  さっきまでと違って、白い波形が映っているでしょ?

│  赤ちゃんの心臓の音だよ。分かるかな?」

│ ワタシは、

│ 画面の右半分に目を向けました。

│ 真っ暗な背景に、

│ 同じ形をした白い大きな波が、横に5つくらいズラッと並んでいて、

│ 黒い縦の帯が、

│ その5つくらいの白い波の左から右へ、また左から右へと、

│ 一定の速度で動き続けていました。

│ 黒い縦帯は、新たな白い波形を上書きするために動いていて、

│ そこからは、

│ 同じ形をした大きな波が、次から次へと現れてきていました。

│ 1回も途切れることなく、少しも休むことなく、

│ 同じリズム、同じペースで、

│ いくつもいくつも、繰り返し繰り返し、

│ 左から右へ、また左から右へと、

│ 新しい大きな白い波は、

│ そうして、ずっと現れ続けていました。

│ いつまでも止まりませんでした。

│ 不思議な感覚でした。

│ その、新しい波が続々と上書きされていく様子をぼーっと見ていると、

│ 先生の声が聞こえてきました。

│ 「赤ちゃんの大きさは、だいたい10mmですね。

│  7週目としては、平均的な大きさです」

│ ワタシのすぐ近くで、お母さんの声がしました。

│ 「10mmって言うと1cmね。

│  どれくらいかしら?

│  1円玉・・・は、

│  確か、もうちょっと大きかったはずよねぇ」

│ カーテンの向こうから、先生の声が返ってきました。

│ 「手の小指の爪が、

│  ちょうどそれくらいの大きさですよ」

│ ワタシは、

│ 自分の手の小指の爪を、じっと見ました。

│ 少ししてから顔を上げ、

│ 壁にあるモニターの、左半分の、

│ 薄っすらと白い、(まゆ)みたいな小さい赤ちゃんを見て、

│ そうして、また少ししてから、

│ 再び、モニターの右半分に目を向けました。

│ 横へ横へと動いている黒い縦帯からは、

│ 同じ形の、新しい大きな白い波が、

│ 今も、

│ 規則正しい同じリズムで、次々と上書きされていました。

│ 不思議な感覚でした。

│ 続きます。

└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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