188.僕からの質問は以上です
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│ 「僕からの質問は以上です。」
│ そう言った先生は、
│ パソコン画面に向かって、そのままキーボードを叩き続けながら、
│ 「今の段階で、
│ 僕に何か訊きたいこと、あるいは言っておきたいことなどはありますか?
│ 検査がすべて終わったあとにも、
│ また、こうしてお話することになりますので、
│ そのときに訊いてもらっても構いませんが・・・」って尋ねました。
│ ワタシは、
│ 「あ、えーと・・・。
│ はい、たぶん大丈夫だと思います」って返しました。
│ 先生が、
│ 片手でマウスを操作し、もう片方の手でときどき文字を打ち込みつつ、
│ 「お母様はどうですか?」って尋ねました。
│ お母さんが答えました。
│ 「大丈夫です」
│ 「分かりました。」って言った先生は、
│ マウスをカチカチッ・・・と鳴らしました。
│ ふぅ・・・って息をつき、
│ その後、
│ イスを回してこちらに向き直すと、ワタシたちを見て言いました。
│ 「では、
│ 既にちょっとしてもらってますが、これから検査を始めますね。
│ 検査は、
│ このあと説明する、超音波検査などの内診室で行なうもの以外は、
│ 体重測定や血圧測定のような簡単なものばかりですし、
│ 痛みも、
│ せいぜい、血液を採取するときにチクッとする程度です。
│ そんなに怖がらなくて大丈夫ですからね。
│ できるだけリラックスして受けてください。
│ 体重測定など、内診室で行なうもの以外については、
│ 全て、そこの看護師さんにしてもらいます。
│ 彼女の指示に従ってください。
│ 何かあったときは、遠慮なく彼女に申し付けて下さい。
│ ここまでは宜しいでしょうか」
│ ワタシもお母さんも、
│ 大丈夫です、って返しました。
│ 先生が、
│ 分かりました、って言って、
│ そうして、
│ 「では、検査の説明ですが・・・」って、
│ 各検査の詳しい説明を始めました。
│ それぞれ、
│ どういった検査なのか、何故それをする必要があるのか、
│ 分かりやすく、丁寧に教えてくれました。
│ それと、
│ 女の看護師さんがついていてくれる、って聞いて、
│ ちょっと安心しました。
│ 「・・・あと、電話をかける等の目的で一時的に外に出る際は、
│ ウチの看護師にひと声かけてからにしてくださいね。
│ それと、
│ 検査結果についての僕からの説明は、
│ 内診室からこの部屋へ戻ってきて行ないますが、
│ そのときには、
│ お母様も、できるだけ同席するようにしてください。
│ 娘さんと一緒に話を聞いてもらいたいので。
│ 質問はありますか?」
│ 説明を終えた先生が、そう訊きました。
│ お母さんが言いました。
│ 「あの、
│ 娘の検査の間は、やっぱり私は部屋の外にいた方がいいのでしょうか」
│ 「あぁ、そうか、
│ 多分、説明し忘れてましたね、
│ すみません。
│ 検査の間は、部屋の外にいる必要はありません。
│ できることなら、娘さんと一緒にいてあげてください。
│ その方が、娘さんとしても安心でしょう」
│ 「分かりました」
│ 「他には?」
│ 「いえ、大丈夫だと思います」
│ 「ウサギさんは?」
│ そう訊かれたワタシは、
│ 少ししてから、
│ 「・・・大丈夫です」って返しました。
│ 正直、
│ 緊張してて、質問が思い付きませんでした。
│ 先生が言いました。
│ 「まぁ、さっきも言ったけど、
│ 分からないことや不安なことがあったら、
│ その都度、遠慮せず訊いて。
│ 僕でもいいし、看護師さんでもいいし」
│ 「はい、分かりました」って、ワタシが返すと、
│ 先生は、
│ 「よし、」って言って、
│ デスクの方へ、イスを回しました。
│ そのまま立ち上がり、
│ パソコン画面を見ながら、マウスをカチカチッ・・・と鳴らすと、
│ 「じゃ、あとは宜しくー」って言いながら頭を上げ、
│ 向こうへ歩いていき、
│ デスクの奥にあったドアを開け、部屋を出ていきました。
│
│ その後、看護師さんに血圧を計ってもらっているときでした。
│ お母さんが、看護師さんに尋ねました。
│ 「今日って、
│ 先生は、あの男の先生おひとり?
│ 随分と忙しそうにしてたけど・・・」
│ 看護師さんは答えました。
│ 「午前中は臨時の先生がお見えになっていましたので、ふたりでしたよ。
│ もう帰られたので、今はひとりですが・・・」
│ 「じゃ、
│ 院長先生は、今日はお休みなのね」
│ 「え?
│ 先ほどの先生が、当院の院長ですよ?」
│ 「あらやだ、そうだったの。
│ 院長先生は女の人って、
│ 前に、誰かに聞いたような気がしたもんだから・・・」
│ 「先代の院長が女性の方でしたので、
│ もしかしたら、その人のことかもしれませんね。
│ それって、いつ頃の話ですか?
│ ・・・はい、もういいですよ。お疲れ様でした」
│ 「そうねぇ、
│ 言われてみれば、確かにかなり昔よね、
│ 何しろ、その奥さんの産んだときの話だから。
│ えーと、
│ 上の子は、もう中学に通ってるはずだから、
│ 13年前とかかしら・・・」
│ 「でしたら、
│ お母様の聞いた院長の話は、きっと先代のことだと思います。
│ ちなみに、
│ 先ほどの先生は、その先代の院長のご子息にあたる方ですよ」
│ 続きます。
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